前回は『ローカル線ガールズ』の映画化を紹介し、近年は日本の鉄道映画が少なかったと振り返った。2010年の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』、2011年の『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』は、2013年まで続く鉄道映画ブームの代表作。それからしばらく、鉄道を舞台とした邦画はなかった。それだけに『ローカル線ガールズ』に期待したい、と結んだ。

その記事を掲載した翌日、『RAILWAYS』シリーズ3作目『かぞくいろ』の制作が報じられた。ほとんどのメディアが12月1日の7時以降に公開しており、情報解禁がこの日時だったと推察される。記事の内容から見て、どれも同じ報道資料から書き起こされたようだ。つまり、発表は書面で、11月30日に通達された。なんという偶然だろうか。

  • 『RAILWAYS』シリーズ3作目の舞台は肥薩おれんじ鉄道(写真は観光列車「おれんじ食堂」)

『RAILWAYS』シリーズ3作目の舞台は肥薩おれんじ鉄道だ。かつての鹿児島本線で、福岡・熊本・鹿児島を結ぶ動脈の一部だった。2004年の九州新幹線新八代~鹿児島中央間開業にともない、八代~川内間(116.9km)が並行在来線としてJR九州から経営分離され、第三セクター鉄道の肥薩おれんじ鉄道となった。

シリーズ1作目の一畑電車、2作目の富山地方鉄道ときて、3作目は国鉄時代からの幹線ルート。ちょっと趣が変わるかもしれない……と思ったけれど、現在は並行在来線としてローカル線になっている。全線電化にもかかわらず気動車による運行だ。前2作は「電鉄」だったから、むしろローカル線の風合いは増しているかもしれない。

主演は有村架純さん。今年のNHK紅白歌合戦の司会を務める。2016年に続き2年連続の抜擢となった。NHKと有村さんといえば、今年度前半の朝の連続テレビ小説『ひよっこ』の主役が記憶に新しい。朝の連続テレビ小説といえば、2013年に放送された『あまちゃん』にも出演している。『あまちゃん』といえば、第三セクター鉄道の三陸鉄道がロケ地だった。少し強引だけど、第三セクター鉄道に縁がある女優さんである。

有村さんは『かぞくいろ』で肥薩おれんじ鉄道の運転士を演じる。男女雇用機会均等法の施行以降、女性運転士が続々と誕生している。女性運転士、鉄道ウーマンの映画としても、働く女性の共感を得られそうだ。

助演の國村隼さんは、鉄道関連の映画出演としては1997年の『萌の朱雀』がある。鉄道そのものが舞台ではなく、「鉄道が建設されなかった村」で過疎が進む村に暮らす家族を描いた作品だった。ヒロインの尾野真千子さんにとってはデビュー作。國村隼さんはヒロインの父親で、鉄道の新線の建設工事で働く男を演じた。

監督の吉田康弘氏は、2013年に『江の島プリズム』の監督・脚本を担当した。江ノ電が舞台で、福士蒼汰さん演じる主人公が江ノ電に乗ってトンネルに入ると、過去へタイムスリップしてしまう。何度もタイムトラベルを繰り返し、過去の悔いを改めようとする物語。ヒロインは本田翼さん。コメディタッチの青春映画だった。

『かぞくいろ』のストーリーは、主人公の晶(有村架純)と、9歳の連れ子がいる修平との結婚から始まる。しかし修平は突然亡くなってしまう。居場所をなくした主人公は、修平の故郷の鹿児島に行き、鉄道運転士の義父、節夫(國村隼)に出会う。主人公は生活のため、仕事を探す中で、節夫と同じ、そして修平が子供の頃の憧れだった鉄道運転士をめざす。女性の人生の再出発がテーマだという。

肥薩おれんじ鉄道には海岸沿いの景色もあれば、鶴の飛来地もある。観光列車「おれんじ食堂」も走っている。「おれんじ食堂」の運行開始にあたり、肥薩おれんじ鉄道の職員が車窓を遮る雑木をすべて伐採したというエピソードもある。路線地図を眺めるだけで、さまざまなドラマを想像できる。

鉄道を舞台とした映画は、ダイヤの制約を受けるなど厳しい環境でもあるという。『かぞくいろ』は吉田監督にとって、鉄道でロケする映画の2作目だ。そして今回も『江の島プリズム』とおなじく脚本も兼務する。

ところで、シリーズ2作目『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の中で、シリーズ1作目の舞台だった一畑電車がちらりと登場し、世界観のつながりを感じさせてくれた。今回もきっと、同様の演出があると思う。どこに富山地方鉄道が登場するか、一畑電車も再登場なるか。このあたりも楽しみだ。

『RAILWAYS』シリーズが継続されたことを喜びつつ、『ローカル線ガールズ ~私、故郷に帰ってきました~』と合わせて、鉄道風景をふんだんに盛り込んだ映画がヒットし、さらに、新たな路線で新たな作品が作り続けられることを期待したい。