岡山市の路面電車改良計画が進んでいる。まずは2022年度までに岡山駅前電停から岡山駅東口へ延伸する予定だという。わずか100m程度の延伸だけど、全国全線完乗をめざす「乗り鉄」にとっては見逃せない。

  • 岡山電気軌道に変化が…(写真:マイナビニュース)

    岡山電気軌道に変化が…

現在、岡山電気軌道の路面電車は岡山駅前電停を起点としている。JR岡山駅東口を出ると、真正面に電停が見える。時間帯によっては「おかでんチャギントン」電車も姿を現し、楽しい風景になる。

しかし、JR岡山駅東口から岡山駅前電停まで、約180mの距離がある。その間に片側最大3車線の大通り「市役所筋」が横たわる。歩行者がJR線から路面電車へ乗り換えるために、地下通路を通り抜けるか、横断歩道を2回も渡らなければならない。

この状態を解決する方法として、路面電車の駅前東口広場乗入れが検討されている。計画図面によると、岡山電気軌道東山本線を岡山駅前電停から複線のまま岡山駅東口に延伸し、現在は大きな噴水がある場所に新電停を建設するとのこと。線路は3本で行き止まり式。ホームは2本あり、これなら「おかでんチャギントン」など特別なおもてなしを行う電車も余裕を持って停められるだろう。

  • 岡山電気軌道の岡山駅東口広場への乗入れが検討されている(国土地理院地図を加工)

11月21日に開催された「路面電車乗り入れを含めた岡山駅前広場のあり方検討会」にて、この計画を検証するため、「2020年1月にバスなどへの影響を調査する」と決定した。路面電車は便利になるかもしれないけれど、路面電車の延伸で遮られる市役所筋の渋滞や、駅前を発着するバスの遅延が懸念される。これはおもにバス事業者からの意見だ。そこで1月下旬の日曜日と月曜日、路面電車の通行を前提とした実験を行う。

11月21日付の山陽新聞の記事「岡山駅乗り入れ バスへの影響調査 路面電車事業で岡山市 20年1月」によると、具体的な調査手順として、「駅前交差点の東西方向の青信号表示36から25秒へ短縮」「右折信号を11秒から10秒に短縮」の2点を操作し、路面電車の通行時間を確保するという。これでバスの運行に支障がなければ問題なし。ただし、バスや車の渋滞を引き起こす場合は、路面電車やバスの運行本数、マイカーを規制するなどの調整が必要になる。

この計画は岡山市が2001(平成13)年に策定した「岡山市中心市街地活性化基本計画」の一環だ。マイカーの普及により、郊外の大型店などで買い物をする人が増え、岡山市の中心市街地は衰退しつつあった。そこで商業、アミューズメント、住宅を整備し、公共交通機関を充実させ、中心部のにぎわいを取り戻そうとの趣旨だった。

自動車交通が増えるにしたがって、路面電車は「交通の流れを妨げる」存在となってしまった。昭和30年代後半以降、東京都電をはじめ全国で路面電車が廃止されていったけれど、1990年代にLRT(ライトレールトランジット)やLRV(低床型車両)がヨーロッパで普及すると、日本の路面電車運営事業主も注目した。

1997(平成9)年、気候変動枠組条約第3回締約国会議において、京都議定書が採択されると環境保護面でもLRVが注目され、「脱マイカーの切り札」として期待された。2006年に開業した富山ライトレールの成功もあって、日本でLRVの導入が進んだ。かつて車の邪魔とされた路面電車が、いまや脱モータリゼーションの「騎手」となっている。

■7区間で新路線を建設する構想も

ところで、JR岡山駅東口の改良計画の図を見ると、分岐器の配置に違和感がある。駅の出入口に片渡り線がひとつだけあり、3本の線路を北から順に1番、2番、3番と並べた場合、左側通行で到着した電車は1番に進入できない。3番に入った電車も片渡り線がないため、折り返すと逆走になる。1番に入るためにも逆走する必要がある。

  • 路面電車延伸部の略図

この場合、現行の岡山駅前電停と、駅前広場に設置される電停を結ぶ2本の線路が複線ではなく、単線並列だと考えれば納得できる。その証拠に、岡山駅前電停の東側にある両渡り線は残すようだ。単線並列で駅前広場へ往復し、岡山駅前電停に戻った電車は、その先から複線の左側を走ることになる。この構造になる理由として、ひとつは市役所筋上に両渡り分岐器を作りたくなかったから、もうひとつは3番のりばを将来的に市役所筋方面延伸線に使いたいからではないかと推察される。

岡山市はこの他にも7区間で新路線を建設し、拠点施設への延伸や環状化を実現したい考えだという。岡山市の公開資料「路面電車のネットワーク検討」に、構想中の7区間が示されている。すべて単線で建設するとのこと。

  • 【1】岡山駅東口~市役所筋~岡山市役所
  • 【2】岡山市役所~岡山大学病院~清輝橋電停
  • 【3】岡山市役所~大雲寺電停
  • 【4】大雲寺電停~岡山芸術総合劇場~西大寺町電停
  • 【5】城下電停~石山公園
  • 【6】岡山駅西口~津山線乗り入れ~岡山済生会総合病院~岡山大学
  • 【7】清輝橋電停~阿南営業所岡山赤十字病院
  • 岡山の路面電車ネットワーク構想(国土地理院地図を加工)

これら7区間のうち、【1】が岡山駅東口駅前広場に南側から乗り入れる電車だ。駅前広場に設置される電停の3番のりばも、この路線のために作られると思われる。

構想中の区間の【1】【2】と清輝橋線・東山線、あるいは【1】【3】と清輝橋線・東山線、【1】【3】【4】と東山線といった組み合わせで環状線を形成することもできる。環状化は運行本数を増やす上でも重要といえる。

【6】も注目したい。終点の岡山大学へ行くルートとしてJR津山線を挙げている。これはJR津山線をLRT路線に転換するという構想か。資料には「津山線の敷地、線路の利用も検討」となっていた。これは実現するとしても、かなり先の話になりそうだ。あるいは、かつて名鉄が各務原線で実施していたように、軌道の電車と鉄道の列車を共存させるしくみにするかもしれない。

2014年、万葉線は高岡駅前に近づけるため、約100m延伸した。2015年には、札幌市電が約400m延伸して環状化を実現している。2020年は富山ライトレールと富山地方鉄道が合併した後、3月に富山駅での「南北接続」が実現する予定だ。延伸区間の距離はわずか100m程度とはいえ、新線ができるたびに現地へ赴き、全線完乗タイトルを維持している人は多い。それが完乗という趣味の面白さでもある。

岡山電気軌道の岡山駅延伸について掘り下げたら、7つも新線計画が現れた。もしすべて実現したとすれば、それぞれが開通するたびに完乗タイトルホルダーがやって来るはず。岡山市と岡山電気軌道の動向からも目が離せない。