テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第17回は、25日に放送された『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系、毎週水曜21:00~)をピックアップする。

同番組は、終電を逃した人の家について行くドキュメントバラエティ。斬新な企画、身近な題材をフィーチャー、内容そのままのタイトル、スタジオを使用しない撮影などの意味で、「最もテレビ東京らしい番組」と言ってもいいかもしれない。

初回放送から4年が経過してなお、「飽きられるどころか、ファンが増えている」のは、なぜなのか探っていきたい。

  • 001のalt要素

    『家、ついて行ってイイですか?』MCの(左から)矢作兼、ビビる大木、鷲見玲奈アナ (C)テレビ東京

「働き方改革なんてクソくらえ」の深夜ロケ

真っ先に称えられるべきは、労を惜しまない制作姿勢だろう。数十人のディレクターが、毎日入れ替わりで各エリアへ繰り出しているのだが、「撮れ高がまったく保証されていない」のがすごい。それどころか、「無視など冷たくあしらわれる」のは当たり前。「酔っ払いにからまれたり、誰の家にも行けず、収穫ゼロで帰ったりすることも多い」という。

まさに「働き方改革なんてクソくらえ」。深夜のロケ数は文句なしでナンバーワンである上に、数時間の撮影映像を15~20分にまとめなければならず、それでも放送に至るかわからない。そんな苦労が視聴者に生々しく伝わることが、揺るぎない信頼感につながっている。

今回の放送では、まず早稲田大学と上智大学の卒業式へ。「お祝いの品を何でも買うから」と声をかけ、運よくテレビ東京に入社予定の学生と出会うが、何と断られてしまった。当番組はこんな細部にこそ、「100%ガチ」のフィロソフィーを潜ませている。

結局1人目は、「ワタミ」に入社予定の大学生。しかし、将来の目標は総理大臣であり、「政治家になるためにすべてのバイト代をつぎ込んでいる」「日本の借金をゼロにしたい」という。

2人目は、44歳で結婚した男性とアツアツの中年女性。結婚式の映像を見て涙ぐんだほか、「今でもときめいている」と、取材中に手をつなぐシーンもあった。

3人目は、ゴミ屋敷に住む49歳の男性。母親が亡くなってから家が荒れはじめ、前職でケガをしたときの労災をあてに、酒浸りの生活をしていた。

いずれも「なかなかのレアキャラ」と思いがちだが、「実は自分が知らないだけで、そのへんにいる」ことを伝えるのが、当番組の真髄だろう。

『テラスハウス』との絶対的な違い

ずっと見ている人ならわかるはずだが、当番組は「何か特別な人生や送っている人や、特別な思いを持つ人を見せよう」と狙っているわけではない。見せたいのは、「私たちが普段見ているのは人の表面だけで、内面まで掘り下げると、知られざる人生や思いにふれられる」という市井の人間ドラマ。家に入って、キッチンや冷蔵庫の中、部屋に置かれた趣味のグッズや写真などを見ながら話を聞くことで、知られざる人生や思いを引き出せるのだ。

ただ、相手は一般人だけにしゃべりがうまいわけではなく、いきなり「初対面のディレクターに自分のことを話せ」と言われても難しいのが現実。映像の出来はディレクターのヒアリング力にかかるところが大きい。

ディレクターのヒアリング力が重要なのは、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)などの長期密着ドキュメンタリーも同じだが、当番組は短時間の一本勝負。さらに、リアリティを担保するためにナレーションや効果音などの演出を入れないため、難易度は相当高い。

くしくも番組がはじまった2014年は、美男美女がモデルハウスのような家でキラキラの生活を送るリアリティショー『テラスハウス』(フジ系)が全盛のころ。キラキラとは真逆の泥臭い生活を見せ続けてきた当番組が生き残り、ゴールデンタイムに昇格したという事実こそ、「リアリティショーの何たるかを物語っている」のではないか。

当番組には、「ここでしか見られないもの」が確実にある。そもそも番組コンセプトが、「失礼かつ無茶であり、一般人次第」なのだが、だからこそ特定のタレントを起用して予定調和に走りがちなバラエティの中で異彩を放っているのだろう。

そして当番組を見ていると、ときどき思い出すのが同時期にスタートした『逆向き列車』(テレ東系)。通勤列車を待つサラリーマンに、「休みを取って、逆向きの列車に乗りませんか?」と声をかけ、その様子をレポートするという難易度の高さに、ロケは失敗ばかり。すぐに放送を断念してしまったという、ある意味、伝説的な番組だ。

「4年間ヒアリング力を培った現在の『家、ついて行ってイイですか?』ディレクターたちなら、『逆向き列車』もイケるのではないか?」と思ってしまった。……となると、深夜に『家、ついて行ってイイですか?』のロケを終えてから、朝に『逆向き列車』のロケへ。やっぱり、それは酷というものだろう。

来週の贔屓は…テレ朝の深夜バラエティの真骨頂か『ソノサキ』

002のalt要素

『ソノサキ ~知りたい見たいを大追跡!~』に出演する(左から)設楽統、藤田ニコル、吉村崇、日村勇紀=5月1日の放送より(テレビ朝日提供)

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、5月1日に放送される『ソノサキ ~知りたい見たいを大追跡!~』(テレビ朝日系、毎週火曜23:15~)。同番組のコンセプトは、「身近にあるモノだけど、実はソノサキで驚きの進化を遂げているモノ」「そこまではよく目にするけど、ソノサキは見たことがないモノ」「番組が独自に作り上げる興味深いソノサキ」を徹底調査して真実をあぶり出す、というもの。

次回の放送は、「視聴者の疑問解決スペシャル!」と題して、「汚れたプロ野球のユニフォーム、試合後はいったいどこへ運ばれる?」「人工知能ではじき出したソノサキブレイクする芸人とは一体!?」などをピックアップ。この番組らしいチョイスだけに、『ソノサキ』、引いてはテレ朝の深夜バラエティの本質をあぶり出せたら、と思っている。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。