日本の5Gは2020年春の商用サービス開始に向け、準備が着々と進められている状況です。では一体、日本では5Gによって何を目指そうとしているのでしょうか。総務省の発表資料などから、国の考え方を確認しておきましょう。

少子高齢化による社会課題をデジタル化で解決へ

世界的に出遅れているとされる日本の5Gですが、それでもすでに5Gに用いる電波の割り当ては完了しており、楽天モバイルを含む携帯大手4社は5Gのプレサービスやさまざまな実証実験を実施しています。2020年の商用サービス開始に向けた準備は着実に進みつつあるようです。

では、そもそも日本では5Gで何を目指そうとしているのでしょうか。携帯各社への電波割り当てを実施した総務省の方針を確認するに、一言で表すならば「地方創生」ということになるでしょう。

日本で現在、最も大きな社会課題となっているのは少子高齢化と、それに伴う人口の急速な減少、労働者人口の減少です。その影響を最も強く受けているのが、高齢化の加速と人口流出が著しい地方であることから、地方の課題を解決することが強く求められているのです。

そのために必要とされているのがICT技術の活用によるサイバー空間とフィジカル空間の融合、つまり社会のデジタライゼーションです。最近ではAI技術やIoTなどの活用により、従来人の手が必要とされてきた第1次・2次産業や、教育、医療など生活に欠かせない、さまざまな要素のデジタル化が可能になってきています。

そうしたことから、日本政府はデジタル化の推進によって社会全体を効率化することにより、地域の課題を解決し社会の活性化を進める「Society5.0」を打ち出し、その実現に向けた取り組みを進めているのです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第3回

    総務省「地域力強化プラン」より。5Gのほか、AIやIoT技術などを活用したデジタル化によって「Society 5.0」を実現することにより、少子高齢化の加速で地方が抱える社会課題の解決につなげようとしている

そのSociety 5.0を実現するためのネットワークインフラとして、期待が寄せられているのが5Gです。理由は5Gが高速大容量通信に加え、低遅延、多数同時接続といった特徴を同時に兼ね備えており、自動運転や遠隔医療、ドローン、ロボットなど、Society 5.0に欠かせない技術の実現に必要不可欠な存在となり得るからです。

国の方針は免許割り当て審査にも影響

総務省が2019年4月に携帯大手4社に対して実施した5Gの電波免許の割り当てに関しても、そうした国の方針が強く反映されています。その方針が強く影響しているのが、総務省が電波免許割り当てに関する審査条件を、従来と大きく変えてきたことです。

それはエリアカバーに対する考え方です。4Gまでの電波免許割り当て審査に関しては「人口カバー率」、つまり人のいる場所をいかに多くカバーするかを審査基準としてきました。しかし、5Gは社会全体を支えるインフラにすることが想定されており、それは必ずしも人がいる場所だけに限りません。例えば、自動車やドローンの遠隔操作で5Gを利用するケースを考えた場合、人が住んでいない道路などもエリアとしてカバーしなければ、対応することができないでしょう。

そうしたことから5Gでは、全国を10km四方のメッシュで区切り、そのうち山岳地帯や海水面などを除いた事業可能性のある4500のメッシュについて、5年以内にその地域の基盤となる「高度特定基地局」を整備することを条件としたのです。人が住んでいるかどうかに関係なく、事業の可能性がある場所をできるだけ多くカバーすることで、地方でも5Gの活用を推し進めることを狙っている訳です。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第3回

    総務省「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設に関する指針について」より。5Gの電波免許割り当て審査に関しては、人口カバー率ではなく全国10km四方のメッシュで区切ったエリアへの高度特定基地局設置を求めている

しかも、4社に対する審査において差がついた要素の1つとなったのが、5G基盤展開率であったようです。実際、各社が申請した5年以内の5G基盤展開率を見ると、NTTドコモが97%、KDDIが93.2%だったのに対し、ソフトバンクが64%、楽天モバイルが56.1%と、かなりの開きがありました。

そのため、実際の免許割り当てに際しても、NTTドコモとKDDIが要望通り3つの帯域の免許割り当てを受けたのに対し、ソフトバンクと楽天モバイルは2つの帯域の割り当てにとどまっています。特にソフトバンクは、NTTドコモやKDDIと同様3つの帯域を希望していたのですが、基盤展開率の差で希望通りの割り当てを受けることができませんでした。こうした点からも、総務省が5Gにおいて、いかに地方を重視しているかを見て取ることができるでしょう。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第3回

    総務省「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」より。5G基盤展開率が高い2社が希望通り3つの周波数帯を確保することとなった

とは言うものの、この点は人口が少ない地方への投資を抑えたい携帯電話会社にとって大きな負担になるのもまた事実です。それゆえ、今後は従来のように1つの会社で全国のインフラを整備するのではなく、複数の会社が共同で鉄塔などのアンテナ設備や、基地局などのインフラ設備を整備・運用することで、コストを削減しながらエリアカバーをしていく「インフラシェアリング」が進められると見られています。

実際、総務省では2018年より5Gでのインフラシェアリングに向けた議論を進めているほか、KDDIとソフトバンクは2019年7月、両社が保有する基地局資産を相互利用して地方の5Gネットワークの早期整備を進めるという発表も実施しています。地方を重視する国の方針によって、今後携帯電話のインフラ整備の在り方も大きく変わることになるかもしれません。