テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第18回は、1日に放送された『ソノサキ~知りたい見たいを大追跡!~』(テレビ朝日系、毎週火曜23:15~ ※一部地域除く)をピックアップする。

同番組のコンセプトは、「身近にあるモノだけど、実はソノサキで驚きの進化を遂げているモノ」「そこまではよく目にするけど、ソノサキは見たことがないモノ」「番組が独自に作り上げる興味深いソノサキ」を徹底調査し、真実をあぶり出す、というもの。

この日の放送は、「視聴者の疑問解決スペシャル」と題した特別企画。選ばれたのは、「街で見かける巨大ガスタンクのソノサキ」「汚れたプロ野球のユニフォーム、試合後はいったいどこへ運ばれる?」「人工知能ではじき出したソノサキブレイクする芸人」の3本だった。ニッチなチョイスがいかにも当番組らしく、テレビ朝日の深夜バラエティらしい。

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    『ソノサキ~知りたい見たいを大追跡!~』MCのバナナマン・設楽統(左)と日村勇紀=テレビ朝日提供

「人のふんどしで相撲を取る」心地よさ

まず番組の全体像を探るために、この1カ月間で放送されたメインネタを見ていこう。

「北海道の牛乳が不二家の『ミルキー』になるまでを大調査! ママの味の秘密を徹底解明!」「旬を迎えるいちご大追跡SP! あの人気スイーツとのコラボや、超有名お菓子に大変身!」「ゴミとして回収された空き瓶が2つの意外なソノサキに大変身!」「回収された乾電池が、我々の足元を支える超身近なあれに大変身!」。

その他では、今年に入ってから、「農家さんが作ったみかんが『ぷっちょ』になるまで」「『チロルチョコ』の秘密を解き明かす!」「海苔が『ごはんですよ!』になるまで」など、身近な商品のソノサキを追うものが増えている。

昨秋のスタート当初は、「怪しい雑居ビルの扉のソノサキは?」「怪しいナンパ塾に潜入!」「ダビング専門店に来る人のソノサキ!」など深夜帯ならではのディープなネタが多かったが、早くも方向転換。身近な商品を扱う企画は、10年前に同時間帯で放送されていた『シルシルミシル』を彷彿(ほうふつ)とさせる。

『ソノサキ』と共通のスタッフも多い『シルシルミシル』は、深夜帯で3年、ゴールデン帯で4年放送された、笑いをふんだんに盛り込んだ生活情報バラエティ。家から半径100~500mレベル(スーパーまでの距離)のネタが多く、名物AD・堀くんのリポートを筆頭に、低予算・低カロリーな番組だった。

近所のスーパーレベルのネタや低予算・低カロリーは、『ソノサキ』にもそっくりあてはまる。「ほぼ取材させてもらうだけ」に徹した番組構成や、今回のリポーターにイチローのモノマネタレント・ニッチローを起用したことを見れば、そのことがわかるだろう。

もちろん肝となるネタ選びは難しいのだが、それでも「人のふんどしで相撲を取る」と言いたくなるような番組なのだ(それは当コラムにもそっくり当てはまる)。しかし、そのいい意味で無責任なスタンスが実に心地いい。

ナスDや堀くんに次ぐスタースタッフを

しかし、『ソノサキ』は、『シルシルミシル』と比べると、笑いのサイズはミニマムであり、大笑いより脱力笑いに徹している様子がうかがえる。

そのミニマムなサイズは、学びの面も同様。この日も、「ガスタンクはリンゴの皮をむくように解体する」「神宮球場の土は汚れが落ちにくい」「『M-1』の決勝順位を2年連続で当てている人工知能がある」などの豆知識のみで、実践的な学びはなかった。同じ生活情報バラエティでも、ゴールデン帯に放送されている『この差って何ですか?』(TBS系)、『得する人損する人』(日本テレビ系)らに比べると、ミニマムなサイズ感がわかるのではないか。

笑いも学びもミニマムなサイズであり、「思わずSNSに書き込みたくなる」ようなものはない。自分1人でコソっと笑い、わずかに学ぶのみ。だから、見ながらうたた寝してしまっても気にならない。「まだ週末まで3日もあるから、脱力してだらだらと見たい」「ウトウトできるくらいの番組のほうがうれしい」…そんな火曜23時台という放送枠を踏まえてのミニマムなのかもしれない。

サイズ感は、同時間帯に放送している他局の番組と比べるとわかりやすい。現在23時台にバラエティを放送しているのはテレビ朝日とフジテレビだけだが、テレ朝のほうが低予算・低カロリーをベースにしたミニマムな番組作りを徹底している。

テレ朝の『激レアさんを連れてきた。』『ソノサキ』『マツコ&有吉 かりそめ天国』より、フジの『石橋貴明のたいむとんねる』『TOKIOカケル』『アウト×デラックス』のほうが、予算もカロリーも、サイズの大きさも感じてしまうのだ。

せっかく低予算・低カロリーかつミニマムなスタンスが機能しているのだから、『シルシルミシル』のようにゴールデン帯への移動は避けてもらいたい。1カ所でも予算やカロリーをかけ、笑いや学びのサイズを拡大してしまったら、この番組の世界観は崩れてしまうだろう。

言わば、『ソノサキ』の低予算・低カロリーや、ミニマムな笑いと学びは、作り手と視聴者にある、ゆるやかな信頼関係が作り出したもの。「だらだらとあてのない時間を過ごすための番組を提供し、それをわかった上で受け取る」共犯関係と言えるかもしれない。

もともと『ソノサキ』は、ナスDの思わぬブレイクで『陸海空 地球征服するなんて』(テレ朝系)が土曜プライム帯に移動したことを受けてレギュラー化された番組。この番組からも、ナスDや『シルシルミシル』の堀くんを超えるスタースタッフを発掘してほしい。それもまたテレ朝の深夜番組イズムではないか。

来週の贔屓は…アンパンマンで本質が浮き彫りに『1周回って知らない話』

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『1周回って知らない話』5月9日の放送より (C)やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV (C)やなせたかし/アンパンマン製作委員会2018

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、9日に放送される『1周回って知らない話』(日本テレビ系、毎週水曜19:00~)。同番組は、「当たり前になりすぎていて、今さら誰も説明してくれないことを当事者に直接訪ねる」というコンセプト。レギュラー放送開始から1年半が過ぎ、1周回ったゲストの顔ぶれは多彩さを増している。

次回の放送では、ゲストに戸田恵子、中尾隆聖、島本須美ら、アニメ『それいけ!アンパンマン』(同局系)の声優陣を迎えて、さまざまな角度から疑問をぶつけていくという。これ以上ないほどわかりやすいテーマだけに、「この番組は視聴者に何を見せたいのか?」という本質が浮き彫りになるのではないか。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。