テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第73回は、5月31日に放送されたテレビNHKの単発バラエティ番組『金曜日のソロたちへ』をピックアップする。

当番組は近年『ドキュメント72時間』『ノーナレ』を手がけるNHKが、再び世相を踏まえた実験的なドキュメントバラエディ。そのコンセプトは、「3世帯に1世帯がひとりで暮らす時代、ソロの若者たちはどんな生活をしているのか? 部屋に定点カメラを設置して、その様子を撮影する」。

撮影対象は、お笑い芸人(アンガールズ・田中卓志)、コスプレイヤー、自称「ゲーム廃人」の3人。さらに、Eテレの人気キャラ・ストレッチマンが「ひとり暮らしあるある」や「ひとり暮らしに役立つストレッチ」を紹介するという。

注目は、「30分間ずっと画面が4分割で、4人の様子を同時放送する」という演出。「誰か1人に注目して見るのも、4人を同時に見るのもOK」という斬新な試みで、今後のレギュラー化に向けた試金石であるとともに、民放テレビマンたちの注目も集めるだろう。

  • (左から)能町みね子、井上裕介、堀田茜

■民放では見られない低いテンション

番組はいきなり4分割の状態でスタート。さらに画面の中央には、元ひとり暮らし(今は共同生活)の能町みね子、ひとり暮らし歴20年のNON STYLE・井上裕介、実家暮らしの堀田茜の顔が映されたワイプに驚かされる。開始からわずか1秒で、まったく毛色の違う番組であることを強く印象づけられてしまった。

画面左上にお笑い芸人・ひとり暮らし歴24年の田中卓志(43歳)、左下に自称ゲーム廃人・ひとり暮らし歴15年のまっくす(33歳)、右上にコスプレイヤー・ひとり暮らし歴1年の五木あきら(24歳)、右下にひとり暮らしあるあるや、ひとり暮らしストレッチを紹介するストレッチマンが登場。「窮屈なつながりばかりの現代社会。ひとり暮らしはありのままの自分を解放できるぜいたくな生き方。今夜は珠玉のソロライフ、ちょっとのぞいてみませんか?」というナレーションに合わせてタイトルバックが映された。

主なコーナーは、「ひとり暮らしの部屋はこだわりで満ちている“ソロ部屋”」「ひとりで食べるご飯には生き方が現れる“ソロ飯”」「ひとりだからこそ楽しめる特別な時間がある“ソロの至福”」「最後にソロたちに聞いてみた“ひとりの夜に思うこと”」の4つ。

「料理をしないため、唯一の食器はマグカップで、電子レンジもない」「納豆を245回も混ぜて食べた」(五木)、「するめを毎日10枚以上食べ、水を1日6L近く飲む」「成人向け動画をVRで楽しむ」(まっくす)、「ペットボトルのゴミがあふれている」「世界の紅茶を100種類以上そろえている」(田中)などの特徴的なシーンこそあったものの、どれも自由気ままなムードが漂うだけで、善悪・明暗・濃淡の区別はなく、終始低いテンションが貫かれていた。

「民放だったらきっと大げさなナレーションとテロップを入れたんだろうな」と思ってしまったが、そんな「いかにもNHK」という良い意味でクール、悪い意味でスカしたムードが魅力の番組なのかもしれない。

■ソロライフをイジらず尊重する

画面右下にわざわざ設定されたストレッチマンの存在が示唆に富んでいた。ストレッチマンの役目は、主に“ひとり暮らしあるある”と“ストレッチタイム”の2つ。

まず“ひとり暮らしあるある”は、「起きた格好のまま部屋から出ないで1日過ごして、またそのまま寝て得した気分になる」「皿を洗うのがめんどくさいので、フライパンのまま直で食べる」「『こな~ゆき~』って唐突に歌える」「サッカーW杯のとき同じタイミングで別の部屋から、ひとり者の『よっしゃー!』が聞こえてうれしくなる」「ツイッターで自分より寂しい人がいないか、検索しまくるうちに寝落ちする」の5つ。

次に“ストレッチタイム”は、「カップ麺にお湯を注ぐときがストレッチチャンス。腕を内側にひねる」「寝ながらできるストレッチで、ひざを抱えるように持ち上げ、左右交互にやる」の2つ。

どちらも、「ソロライフを送っている人をメインターゲットにしている」からこそのコーナーであり、彼らを喜ばせようとしている様子がうかがえた。当番組が未婚、非婚、離婚の人が多い時代性を踏まえたものであることは明らかだが、その制作スタンスは、「ソロライフを面白おかしくイジるのではなく、穏やかな目線で尊重する」というもの。ややうがった見方かもしれないが、「ネット同時配信や受信料徴収などの理由で、彼らを味方につけておきたい」という思惑にも見えてしまった。

終了直前には、五木がパックをしたあとに動画を見ながら寝落ち、田中がアイマスクつけてソファで寝る、まっくすは寝ずにゲームを続けるという三者三様のシーンがあった。時間の経過とともに放送をソフトランディングさせて「視聴者に気持ちよく寝てもらおう」という意図は、『おやすみ日本 眠いいね!』と同様だが、これも視聴率やスポンサー対策がほとんどいらないNHKならではの手法と言っていいだろう。

■海外ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』の影響!?

もう1つふれておかなければいけないのは、中央に置かれたワイプの3人。現役ひとり暮らしの井上に加えて、元ひとり暮らしの能町と実家暮らしの堀田を加えることで、別の目線を加え、視聴者層を広げていた。

3人のトークは、わずかに実況中継の要素もあるが、基本は普通の雑談。「わかるわかる」「意外とこんなものかも」「生々しいな」などの視聴者目線での肯定的なリアクションから、「近いところがあって心が痛くなる」「(部屋の)見た目とかはいいんですよ。どうせ人は来ないから」「レンジでチンが一番早い。極力洗い物はしたくない」などの共感まで、実に効果的だった。「シンプルながら、あるのとないのではここまで印象が変わるのか」という意味では、ニコニコ動画のコメントと同じようなものなのかもしれない。

だからこそ、締めのコメントでチクリと毒を刺して、ソロライフを下げる形で終了させたのは意外だった。能町の「意外とみんな汚いなと。散らかってますよね」を皮切りに、堀田が「私、ドラマの(キレイなソロライフを)見過ぎでした…」と呼応し、能町が「あれはウソですね。これが真実」、井上が「真実であり現実ですから」、能町が「これを見下せる人はいない」とたたみかけて終了。「ソロにしか味わえない夜がある」という前向きなテロップと多少のチグハグさを感じさせて幕を閉じた。

番組のコンセプトそのものに話を戻すと、スマホ、タブレット、パソコンでのテレビ番組視聴が増えている現状を踏まえたら、4分割の画面は時代に逆行している感が否めない。実際、試しに7インチと11インチのタブレットで当番組を見てみたのだが、出演者が小さすぎてあまり表情がわからなかった。

「やっぱりテレビ番組は、大型のテレビ画面で見てもらいたい」というメッセージなのか。それとも、「急にスプリット・スクリーンの手法を使ってみたくなった」のか。はたまた、「スタッフの誰かが海外ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』が好き」というだけなのか。

正直なところ、4分割の同時進行や同時試聴によるダイナミズムは感じられなかった。ただ今回はパイロット版のような位置づけだけに、「他とは違う番組を見せたい」という志さえブレなければ、第2弾以降に化ける可能性があるだろう。

■次の“贔屓”は…菅田将暉に人生を捧げる男が登場! 『新・日本男児と中居』

菅田将暉

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、7日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『新・日本男児と中居』(25:05~25:34)。

中居正広が「新しい常識で生きる男たち」=“新・日本男児”の人柄や生き方に迫るトーク番組であり、令和になったばかりの5月3日にスタート。中居が典型的な“旧・日本男児”の立場からトークを掘り下げていく様子が、早くも話題を集めている。

次回の“新・日本男児”は、「菅田将暉に人生を捧げ、月収100万円を稼ぐ男」の将暉。新たなカリスマとなった菅田を崇拝する通称「スダラー」の彼は、なぜ月収100万円もの大金を稼げるのか? さらに、菅田と共演歴の多い吉田鋼太郎は、将暉を見て「菅田を超えている」と語ったほか、「スダラー」にも挑戦したという。

「毎週ぶっ飛んだ生き方をする人をフィーチャーする」という意味では、『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)を思い起こさせるが、どんな違いや強みがあるのか? 多方面からとらえていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。