テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第23回は、6日(24:09~)に放送された『ナカイの窓』(日本テレビ系、レギュラーは毎週水曜23:59~)をピックアップする。

同番組は2012年10月、エッジの効いた芸能人の集うトークバラエティとしてスタート。深夜番組らしいセキララなグループトークを売りにしていたが、今春「ロケ先に円卓を持ち込んでトークする」という形にリニューアルされた。

今回のロケ先は、新宿二丁目。言わずと知れた日本屈指のゲイタウンであり、これ以上ないほどのディープなネタだけに、リニューアルの成果が表れるのではないか。

ディープな場所に放り込まれるMC中居

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『ナカイの窓』6日放送のゲストMC・矢作兼

リニューアルの狙いは、“MC中居正広”をロケに連れ出すこと。これまでスタジオの中で多くのタレントを仕切ってきた中居が、「初対面の一般人たちとどう絡むのか?」「このところ絶賛が続くMC術が通用するのか?」などが見どころとなる。

これまで放送されたロケ地は、空港、水族館、法廷、ホテル、エイベックス、日本テレビ報道局、楽器店。いずれも中居個人とのマッチングは新鮮であり、本人も好奇心を刺激されている様子が伝わってきた。

今回の新宿二丁目も中居にとっては、初めて訪れる未踏の地。街ブラをはじめると画面がモザイクだらけになってしまう怪しさが、「ここでしか見られないロケトークショー」というムードを醸し出している。

ただ新宿二丁目は、ゲストMCの矢作兼が語ったように、今や「ディープだけど安全・安心って感じ」の場所。まさにそれこそ、今回に限らずロケ地選びのコンセプトになっているのではないか。

中居とゲストMCの矢作兼がナイトクラブ「ネオマスカレード」に入店すると、今回のゲストが登場。その顔ぶれは、「二丁目のきゃりーぱみゅぱみゅ」こと癒やし系ぽっちゃりドラァグクイーンの山田ホアニータ、二丁目のラップイベント「オネエスタイルダンジョン」に出演するラッパーのチカコ・リラックス、2015年にレズビアン婚で話題になった一ノ瀬文香、はるな愛の受賞で知られる「ミスインターナショナルクイーン2015」特別賞に輝いたさつきぽんという面々で、さっそく予想通りのカオスなムードを漂わせている。

その後、「二丁目の魅力は24時間飲めること」「メークしているドラァグクイーンは縦社会で塗った順に偉い」「レズは顔を見て、ゲイは体を見て好意を持つ」などの“二丁目あるある”が飛び交い、メインコーナーらしき一芸披露タイムへ。

まずは、ホアニータがタプタプのお腹を顔に押しつける「マシュマロボディー100連発」を披露。見舞われた矢作の「ものすごく気分が悪い」でひと笑い。矢作は続くチカコにも、ドヘタなラップバトルを仕掛けられて大スベリ。さらに、さつきぽんらから、普通の女性とドラァグクイーンのメークを顔半分ずつされてしまう。

最後は、再びチカコとのラップバトルに持ち込まれ、またも大スベリ。すべては中居の仕業であり、矢作は「どうして2回目行かせた?」とキレた。やはり中居のタレントイジリは盤石。リニューアルでタレント相手のトークが激減した分、ゲストMCとの絡みを笑いの担保にしている。

「ロケと素人イジリの名手」タモリ、鶴瓶の域へ

中居たちは、おなべバー「モック」へ移動。「もともと女性だったが、男性となり、でもオネエキャラで、見た目はマキタスポーツ風」というトゥーマッチキャラの大和ママが現れる。教科書通りのオネエトークをぶちかまし、爆笑をさらったあと、大和ママの声が突然トーンダウンした。

「30歳過ぎても自分がおなべって知らなかった。だから女性だったころは一切恋愛経験がない」「当たり前の絶望の中で生きてきたから凄く大変だった」「女性として容姿的に恵まれていたことが最大の苦痛で、女性として『かわいい』とか『キレイ』とかホメられるのが苦しかった…」

哀愁をにじませながら話す大和ママの話を聞いた中居は、「周りも自分も接し方の教科書がないから、どうしたらいいのかわからないんだよね」と理解を見せる。すると大和ママは、「どうやって生きたらいいか、わからないから生きるのに精いっぱいで……」と感極まった表情になり、中居は「いい回だよね」とつぶやいた。

相手が一般人である以上、いつも笑いで終われるわけではないだろう。もしかしたら、こんな深夜番組らしからぬ感動がリニューアルの肝なのかもしれない。多くの視聴者は、つらく苦しげな一連のSMAP解散報道を見てきただけに、中居を感動の伝道者として認めているのではないか。

タレントを集めた「くくりトーク」からの脱却は、お約束や予定調和に陥りがちな構成のテコ入れに違いない。たとえば、そんな構成を最も嫌うマツコ・デラックスの『マツコ会議』(日テレ系)は「お約束や予定調和を避けよう」という番組であり、その意味でリニューアル後の『ナカイの窓』に最も近い感がある。

中居のMCは一般人相手でもブレはなく、スタッフによる「話が広がらなければすぐ次の話題に移る」という編集のキレも含めて、トークショーとしての質は安定。中居がSMAPというアイドル枠を外れたから、「ディープなロケができる」「素人イジリができる」のだが、MCとしての幅が広がっていく過程を見られるのは、いち視聴者としても楽しい。

「ロケと素人イジリの名手」という意味では、この番組がきっかけとなって、親交の深いタモリや笑福亭鶴瓶の域に近づいていくのだろう。

来週の"贔屓"は…専門家をバラエティタレント化した先駆け『ホンマでっか!?TV』

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『ホンマでっか!?TV』MCの明石家さんま(左)と加藤綾子

来週の放送からピックアップする“贔屓”の番組は、13日に放送される『ホンマでっか!?TV』 (フジテレビ系、毎週水曜21:00~)。

同番組は各界のユニークな専門家たちが、「ホンマでっか!?」とツッコミたくなるような説を語る情報トークバラエティ。「専門家たちを大量起用し、バラエティタレント化した先駆け」と言っても過言ではないだろう。

次回のテーマは、「年代別! 今まさにやっておくベき事」と題し、美容・教育・人間関係に関する情報を紹介していく。今年で放送10年目になるが、勤続疲労はないのか? 笑いと情報のバランスを含め、定点観測的な視点から見ていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。