注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の“テレビ屋”は、現在放送中のドラマ『私のおじさん~WATAOJI~』(毎週金曜23:15~ ※一部地域除く)のテレビ朝日・貴島彩理プロデューサー。旋風を巻き起こした『おっさんずラブ』を手がけたことでも知られるが、この作品の成立やブームの背景には、周囲や世の中の“温かさ”があったという――。


■BLの意図は全くなかった

テレビ朝日の貴島彩理プロデューサー

貴島彩理
1990年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、12年テレビ朝日に入社し、『お試しかっ!』『日曜×芸人』などのバラエティ番組を担当。4年目でドラマ制作部に異動し、『オトナ高校』(17年)で連続ドラマ初プロデュース。大きな話題となった『おっさんずラブ』(18年)は、「東京ドラマアウォード2018」グランプリ、「2018新語・流行語大賞」トップテンなどを受賞。個人でも「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」ブレイクドラマ制作賞、「2019年エランドール賞」プロデューサー奨励賞。現在放送中の『私のおじさん~WATAOJI~』を担当し、今後も『劇場版 おっさんずラブ(仮)』(19年夏公開)が控える。

――当連載に前回登場した日本テレビの橋本和明さんが「『おっさんずラブ』の企画書をなんで書こうと思ったのか。批判されるかもしれないとか、いろいろ考えた上で、ちゃんと踏み切って、しかもコミカルに描ききったのが、本当にプロデューサーの腕一つだと思うんです。読後感の良いドラマに仕上がっていて、この人すごいなと思いました」とお話ししていました。

ありがとうございます。もともと恋愛ドラマに挑戦したい!という思いがあって、男女働く現代の恋愛観をどこか切り取ったドラマを作りたい…と思って考えついた企画でした。

私自身は主人公・春田(田中圭)と同じく、果てしなくダメ人間なんですが、幸い女友達にすごく恵まれておりまして。旅行の前に持ち物リストをLINEで送ってくれたり、家に泊まりに行ったら夕飯とお布団が用意されて、朝起こしてくれたらご飯ができてたり…「マジで!?妻!!」みたいな。もしも彼女と結婚したら絶対幸せだと思うし、私も彼女も幸せにしてあげたい。もう彼女のために超稼ぐぜ!って純粋に思ったのがきっかけでした。牧(林遣都)は春田にとってそういう存在で、恋愛の守備範囲の土俵にいなかったのに、明後日の方向からやってくる。そんな中で、主人公が「人を好きになるとはどういうことなのか」という当たり前の問いに向き合っていく…というのが『おっさんずラブ』のお話。よくBLという括りをされるのですが、そういう意図は全くありませんでした。

――同性愛という一種のセンシティブな題材を描くにあたって、批判がくるのではないかという懸念もなかったんですか?

でも最初に単発(16年12月)を作ったときはあくまで「恋愛ドラマ」だと思っていて、正直あまり深くまで考えられていなかったのですが、連ドラ化が決まった時には『隣の家族は青く見える』(18年1月期、フジテレビ)や『弟の夫』(18年3月、NHK)といった作品が増えてきて、急にセンシティブなテーマとして扱われるようになったイメージはありました。なので、あらためて誰かを傷つけるドラマにしたくないなと思いました。

――その企画書を通してくれたテレ朝さんの編成も、批判を恐れずに通してくれたわけですね。

温かい会社だなぁと思います(笑)。若手トライアル企画という枠を与えられて3つ企画書を出したのですが、自分で1つ好きなのを選んでやってもいいよと言ってくださって。そのうち1つが『オトナ高校』(17年10月期)で、もう1つが今放送している『私のおじさん~WATAOJI~』の原型だったんです。

――『オトナ高校』でも、同性愛をテーマにした回がありましたよね。

そうなんですが、それも結果そうなっただけで…『オトナ高校』も恋愛ドラマ・学園ドラマをやりたかったという気持ちから生まれたドラマです。

■視聴者の声から“円盤に字幕”実現

――あらためまして、“おっさんずラブ旋風”を振り返って、いかがですか?

実は反響をこんなにも頂いたのは最終回が終わった後で、放送中は「数字低いけどブレずに頑張ろう!」という感じでした(笑)。まさかこんなに大きく世の中に広がってゆくとは予想もしておらず、ありがたい気持ちと共に、今も地に足がついてないような感じです。授賞式などで人前に立たせていただいても、緊張して何をしゃべっていいか分からないし、「一体なぜここに立ってるんだろう…」と遠い目になってしまったり(笑)。でも思い返せば、本当にキャストの皆のおかげだなぁと心から思います。企画書だけ見れば突飛な内容に見えるところを、全員が全力真剣に演じていただいた結果、各キャラクターが視聴者の皆さまに愛されたというのが一番大きな要因だと思うので、キャストの皆に日々感謝しています。

――ブームの背景に、SNSという存在も大きかったですか?

そうですね。“応援隊”がネットの中にいてくださる!ということを、このドラマを通して初めてガッツリ感じさせていただきました。6話でTwitterの世界トレンド1位を取ったときに「7話も取らせてあげないとかわいそうだ」という方々がいらっしゃって、「何時にこのハッシュタグを付けて、このツイートを…」ってスケジュールまで立ててくださっていて、もうビックリして! そういう弱小高校野球部や地下アイドルを応援するような温かい空気があったと思います。

――インスタグラムの裏アカウント「武蔵の部屋」が本アカウントを超えるという珍事もありました。

あれもビックリしました。3話の放送後くらいで急にフォロワーが増えて、本アカウントが抜かれたときは、ちょっと悔しいというか、変な気持ちになりました(笑)。「武蔵の部屋」も緻密な戦略があったというよりは、宣伝部の皆さんと打ち合わせしてる中で「あったら面白いんじゃない?」くらいのノリで始めて、30人くらいフォロワーがいる“知る人ぞ知る”アカウントにしよう~くらいに思っていたので、完全に予想外でした。

――Blu-ray・DVDには日本語字幕を収録しましたよね。SNS上で「#おっさんずラブ円盤にバリアフリー字幕を」というハッシュタグの運動が起こっていましたが、それを受けて実現したんですか?

はい、うちの視聴者センターにもたくさんのお問い合わせをいただいて、DVDチームが頑張ってくださいました。通常はご意見をいただいても必ず実現できる…というわけではないんですが、DVDチームのメンバーが熱い人たちばかりで、自分の時間を削って作ってくださいました。アドリブも多かったので、正確に字幕に起こすのは大変だったと思うのですが、それでも全部収録してくださって。社内の応援もとても大きくて、何事も「やってみよう」とフットワーク軽く協力してくださったので、それに支えられたと思います。

――流行語大賞の表彰式で「テレビ業界なのか、日本なのかの温かい変化みたいなものを個人的に感じております」とおっしゃっていたのが印象的でした。

つい最近までは指標が視聴率しかなかったので、数字が振るわなかったのにこんなに評価していただける…なんて、今までだったらあり得なかったように思います。数字ではない指標が生まれたこと、そして男性同士の恋愛を涙ながらに応援してくださる視聴者が多くいる…という時代性に、このドラマは巻き込んでいただいたようにも思えて、ああいうスピーチになりました。

――『おっさんずラブ』が変えたのではなく、世の中が変わってきている中に、うまく乗ることができたと。

そういう印象が大きいです。このドラマを良いと言ってくださる人がたくさんいるなら、たぶん日本はそれだけ優しい国なんだなって。もっと言えば、今の10~30代くらいの人たちは、そもそもLGBT含め様々な“人々の違い”をタブー視していないようにも思います。自分自身も思い返せば、そういう友人もいたように思いますが、特に気にしたことはなかったなと…。友達になったのが先なので、特段確認すらしなかったです。

  • 『おっさんずラブ』
    「天空不動産」に勤務する春田創一(田中圭)、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、牧凌太(林遣都)がピュアな恋愛を繰り広げるドラマ。2018年4月期に連ドラが放送され、19年夏に続編となる劇場版が公開予定。 (C)テレビ朝日

■『おっさんずラブ』グループLINEは今も毎日会話が

――そして、夏には映画が公開されますね。シーズン1の最終回で春田と牧が結ばれましたが、続編をどう描くかという悩みはありますか?

みなさまの期待に応えたいと思うともちろん悩みます。けれど、冷静に考えれば春田と牧は、お互いにやっと「好き」って伝えただけなんですよね。「恋愛ドラマ」として考えると、人間というのは付き合ってからが大変。『おっさんずラブ』は“自分の気持ちに気づいて告白するまで”に全7話かかっていただけなので、恋愛の本番はここから(笑)。実はまだ何も起こってないと思って、頑張って作っています。

――撮影はこれからということですが、久々にチームが集まるというのも楽しみですよね。

でも、皆さまのおかげでこの1年、いろんな賞を頂いたり話題が絶えず、なんだかずっと一緒にいたような感じもあります(笑)。グループLINEも、いまだにほぼ毎日、誰かと誰かが楽しそうに話していて、微笑ましいです。

――グループLINEでは、現在放送中の『わたおじ』の話題もありますか?

「きじのドラマはじまるよね?見るね!」って言ってくださったり、温かいなぁと思います。みんな、それぞれの現場で頑張っている様子を見ると、こちらも背中押される想いです。

――吉田鋼太郎さんが年末の授賞式で続編の要望をスピーチしたり、キャストの皆さんは他作品の会見でも『おっさんずラブ』のお話をよくされていて、本当に作品への愛情を感じます。

打ち上げとかでよく「またこのチームでまたドラマを作ろう!」と言ったりするのですが、だいたいできないのが世の常(笑)。そんな中、本当にまた一緒にドラマを作ることができるのは、私にとっては初めてのことですし、純粋にうれしいです。キャストスタッフ共々、気合入ってます!