テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第50回は、15日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『IPPONグランプリ』(21:00~)をピックアップする。

同番組は2009年から特番として不定期放送されている大喜利バラエティ。年2回ペースで放送され、今回は20回目の記念大会となる。

メンバーはAブロックにくっきー(野性爆弾)、大悟(千鳥)、博多大吉(博多華丸・大吉)、バカリズム、若林正恭(オードリー)、Bブロックに川島明(麒麟)、設楽統(バナナマン)、千原ジュニア(千原兄弟)、堀内健(ネプチューン)、山内健司(かまいたち)の10人。「くっきー、大悟、山内を除く7名が優勝経験者」という実力者ぞろいだけに、激しいバトルが予想される。

「10名の芸人が大喜利のみで勝者を決める」というシンプルなコンセプトだからこそ、芸人とスタッフの双方にどんな狙いがあり、どんな力が発揮されているのか? 芸を競い合う番組が少ない中、テレビ業界や芸人たちへの影響力も含めて考えていきたい。

生放送に準じたスリリング感

『IPPONグランプリ』チェアマンの松本人志

番組は「大喜利を愛する芸人達に招待状が贈られた」のテロップからスタート。まず矢沢永吉の「止まらないHa~Ha」に乗せたオープニング映像に圧倒されてしまう。遠藤憲一のナレーションも含め、視聴者にハードボイルドかつゴージャスな印象を与えているが、これらは「大喜利のみ」というシンプルなコンセプトを際立たせるための演出だろう。

今回のお題を挙げていくと……Aブロックが「ウサギは寂しいと死んでしまいますが、浜田(雅功)はどうなると死ぬ?」「今のイケてる若いママはヘソの緒をどうやって保管している?」「写真でひと言ルーレット」「『でしょーね!!!』と言わせてください」。

Bブロックが「不思議ちゃんアイドルの盛りすぎたデビューのきっかけは?」「写真でひと言ルーレット」「宇宙船でこれをやったら完全におっさん。一体何?」「口の中をさっぱりさせる意外な方法を教えてください」、サドンデスのお題が「(架空の植物)この伝説の植物の花言葉を教えてください」。

決勝戦が「フランス語っぽく言えば怒られない悪口を言って下さい」「動画でアフレコ」「ダブルピースしながら言う事か! 何を言った?」「動画でアフレコ」。

そんな難題に対する芸人たちの回答は、クレバー、バカ、シュール、ナンセンス、複合技、逆アングル、時事絡み……今回もイラストを絡めながら変幻自在。視聴者に考える時間を与えないほどの回答ラッシュで、とにかくテンポが速い。

だからこそ時に「0点」という事故的なスベリ方をするのだが、そのリアルがたまらないし、演出サイドとしても緊張感をしっかり伝えることに注力している。たとえば、スベった大吉の「こんな大事な時間にすいません…」や、あるお題で「IPPON」も取れなかった大悟の「恥ずかしー」というコメント。あるいは、緊張しすぎてボタンを押すのではなく手を挙げてしまった山内と、1問目の第一声で思い切り噛んだ千原ジュニアの追い込まれた姿は、生放送に準じるスリリング感を醸し出していた。

「IPPON」を獲れなくても優しい松本人志

当然、出演する芸人にとっては、自らの力を示すチャンスである反面、スベり続けたときのリスクはどの番組よりも大きい。その意味でブレイクしたばかりの若手ではなく、すでにお金と名声を手に入れた設楽統、堀内健、千原ジュニアらが出場していることが番組と本人のステイタスにつながっている。つまり、失うものが大きい芸人がチャレンジするからこそ、面白い番組なのだ。

チェアマンという立場で、そんなリスクを負う必要のない松本人志のスタンスは明快。お題や回答の意図を解説するだけでなく、芸人たちに寄り添うような温かい言葉を投げかけている。

たとえば、「IPPON」が取れたときは、「Aブロックの一発目で『IPPON』取ると気持ちいいよね」「こういうの期待していたところありますよね」「面白いぞ。今日調子ええんか?」「速いんですよ。あれやられると他の人が大変」「バカリズムが2本連続(で外すの)はないでしょう」「僕は好きです」「(堀内健のクレバーな回答に)彼は意外とこういうこともできるんですよ」「川島はこのへんうまいんですよ」「(当然のように)こりゃ、取るね」と称賛。

一方、「IPPON」が取れなかったときは、「悪くないですよね」「手数多いのはいいですよ」「(残念そうに)あっ、そう…」「シブいねー」「いや、おもろい、おもろいよ」「いやでも末恐ろしいですね、山内」「ちょっと聞き取りにくかったのもあると思うよ」「これは難しい。賭けにいったんですけどね」「みなさん、だんだん壊れてくる時間です」「みんながこっちへ行ったら今度はこっちへ行くという正しい考え方」「恥じることのない7ポイントだと思いますよ」とフォロー。

番組はそんな松本のコメントを生かすべく、「あえて実況の榎並大二郎アナとクロストークさせず別々で話させる」という演出を採用している。そのため時に2人の声がかぶってしまうこともあるが、それは気にせず「松本は温かい目で見守っている」というムードを重視しているのだろう。

松本はその他でも、最初の「この前、気づいたら設楽の乳首をダブルでさわっていた。だから勝ってほしいな~」というマクラから、最後の「やっぱり4、5日前に僕が乳首をさわったときから(設楽の)優勝は決まってたんじゃないかと思いました」というオチまで、その存在感はやはり絶大。

ここ数年、戦いの合い間に挟まれる松本自身の回答は「さすが」「寒い」と賛否両論だが、「他のどの番組よりも松本人志の存在あってこその番組」という前提が伝わってくる。

『M-1グランプリ』との決定的な違い

最後に、芸を競い合う番組が少ない中、テレビ業界や芸人たちへの影響力にふれておきたい。

今回は「最後の1問まで誰が勝ち抜くかわからない」という大混戦。いつも各ブロックに1人はいる「まったく勝ち抜けに絡まない」落ちこぼれ芸人がいなかった。笑わせてもらうと同時に、芸人たちの持つ発想力や瞬発力のすごさを見せつけられたのではないか。

ただ、年月の積み上げをもとにネタの完成度で競い合う『M-1グランプリ』がシビアな個人戦なら、『IPPONグランプリ』は全員で芸人のすごさを見せ合う団体戦。Aブロックは大悟、Bブロックから設楽統が勝ち抜き、最後は設楽が優勝したが、当番組にとってその結果は“おまけ”に過ぎないのだ。

台本で決められたギャグやお約束のトークを見せるバラエティは、言わば芸人にとってお金を稼ぐ番組だろう。一方、『IPPONグランプリ』は出場者たちが芸人のプライドを守る番組。大半の芸人にとっても、放送するフジテレビにとっても誇らしい番組であり、視聴率の上下だけで終わらせてはいけないものに違いない。

実は今回から演出を手がけるスタッフが変わり、「どうなるものか」と多少の不安を抱えながら見ていた。番組の立ち上げから携わってきた竹内誠氏から、『めちゃイケ』でディレクター務めてきた日置祐貴氏に代わったのだが、『IPPONグランプリ』の精神性はまったく揺るがず、早くも第21回の放送が楽しみになった。

次の“贔屓”は…フジらしい企画に期待感! 『出川と爆問田中と岡村のスモール3』

“スモール3”の(左から)出川哲朗、田中裕二、岡村隆史=フジテレビ提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、22日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『出川と爆問田中と岡村のスモール3』(21:00~)。

「タモリ、ビートたけし、明石家さんまのお笑い“ビッグ3”」に対する「出川哲朗、田中裕二、岡村隆史の“スモール3”」。身長160cm以下の3人をそろえたことを筆頭に、「楽しければOK」というフジの古き良きDNAが漂うコンセプトへの期待値は高い。

なかでも目玉企画は、3人が「いま会いたい人」に挙げたZOZO社長・前澤友作氏との共演。着工から数年経過した現在も未完成のため“千葉のサグラダ・ファミリア”と言われる豪邸がテレビ初公開となるほか、社長行きつけの超高級レストランで食事するという。今後のレギュラー特番化などの可能性も含め、要注目の番組だ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。