本来私は普段ビジネス書の類を読まない。複数の新聞を毎日くまなく読んでいるし、関連するWebの記事にも目を通すことで情報は十分足りていて、たいていのことはわかった気でいるからだ(しかし実際はほとんどわかっていない)。

本屋に行けば入ってすぐの一番目立つ場所にうず高く積まれている本の多くはビジネス書である。ビジネスから引退した私が今さらビジネス書を買うのも変な話である。しかし構造変化が激しい現代ビジネスの世界で身を削って働くビジネスマンの方々が、現状を把握し先を読むためにはこれらのビジネス書が大変に役立つことは十分に理解できる。

新たなビジネスモデルが次々に創造されることで今までに聞いたことのなかった用語が当たり前に使われるようになり、それについて行くだけでも大変である。今回はそんな皆様に最近読んだ本を書評という形でご紹介することにした。

実はこの本を読んだ(読まなければならなかった)のは、この本は現在私が受けている大学の授業で指定文献の1つになっており、期末レポートを書かなければならないというのが本当の理由である。

本のタイトルはずばり「GAFA」である。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)について私は過去の記事で取り上げたことがある(吉川明日論の半導体放談 第41回「GAFA/FAANGが跋扈する現代社会(前編)」をご参照。その回を執筆していた時点では、まだこの本は国内で出版されていなかったので、逆を返せば、私のGAFAへの理解が正しかったのかどうかをこの本を読んで確かめてみたかったというのも正直な話である。

本書「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」(東洋経済、2018年、スコット・ギャロウェイ著/渡会圭子訳。原題は「The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google」、2017年発行)は400ページを超える分厚い本であるが大変に読みやすく、多忙なビジネスマンでも一気に読んでしまうことができるだろう。

著者のギャロウェイ氏はニューヨーク大学スターン経営大学院のMBAコースで教授として主にブランド戦略とデジタルマーケティングを教えるアカデミックな人であるが、自身もコンサルタント会社を経営し、投資家でもある。内容は具体的な数字を挙げてGAFAの強さの核心に迫るが、その文体はユーモアに富んでいて非常に軽快である。翻訳も非常にわかりやすくうまい具合に原文の雰囲気を伝えていると思う。

  • the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

    the four GAFA 四騎士が創り変えた世界の表紙 (編集部撮影)

さてその内容であるが、この本の著者はGAFAを「ヨハネの黙示録」に登場する四騎士に例えている。この四騎士はそれぞれが地上の4分の1を支配し、地上の人間を抹殺する権限が与えられている。どの騎士がGAFAのどれに当たるかは書いていないが、Digital Disrupter(破壊的創造者)と呼ばれるGAFAの例えとしては冒頭から非常に興味をそそられる副題である。Digital Disrupter(破壊的創造者)については、私の過去の記事も是非ご参照いただければと思う(吉川明日論の半導体放談 第44回「Digital Disrupter(破壊的創造者)の登場」)。

4社の合計時価総額は2018年9月末時点で約3.38兆ドルほどで、これはほぼドイツの国内総生産(GDP)と同額である。日本と比べてみても、2017年度の実質GDPが533兆円。1ドル112円で換算してみると、約4.75兆ドルとなり、比較すると70%超を占める規模である、という事実をとってみても、これらの巨大企業が世界に与える影響力がいかに大きいかがわかる。

この本ではこれらの巨大グローバル企業の成立過程と、それぞれが持つ特徴をわかりやすく説明している。GAFAが商品を売り込む対象としての人間を3つの部位(脳、心、性器)に分解し、それぞれがどのような方法で人間のどの部位にアピールしてくるかを説明するくだりは、多分に誇張があるとしてもかなりうなずける点が多い。この本のわかりやすさは著者の例えの巧妙さにある。例を挙げれば次のような言い方である。

「近代科学によって解き明かされた宇宙の壮大さに重きを置く宗教なら、因習的な信仰からはまず生まれることのない崇拝と畏敬の念を引き出すことができるかもしれない。遅かれ早かれ、そのような宗教が現れるだろう」(カール・セーガン:アメリカの天文学者兼SF作家)。セーガン氏が思い描いていた宗教が現れた。それがグーグルだ。(本書203ページから抜粋)

知らないことに何でも答えてくれ、人に言えないようなまるで懺悔のような質問についても黙って聞いてくれて瞬時に何かしかの答えに導いてくれるGoogleは現代の「神」に例えられるが、実際はその「神」の実態は個人情報を収集するための深層学習に長けた巨大AI装置であり、その究極の目的は金儲けに過ぎないと切り捨てる。

この本で語られるGAFAの成立過程とそのしたたかな戦略についての記述はGAFA以外の既存の企業のすべてに対する示唆に富んでいる。検索、携帯電話、SNS、ロジスティックというGAFAの各企業が代表するそれぞれの事業分野の区切りは表向きのことであって、実は各巨大プラットフォーマーが狙っているのは、そのコアビジネスを中心としたサプライチェーンのすべてであるという指摘は、自身が現在置かれている事業分野に集中するあまり、異業種からの攻撃をまったく予想していないことが多いといわれる日本の企業文化に対する重要な警告を発しているようにも読める。

最後の部分では、これから「騎士」に昇格しそうな企業として、アリババ、テスラ、ウーバー、エアビーアンドビーなど複数の企業を挙げ、「騎士」に昇格するために欠けている部分などについての考察が加えられているが、その中に日本ブランドが1つもないのは寂しい限りである。

多忙なビジネスマン必読の一冊である。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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