元国税局職員さんきゅう倉田です。好きなジブリアニメは『崖の上の社長』です。

先日、金曜ロードショーで『となりのトトロ』が放送されていました。ぼくは、ジブリ作品が好きです。毎度、その画や少年少女が頑張る姿に癒されています。ただ、何度も観ているので、今回は、違った見方をしてみました。それが「税法上の取り扱いを考える」というものです。

※以後、映画の内容のネタバレとなります。『となりのトトロ』のストーリーが全く分からない方は、レンタルしてください。

まっくろくろすけは「棚卸し商品」に

まず、お父さんとサツキとメイが車で引っ越してくるシーンで始まります。それがこんな状態でした。

おそらくですが、この積載量は、道路交通法違反です。税法と関係ありませんが、どうしても気になったので触れます。

お父さんの転勤にともなう引っ越し代は「特定支出控除」として、確定申告で控除できます。 しかし、今回はお母さんの療養のための引っ越しのようなので控除できないのが心苦しいです。

サツキとメイの父・草壁タツオは、大学の非常勤講師として、翻訳の仕事をしているそうです。前者は給与所得、後者は雑所得として確定申告をしているものと考えられます。草壁家は、映画の舞台となる農村に引っ越してきたので、申告は引っ越した先を管轄する税務署で行います。引っ越し前の税務署ではありません。

メイとサツキが引っ越した家の探索をすると、まっくろくろすけがたくさん出てきました。「まっくろくろすけは扶養家族です」と言いたいところですが、それには6親等以内の血族、あるいは3親等以内の姻族である必要があります。 現実的ではないので、ペットショップを開業して、彼らを「棚卸し商品」とするのはどうでしょうか。維持費が経費にできますので、扶養控除を受けるよりずっと節税できます。

引っ越した家に、この家のオーナーであるおばあさんがやってきました。このおばあさんは、メイとサツキの家からの不動産所得と農業による事業所得を得ています。損益通算ができますので、どちらかが赤字の場合は、所得税を圧縮できます。税法に通じた、かなりしたたかな女性と見るべきでしょう。

お父さんとメイとサツキが3人乗りをしています。 道路交通法では、16歳以上であれば、幼児を2人乗せて、「幼児2人同乗用自転車」を運転することができます。 道路交通法で幼児とは、「6歳未満の者」とされていますが、メイ4歳、サツキ12歳ですので、道路交通法違反です。自転車も普通の自転車のようですし、お父さんには、道交法を遵守するつもりがないのかもしれません。コンプライアンス研修の受講が望まれます。

このあと、おばあさんが、畑で作業するシーンがあります。どうやら、少なくとも2人以上の従業員がいるようです。すでに、個人事業者ではなく、法人成りをしているかもしれません。そうすれば、家族を自由に従業員にできますから、所得を圧縮できる。税法に通じたかなりしたたかな女性と見るべきでしょう。

バス亭で、トトロに傘を無償で貸してあげました。このような貸与は、非課税と考えます。

その後、バス停に、ネコバスがやってきました。バス停に停車するということは、個人の自家用車ではなく、この地域の路線バスの可能性があります。ネコバスが自分自身で確定申告を行うか、トトロがネコバスを運行していれば、トトロが確定申告をすることになります。

そして、サツキとメイがトトロから木の実をもらいました。これは贈与になります。トトロが法人の場合は、一時所得ですが、その可能性は低いと考えます。ネコバスの運行を行う法人の可能性も捨てきれませんが、木の実はあくまでトトロ個人からもらったものとすると、やはり贈与でしょうか。

映画のラストでは、サツキのために、トトロがネコバスを呼びます。ネコバスは、トトロから時間的・空間的拘束を受けているようです。つまり、 最高裁・昭和56年判決を用いると、トトロからネコバスに支払われた金銭は、給与になります。

運行状況を見て「外注費かな?」と思ったのですが、そうではなさそうです。ネコバスは従業員です。あるいは、タクシーのように連絡して呼んだ可能性もゼロではありませんが、それはまた別の機会に検討したいと思います。

こんなふうに、アニメや漫画の税法上の取り扱いを考えると、税金に親しみを持てると思います。税金の知識を身につけると、きっと生きやすくなりますよ。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら