テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第89回は、21日に放送されたTBS系バラエティ特番『キングオブコント2019』をピックアップする。

2008年にスタートしたおなじみのコント日本一決定戦。優勝賞金1000万円を目指す生放送の頂上決戦としてすっかり定着したが、昨年から「決勝進出の10組は当日発表」という試みを採り入れて、ネット上の盛り上がりが増した感もある。

準決勝進出の34組からどの芸人が登場するのか? 新星誕生への期待値は高く、『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)とも比較しながら掘り下げていきたい。

  • 『キングオブコント2019』優勝のどぶろっく・森慎太郎(左)と江口直人

■「決勝進出者を隠す」演出は微妙

オープニングは過去王者のコントから、期待感あふれる街の声、審査員5人の紹介、浜田雅功の「結果発表」イジリまで、あおり全開。かつての大みそか格闘技特番『Dynamite!!』を思い出してしまう仰々しさを見る限り、『M-1グランプリ』と比べると真剣勝負というより“秋の祭典”という印象が濃い。

審査員のあいさつもそこそこに、いきなり1組目のうるとらブギーズ(吉本興業)が登場。結成11年目で初の決勝進出であり、トレンディエンジェルの応援コメントを経てコントを披露し、いきなり462点の高得点(500点満点)を叩き出した。

2組目は、決勝初進出のネルソンズ(吉本)で、中川家の応援コメントを受けて446点。

3組目は、決勝初進出の空気階段(吉本)で、峯田和伸の応援コメントを受けて438点。

4組目は、決勝初進出のビスケットブラザーズ(吉本)で、今田耕司の応援コメントを受けて446点。

5組目は、9年ぶり3度目の決勝進出となるジャルジャル(吉本)で、麒麟・川島明の応援コメントを受けて457点。

6組目は、決勝初進出のどぶろっく(浅井企画)で、ケンドーコバヤシの応援コメントを受けて480点。

7組目は、決勝初進出のかが屋(マセキ芸能社)で、ナイツの応援コメントを受けて446点。

8組目は3年連続決勝進出のGAG(吉本)で、南海キャンディーズ・山里亮太の応援コメントを受けて457点。

9組目は、2年ぶり2度目の決勝進出となるゾフィー(グレープカンパニー)で、東京03・飯塚悟志の応援コメントを受けて452点。

10組目は、3年連続決勝進出のわらふぢなるお(グレープカンパニー)で、サンドウィッチマンの応援コメントを受けて438点。

決勝進出者やネタ順は明かされていなかったのだが、チョコレートプラネットら人気芸人は登場せず、驚きの初選出もなく、ネット上の反応は乏しかった。「放送当日、この演出が機能していたか?」と言えば疑問だが、「10組を最初から明かしていたとしても興味を集められていたか」と言えばこちらも疑問が残る。

■審査員の顔ぶれとコメントに賛否

全10組中、1位はどぶろっく、2位がうるとらブギーズ、同点3位のジャルジャルとGAGは審査員による決選投票が行われ、1票差でジャルジャルがファイナルステージに進出。ファイナル1組目のジャルジャルは448点で、1stステージとの合計905点。ファイナル2組目のうるとらブギーズは463点で、1stステージとの合計925点。ファイナル3組目のどぶろっくは455点で、1stステージとの合計935点で優勝した。

優勝決定直後、MCの浜田から「涙流すと思わへんかった」と振られた江口直人は、「涙じゃなくてガマン汁です」と下ネタを貫いて笑わせたところで番組は終了。感極まったときに持ちネタが出せたのは、自分たちのスタイルを貫く彼ららしいエンディングだった。

ケンドーコバヤシの「(得意の下ネタ)やったもん勝ち。やったら絶対勝てるから。設定から展開からすべてが素晴らしい。大爆発絶対すると思いますよ」という応援コメントが見事に的中。しかし、放送中から現在まで、彼らのネタに賛否の声が飛び交っているのも事実だ。インパクトや笑い声の大きさでは間違いなく、どぶろっくが一番だったが、「審査員が中年男ばかりだから“イチモツ”が優勝できたのではないか」という声にも一理ある。

いみじくも浜田が審査員たち(松本人志、大竹一樹、三村マサカズ、日村勇紀、設楽統)に「自分らそんなの好きなだけやん。全員がそろいもそろって」とツッコミを入れていたが、“イチモツ”の大きさは30~40年前からある笑いのモチーフ。『R-1ぐらんぷり』(カンテレ・フジテレビ系)で裸芸人のハリウッドザコシショウとアキラ100%が連続優勝したときもそうだったが、「やはり芸人の世界は作家などの裏方も含めて、中年男性の影響力が強い」と感じてしまった。

審査員についてもう1つ気になったのは、コメントの頻度と温かさ。3時間放送で敗者復活枠のない『キングオブコント』は他の賞レースよりコメント時間にゆとりがあるのだが、尺の割にふわっとしたコメントばかりで技術的な分析は少なく、厳しい意見はほとんどなかった。

視聴者に「何を重視して採点したのか?」があまり伝わっていない上に、温かいコメントばかりで『M-1グランプリ』のような「天国と地獄」というコントラストが生まれにくい。ドラマ『あなたの番です』の考察合戦が盛り上がったように、現在の視聴者は番組への参加を求めているが、事前予想も採点分析もしづらい『キングオブコント』はそうしたニーズに応えられているのだろうか。芸人ファーストのスタンスもいいが、もう少し視聴者を楽しませることに重きを置いてもいいのかもしれない。

■「準決勝と決勝は同じネタ」への疑問

今回はファイナルに進出した3組中2組が、どぶろっくとジャルジャルという、すでに露出の多いコンビで、秋以降の即戦力となる新星は登場しなかった。どぶろっくが放送翌日に北海道での営業が入っていたため、2位のうるとらブギーズが『サンデー・ジャポン』『アッコにおまかせ!』に生出演したが、和田アキ子に「出ないほうがよかった」と言われる始末。新星の登場を待っていた他局のテレビマンたちはガッカリしたのではないか。

さらに、ファイナルに残ったジャルジャルは、「準決勝と決勝は同じ2ネタ」という大会規定を破ったことで批判を浴びてしまった。うるとらブギーズに抜かれて優勝がなくなった時点で福徳秀介が「先週の9月14日に足の小指を骨折しまして、急きょネタを変更してみなさまにご迷惑をおかけしました」と謝罪していたが、もし優勝していたら何ともバツの悪いカミングアウトになっていただろう。

ジャルジャルの目線で見れば「アクシデントでネタを変えなければいけない不運」となるが、他のコンビにしてみれば「他のネタを知った上で自分のネタを選び直せるなど不公平」となる。ただそれ以前に「この大会規定を大半の視聴者は知らなかった」「なぜ同じネタでなければいけないのか分からない」ことがテレビ番組としては罪深い。

コントのクオリティ確保、内容のコンプラチェック、セット・照明・音響の準備、カメラワークの確認など、「準決勝と同じネタにしなければいけない」理由はどれも自然なものだけに、視聴者に明かしてもいいはずだ。前述した審査員の人選や評価基準も含め、「コント日本一を決める真剣勝負」をうたうのなら、そうした透明性が視聴者の満足度を左右するのではないか。

最後にもう1つ、『キングオブコント』の風物詩となっているのは、審査員の後ろに座る美女たち。セットの壁でも、芸能人ゲストでもなく、一般人風の美女たちを見た視聴者がネット上で「かわいい」と盛り上がるのがお約束となっている。今回も「松本(人志)と日村(勇紀)の後ろにいる女の子がかわいい」「売れないタレントか女優の卵なんだろうな」などの声があふれていたが、真剣勝負とは真逆のこうした空騒ぎもまた『キングオブコント』らしい楽しみ方なのだ。

蛇足だが、個人的には「腹話術で謝罪会見」のゾフィーが一番面白かった。

■次の“贔屓”は…テレ朝放送60年のお宝映像を大放出! 『徹子の部屋SP』

『徹子の部屋SP TVエンタメ伝説の名場面史』MCの黒柳徹子(左)と進行の羽鳥慎一=テレビ朝日提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、27日に放送されるテレビ朝日系特番『徹子の部屋SP TVエンタメ伝説の名場面史』(19:00~21:48)。

「局内に眠るお宝映像の数々を大放出」というコンセプトの大型特番。「芸能界の語り部」「テレビ女優第一号」の黒柳徹子がゲストを迎えてエンタメの歴史を語り尽くすという。

放送内容は「土曜ワイド劇場あるある」「三浦祐太朗~葛藤のミュージシャン人生と家族の支え」が予告されているが、局を挙げた3時間特番だけに、それだけではないだろう。同番組には一部、情報提供をさせてもらったが、さらなる大型コーナーもありそうで興味は尽きない。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。