テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第58回は、16日深夜に放送されたNHK『おやすみ日本 眠いいね!』(24:05~)をピックアップする。

同番組のコンセプトは、「日本中の眠れない声に耳を傾け、あなたが眠れるまでとことんつき合う真夜中の生放送」。宮藤官九郎と又吉直樹の醸し出す気だるいムードと、「視聴者が眠くなったときに押す“眠いいね!”が一定数以上になるまで終了しない」という斬新な構成がウケ、番組スタートから9年目に突入した。

昨年4月から月1回のレギュラー放送となって、どんな変化があるのか。現在地点と今後の可能性を探っていきたい。

  • 宮藤官九郎(左)と又吉直樹

段取り重視のNHKとは思えぬグダグダ

オープニングのあいさつから異様に声が小さい宮藤と又吉。他番組ならあり得ない声量とローテンションであり、夜空をイメージした暗いスタジオも含め、番組内容を知らずに見た人は「この番組、何?」と驚かされるだろう。

今回のゲストは、宇崎竜童と柄本時生の2人。民放バラエティではほぼ見られない、その人選に小さな笑いを誘われる。進行役の千葉美乃梨アナウンサーから、今夜の放送が今年1月に亡くなった「市原悦子さんありがとうNight」であることが明かされた。

当番組のメイン企画は、全国からの“眠れない声”に応えるスタジオトーク。宮藤が1本目に選んだ視聴者の声は、「夢の中で、私の恋人だった綾瀬はるかさんを宮藤官九郎さんに奪われました! モヤモヤして眠れません」という投稿だった。しかし、69歳の男性だったため、「しっかりしてください。ホントに」とツッコんで笑わせたセレクトは、いかにも宮藤らしい。

その後の投稿は、「よだれがひどくて眠れません」「宮藤さんが夢に出てきて眠れない」「親の呼び方をパパ・ママから直せないまま新成人を迎えてしまった」「主人が若いアイドルに詳しすぎてモヤモヤ」「柄本時生さんが素敵で好きなのに…」「柄本時生くんが好きすぎて夜も眠れない日々が続いています」「カンチョーがやめられない」「毛深さが止まりません」「好きな俳優さんが、私のツイートに反応しすぎて眠れない」「トイレで目が合ってしまったお爺さん。その行動とこちらに向けたキメ顔の意味がわからなくて眠れません」「ハンガーが少なくて、モヤモヤする。もっと私にハンガーを!」「77歳のお爺ちゃんに恋してねむれません」。

投稿がゆるければ、出演者の受けもゆるい。番組上のトークというより楽屋や移動車の雑談に近いノリで、「お悩みにちゃんと答えない」のが既定路線という。かつて宮藤が「回を重ねるごとにパワーアップではなく、パワーダウンしていきたい」と言っていた、浅いようで深そうなスタンスは現在も貫かれている。

出演者たちの段取りもグダグダで、“プチ放送事故”と言いたくなる不自然な間もしばしば見られる。もちろんこれは「あえてそのまま放送している」のだが、極度の段取り重視でリハーサルの多いNHKとは思えない姿勢であることは間違いない。

なかでも目を引くのは、紅一点の千葉アナ。パジャマ姿でヒツジのぬいぐるみを抱え、宮藤たちのトークをニコニコ顔と体育座りで聞き、コケティッシュなリアクションを取り続けている。このような男性層向けの“女子アナサービス”は、同じ生放送バラエティだった『Shibuya Deep A』(NHK)の橋本奈穂子アナら以来かもしれない。

市原悦子さんのいない喪失感

放送終了時刻は決まっていないが、基本的に2時間超の番組だけに、トーク以外のコーナーも豊富。

人々に眠くなってしまうものを尋ねた「眠いい〇〇ランキング」の結果は、1位=学校の先生の話 2位=ぬいぐるみ 3位=乗り物(電車・バス・飛行機など) 4位=『岩合光昭の世界ネコ歩き』(NHK BSプレミアム) 5位=紅茶、クッション、タオルケット。

宇崎が挙げた「眠いい音楽リスト」は、「ククルクク・パロマ」カエターノ・ヴェローゾ、「雨のジョージア」ブルック・ベントン、「YESTERDAY」レイ・チャールズ、「What a wonderful world」ルイ・アームストロング、「コトビロ」アユブ・オガダの5曲。さらに宇崎は引き語りで「サヨナラの向う側」「竹田の子守唄」を披露した。

そして、この日の目玉だったのは、「日本眠いい話」を朗読していた市原悦子さんをしのぶコーナー。「台本に赤を入れたり、絶妙なアドリブを入れたりしていた」「病気になったあとも『家まで来てくれたら読めるんだけど』と提案して自宅で収録していた」「入院後も『病院まで来てくれたら読めるんだけど』と言われて降板せず、しかも台本を暗記していた」などの知られざるエピソードが明かされた。

最後の「たくさんの昔話をありがとうございました。ゆっくり休んでください。おやすみ、えっちゃん」というナレーションも、「もしかしたらあの世まで撮りに行けるかもしれないですね」という宮藤のコメントも、まるで布団の中にいるような温かさを感じる。

放送スタートから2時間6分が経過したとき、目標の「4150万眠いいね!」を達成し、千葉アナが「4分後に番組が終わることになりました」と発表。さらに、「いつもなら『眠ってください』と言うところですが、今日は起きていてほしいですね」と続けたのは、当番組終了後に『市原悦子さん ありがとうスペシャル』を放送するからだった。いつもとは異なるアナウンスに喪失感を誘われる。

レギュラー放送開始後から、まもなく1年になるが、番組としては、ほとんど変わっていないのではないか。あえて変化を挙げるなら、市原さんがいなくなったことくらい。『まんが日本昔ばなし』(MBS・TBS系)で幼いころからお世話になってきた感謝の意味も含め、枕を涙で濡らしながら今回の放送を見た人は多かっただろう。

「生放送」「双方向」の希少性と消化不良

「視聴者を眠りに導く」という構成に加えて、「生放送」「双方向」など、同番組の希少性はテレビ番組の中でも群を抜いている。いずれも視聴率やスポンサーが頭をよぎる民放各局には難しい、思い切ったものと言えるだろう。

しかし、だからこそ「生放送」「双方向」という意味での物足りなさは否めない。視聴者と電話をつなぐコーナーは一度に留まり、北海道士別市にある“真夜中の羊舎”からの生中継も数秒単位。日本全国に設置する“眠いい電話BOX”も多くの応募があることを知らせるのみだった。

また、“眠いいざこね”としてスタジオに招待した一般人の扱いも消化不良。本当に寝そうな人、トークにほとんどノーリアクションの人、コタツや足湯に入ってぬくぬくとしている人……。「始発電車まではNHKで寝ていい」という微妙な観覧に応募したクセのありそうな人が多いだけに、放置しているのがもったいない。

これらはすべて、低いテンション、薄めの話、暗いスタジオなどの気だるいムードに合わせているのかもしれないが、だからといって「生放送」「双方向」だからできることを放棄してしまっていいのか。「ウチならありえない」「NHKは恵まれすぎ」と冷たい目線を向ける民放テレビマンの顔が何人か浮かんでしまった。

ただ、そんな民放各局も生き残っていくために、「生放送」「双方向」のバラエティに本腰を入れるときが訪れるだろう。だからこそ当番組は、その先駆けとして長く続けてほしいと願っている。

次の“贔屓”は…催眠術にかかった坂上忍の恐怖に勝てるか?『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』

『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』MCの東野幸治(左)と小池栄子

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、23日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』(19:00~)。

昨秋のレギュラー放送スタートから4カ月弱が経過。フジテレビのドッキリ番組と言えば、1970~80年代に人気を集めた『スターどっきり(秘)報告』を思い出す人も多いのではないか。その点、伝統の企画に加えて「秒でドッキリ」などの現代性も加えた同番組への期待値は高い。

今回の目玉ドッキリは、「ニセ催眠術に坂上忍がかかったふりをしたら、まわりのメンバーも忖度してかかったふりをするか?」。『坂上どうぶつ王国』『バイキング』の出演者たちが、坂上の恐怖に打ち勝てるのか。

ドッキリの先行番組でありライバルの『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)との違いなども含め、掘り下げていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。