【レポート】

インタラクティブ社会とコモンズ型社会基盤

1 情報基盤技術と次世代メディアで社会問題をインタラクティブに解決する社会

    山田久美  [2004/01/27]

    1月22日と23日の2日間にわたり、慶応義塾大学三田キャンパス東館で、21世紀COEプログラム 国際シンポジウム「インタラクティブ社会とコモンズ型社会基盤」が開催された。これは慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科を拠点とするプログラム「次世代メディア・知的社会基盤」が主催したもので、同プログラムは2002年、文部省21世紀COEプログラムの1つに採択されている。

    今回のシンポジウムの趣旨は、次世代の情報技術やそのアプリケーション、それらを用いた実証実験がわれわれの社会にどういった影響をもたらすかなどについて、これまでの研究成果を踏まえながら考察しようというもので、2年間の教育研究活動の集大成となっている。同研究メンバーに加え、海外からも各分野を代表する研究者が多数迎えられ、セッションに参加した。

    テーマの中核となっているのが、「インタラクティブ社会とコモンズ型社会基盤」だが、これは、情報基盤技術と次世代メディアを活用することによって、現代の社会的問題をインタラクティブに解決できるような社会を目指そうというもの。「コモンズ型社会基盤」とは、コミュニティや組織などの情報や経験を共有資源として、社会的イノベーションを起こすことで、社会的問題を解決することを意味している。

    シンポジウムは、第1部「インタラクティブメディアの可能性:個人からの出発」、第2部「インタラクティブな信頼と安心できるシステム」の2部構成となっており、2日間で計8セッションが開催された。

    初日の22日に開催された第1部「インタラクティブメディアの可能性:個人からの出発」で行われたのは、
    1.「インタラクティブメディアとコモンズ型社会」
    2.「知とその表象のための技術」
    3.「身体知・行動理解・ヒューマンインタフェース」
    4.「先進的なメディアデザイン」
    の4セッション。

    また、23日に開催された第2部「インタラクティブな信頼と安心できるシステム」で行われたのは、
    5.「インタラクティブな学習システムに向けて」
    6.「テクノロジーによる安心と社会的受容」
    7.「環境マネジメントとコミュニティ形成」
    8.「全体のまとめとこれからの課題」
    の4セッションである。

    本来ならば、全セクションについて紹介したいところだが、今回のレポートでは、筆者が聴講した4.先進的なメディアデザインと7.環境マネジメントとコミュニティ形成についてお届けしたい。

    4.先進的なメディアデザインでは、「グローバルで普遍的なデジタルテクノロジの環境における知的で洗練されたメディアデザインとは何か?」というテーマでセッションが行われた。 講演者は、慶応義塾大学 環境情報学部教授兼政策・メディア研究科委員の奥出直人氏、同じく環境情報学部教授の稲蔭正彦氏、政策・メディア研究科教授の小檜山賢二氏、政策・メディア研究科教授のScott S. Fisher氏で、司会は環境情報学部教授兼政策・メディア研究科委員の千代倉弘明氏

    ○奥出直人氏「ボクダナ」・「TOMOB」

    奥出直人氏の講演で興味深かったのが「ボクダナ」。これは、未来の新しい本棚に関する提案で、各個人が所有している本棚を介してコミュニケーションを図ろうというものだ。近い将来、すべての本にRFIDタグが装着されるようになれば、本がネットワーク上に乗ることが可能になるため、多くの人たちと、ネットワークを使って、自分の本棚を見せ合うことができるようになるというわけだ。そのことにより、本を通じたコミュニケーションができるようになり、新しい本の発見にもつながるという。

    また、友達ブラウザ「TOMOB( トモブ )」は自分のブログや日記サイトの記事情報、メッセンジャーのメンバーリストを利用して、友達の友達を検索したり、自分と友達の関係を知ることができるようにすることで、友達の輪を広げていけるというもの。

    どちらも、新技術を使った新しいコミュニケーションの方法がテーマとなっている。

    ○稲蔭正彦氏「Surroundingsプロジェクト」・「Cafe Tools」

    稲蔭正彦氏の講演では、「Contents is King( コンテンツは王様だ )」とし、コンテンツを使っていかに人を楽しませるか、人と人とをつなげていくかといったことをテーマにした研究成果が紹介された。

    例えば、自分たちが暮らしている街の中に、ITを駆使してコミュニケーションを生み出すためのシカケを作っていこうという「Surroundingsプロジェクト」の中で、学生によってアイデアが出されたという「残り香」は、なかなか会えない友達同士が、カフェなど共通して訪れる場所を通じて互いの存在を確認できるというもの。あるカフェの決まったテーブルに座ることで、その痕跡( 残り香 )をデジタルデータとして残すことができ、次に友達が同じ場所を訪れると、そのテーブルに表示されたデジタル画像の花の開き具合や本数などによって、友達のカフェの利用頻度や最近いつ訪れたかなどがわかるのだという。

    環境情報学部の稲蔭正彦教授の講演で紹介された「Cafe Tools」。恋人同士の会話に勝手に参加するランプ

    また、面白かったのが、「Cafe Tools」。これは、カフェに設置されたテーブルや椅子、ランプが、そこを訪れた人たちに対し、それぞれの人に合ったさまざまな演出をしてくれるというもの。例えば、恋人同士が話をしているテーブルに設置されたランプが、2人の会話(音の速度や波形など)に反応し、明るさをリアルタイムに調整して、その場の雰囲気を演出してくれるという。2人の会話が弾めば明るくなり、しんみりとしていれば暗くなるなど、ランプも2人の会話に一生懸命参加しているようで、なかなか微笑ましかった。このランプを使えば、商談なども有利に進めることができるようになるかも知れないという。

    ○小檜山賢二氏「Micro Archiving」

    小檜山賢二氏の講演では「Micro Archiving」が紹介された。

    政策・メディア研究科教授の小檜山賢二氏の「Micro Archiving」による昆虫の3Dモデル。中には200枚以上のデジカメ画像を使ってコラージュしたというものもあるという

    日常の環境に存在するが、肉眼では見えないものを認知できるための技術、言い換えれば、ミクロの世界を自然に観察したり、インタラクティブに動いたりすることができる技術のことを「Micro-Presence」と呼ぶが、Micro Archivingとは、そういったミクロの世界をデジタルでアーカイブするための3Dモデルを簡単につくることができる技術のこと。通常、ミクロを対象とした高解像度の3Dモデルを作ることは非常に難しいが、Image-Based Modelingの原理に基づいて開発した3Dスキャナー、特別な照明の下で撮影したデジタル画像、さらに独自に開発した画像編集ソフトを駆使することで、正確な3Dモデルを簡単に作成することができるようになったという。

    講演では、デジカメで撮影した200枚以上の画像をコラージュして作成したという昆虫の3Dモデルなどが紹介された。3Dモデルには動きをつけることも可能で、本物の昆虫が動いているようなリアルさがあった。小檜山氏のホームページ上には、Micro Archivingで作成された数々の昆虫の3Dモデルが掲載されているので、是非、訪れてみて欲しい。この技術を応用すれば、バーチャルミュージアムや立体の昆虫図鑑なども簡単に作ることができそうだ。

    ○Scott S. Fisher氏

    バーチャルリアリティーの第一人者、Scott S. Fisher氏

     

    立体映像技術の専門家でバーチャルリアリティーの第一人者、また世界的に有名なメディア・アーティストでもあるScott S. Fisher氏による講演では、携帯電話やPDAなどモバイルメディアに関する研究内容が紹介された。

    同氏によれば、モバイルメディアには、
    (1)このフィールドはまだ揺籃期にあり、古い技術を新しいプラットフォームに無理やり導入しようとしている
    (2)進化が非常に速い
    (3)他のメディアと比べて社会的影響力が強い
    という3つの特徴があるという。

    Scott S. Fisher氏が手掛けた「Wearable Environmental Media Project」

    同氏は、講演の中で、六本木ヒルズで試験サービスが行われている「R-クリック」や小田急電鉄でサービスが提供されている「グーパス」など携帯電話を使った新たなサービスの出現を例に挙げ、モバイルメディアを使うことで、リアルな場所にバーチャル情報を付加し、利用することができると紹介した。さらに、リアルとバーチャルの融合と、その線引きをどこに置くべきかについても言及した。1997年にマイケル・ダグラスが主演した映画「GAME」を例に取り、リアルとバーチャルの区別がつかなくなることに対する危惧を述べた。確かに、今後、技術が進み、両者の区別がつかなくなり、さらに、バーチャルがリアルの世界に影響を及ぼすようなことになれば、われわれは何を信じたらよいかわからなくなる可能性も十分にある。今後、真剣に取り組んでいかなければならない問題であろう。

    (山田久美 k-yamada@pc.mycom.co.jp)

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