11月1日、えちごトキめき鉄道の直江津運転センターに蒸気機関車が到着した。和歌山県の有田川鉄道公園に保存されていたD51形827号機で、圧縮空気で走行可能。新潟日報、上越タイムズなどの報道によると、えちごトキめき鉄道が所有者のアチハから5年契約で借り受けたという。

  • 直江津運転センターの転車台に載ったD51形827号機(えちごトキめき鉄道提供)

えちごトキめき鉄道は11月28日、お披露目式典と「SL・D51に親しむイベント」を開催。その後、習熟運転や調整を重ね、2021年春から一般公開を予定している。

D51形は1935~1945(昭和10~20)年にかけて1,115両が製造され、おもに幹線の貨物列車の牽引機として活躍した。在籍数が多く、全国で活躍したことから、「デゴイチ」「デコイチ」の愛称で親しまれた。D51形827号機は1943年、鉄道省浜松工機部(現・東海旅客鉄道浜松工場)にて製造。当初3年間は米原機関区(現・網干総合車両所米原派出所)、その後は中津川機関区(現・中津川運輸区)に配属され、1973年の中央西線電化にともない引退した。

  • 搬出中、煙室扉が開いている珍しい風景(えちごトキめき鉄道提供)

ほとんどの蒸気機関車が解体され、ごく一部の車両が博物館や公園などに譲渡され、展示される中で、D51形827号機は個人が譲渡を受けたという珍しい経歴を持つ。愛知県内の自宅敷地で保存され、当初は一般公開されていた。その後、盗難被害等の影響で非公開となる時期もあったが、屋根付き保管庫内でボランティアによる再整備が行われるなど、大切に扱われてきた。

■いすみ鉄道で走る構想もあった

D51形827号機が個人宅を離れ、有田川鉄道公園へ移設され、さらに直江津に移った経緯については、えちごトキめき鉄道代表取締役社長、鳥塚亮氏のブログに詳しく紹介されている。要約すると次の通り。

  • 2016年頃、当時いすみ鉄道の社長だった鳥塚氏がSL展示運転を構想。
  • しかしSLの復活再整備には数億円かかる。赤字の鉄道会社では不可能。
  • 大型重量物運送を手がけ、いすみ鉄道のディーゼルカーも手がけたアチハに相談。
  • アチハが蒸気機関車を保有し、全国の鉄道会社などにリースするビジネスを考案。
  • 圧縮空気でSLを動かす方式を考案した恒松孝仁氏に相談。
  • 鳥塚氏がブログで「デゴイチを探しています」と発信。
  • 827号機保有者の遺族から連絡。「何とか走る姿を小さな子供たちや皆様にご覧いただきたい」
  • アチハが827号機を搬出、整備の上、圧縮空気動態復元に成功。
  • しかし、いすみ鉄道はじめ複数の提案先で契約成立せず。
  • 和歌山県の有田川鉄道公園で展示。
  • 鳥塚氏のいすみ鉄道社長任期満了、えちごトキめき鉄道社長就任。
  • アチハがえちごトキめき鉄道に827号機のリースを提案。
  • 鉄道の町、直江津の人々の賛同を得る。

有田川鉄道公園は2002年に廃止された有田鉄道線を記念するために作られた。旧金屋口駅構内を有田川鉄道公園とし、有田鉄道や紀州鉄道が運行していたディーゼルカーを動態保存するほか、D51形1085機を展示している。ここに「動くSL」としてD51形827号機が加わっていたわけで、直江津に持って行かれるなんて、ちょっと気の毒な気がする。

  • 「おせわになりました」の幕を掲げ、有田川町鉄道公園から搬出されるD51形827号機(えちごトキめき鉄道提供)

  • 緩急車(貨車と車掌車を合わせた車両)も積み込まれる(えちごトキめき鉄道提供)

しかし、経緯を知れば納得で、もともとアチハが保有するSLリース事業のデモ機として保管されていたわけだ。D51形827号機はようやく本来の役務を与えられた。直江津に移っても保有者はアチハで、5年間のリース契約となっている。存在が定着し、直江津の観光客誘致、地元の人々の誇りに寄与すれば、その後も更新され続けるだろう。

■鉄道の町、直江津こそふさわしい

直江津駅は1886(明治19)年、官設鉄道の駅として開業した。後に信越本線となる路線の一部で、直江津側と高崎側から建設が進められ、1893(明治26)年の横川~軽井沢間開業でつながった。直江津は鉄道建設の資材を港から積み上げ、工事を進める拠点でもあった。さらに直江津~新潟間で開業した北越鉄道を国有化し、信越本線となった。

1911(明治44)年、信越本線の支線として直江津駅から西へ延伸し、これが後に北陸本線となった。他に直江津~直江津港間の貨物支線も存在した。機関庫が置かれ、貨物専用線からの直通列車もあるなど、鉄道の拠点として活躍してきた。

それだけに、直江津駅周辺の人々にとって、「直江津は鉄道の町」という誇りがあった。それは親から子へ、地域の歴史として語り継がれている。小学校でも、「鉄道のまち直江津」を学んでいるという。鳥塚氏はブログで、「この子たちに走るD51を見せたいと思った」と綴っている。

  • 直江津駅の航空写真。構内右側に転車台と扇形機関庫が見える(地理院地図より)

直江津駅には転車台と扇形機関庫が残されている。しかし、信越本線・北陸本線の電化によって、転車台と扇形機関庫の役目は終わった。その後、北陸新幹線の開業にともない、直江津駅はえちごトキめき鉄道が管轄する駅となった。この機会に扇形機関庫など未使用の土地を宅地にする案もあった。しかし、なんとか鉄道として活用したいと残していたという。そこに「デゴイチ」が到着。直江津駅で、ようやく昭和の鉄道風景が完成した。

同時に、車掌室付き貨車ワフ29500形も搬入された。この車両は現代建築家の故・清家清氏が保有し、自宅の庭に保存されていた。これもアチハに譲渡され、有田川鉄道公園でデゴイチ体験乗車会の乗車車両として使われていた。

  • 直江津駅に到着し、組み立てられるD51形827号機。「お世話になります」の幕も(えちごトキめき鉄道提供)

圧縮空気蒸気機関車と車掌車の乗車体験は、真岡鐵道の「SLキューロク館」でも9600形で実施している。直江津でも同様の乗車体験ができるだろう。

蛇足ながら、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの糸魚川駅では、レンガ車庫の一部を移設した「糸魚川ジオステーション ジオパル」が作られた。ここには大糸線で活躍したキハ52形や、工場専用線で活躍した蒸気機関車「くろひめ号」が静態保存されている。来春の「デゴイチ」一般公開に合わせて訪れたい。

  • 一般公開は2021年春の予定 (えちごトキめき鉄道提供)

なお、11月28日に開催される「SLに親しむイベント」は事前予約制で、最大150名、最大3回に分けて行われる。参加は無料。内容は各回とも「転車台旋回実演」「D51機関車撮影会」「大きさ体験」「触れあい 体験」など。参加申込みはメールにて行い、受付期間は11月18日12時まで。抽選の上、当選者にのみ「申込内容確認メール」を送付する。イベントの詳細はえちごトキめき鉄道公式サイトで確認できる。