クラウドサービスを使って仕事している、という話をすると、よく聞かれるのが「Excelはどうするんですか?」という質問だ。筆者もExcelを仕事で使っている時間は短くない。しかし、Excelで作成したファイルを見る、あるいは値や数式を入力編集する程度であれば、オンライン版Excelを使う。オンライン版Excelは、Webブラウザの中で動作するExcelだ。もちろん、ChromebookやAndroidのWebブラウザでも動作する。
オンライン版Excelを使う最大の理由は、URLでExcelブックファイルをブラウザー内で開くことが可能になる点。クラウドサービス側に他の情報とともにブックのURLを記録しておけば、必要なファイルをブラウザですぐに開くことができる(写真01)。
Excelで行う作業の中には、複雑なものもある。たとえば、PowerQueryなどを使ってクエリを作成し、テキストデータを処理するようなことは、オンライン版Excelでは行えない。しかし、ローカルのWindows版Excelで作成したクエリを含むブックファイルは、オンライン版Excelでも更新が可能だ。外部のテキストファイルやCSVファイルなどは読み込めないが、ブック内、ブック間のクエリには対応している。
オンライン版Officeの利用には、サブスクリプション契約は不要で、Microsoftアカウントさえあれば誰でも無料で利用できる。
Office for the Web
オンライン版Officeは、2008年に発表された「Office Web Applications」が始まりだ。2006年にGoogleが開始した「Google Spreadsheets」(現Google Docs)に危機を感じたのか、正式サービス開始の9ヶ月前に発表が行われた。最初は、Excelのファイルを表示できる程度のもので、作業中に落ちることもあった。当時のOfficeは、Office 2010で、いまからみればかなり機能も少なかったが、当初のオンライン版Officeは、その多くの機能をサポートしていなかった。このため、発表時に試した人は、いまだにあまりいい印象を持っていないかもしれない。
Microsoftの戦略のブレなどもあり、鳴り物入りで発表された「Office Web Applications」は「Office Online」と名称変更されたあと、2019年に「Office for the Web」とさらに名前が変更されている。なお、正式には、単なるOfficeが名称で、Windows版などと区別したいときだけ「~ for the Web」をつけるということのようだ。話が面倒なので、ここでは「オンライン版~」と表記し、ローカルアプリケーションに関しては「Windows版Excel」などとする。
ここ数年、オンライン版Officeはサービスとして充実してきており、少なくともExcelの表示や修正といった作業では、十分な機能を持つ。GUIもほぼExcel並みとなり、ブラウザアプリケーションであるための制限で、本物とは同一にできない部分もかなり改善された。Windows版が過去との互換性に縛られている感じがあるのに対して、比較的大胆に操作を変更している部分、たとえば「区切り位置」と「テキストから列へ」などもある。オンライン版Excelでは、Windows版ExcelではMicrosoft365でないと利用できないxlookupやfilterといった関数も利用可能だ。
両者の最大の違いは、Windows版ExcelがCSVやテキストファイルなど多くのファイル形式に対応しているのに対して、オンライン版Excelは、Excelのブックファイルにしか対応していない点だ。新規にブックファイルを作成することもできるが、すでにあるテキストファイルなどを処理するといった用途には向いていない。もちろん、コピー&ペーストでテキストを貼り付ける(Excelの区切り位置に相当する「テスキトから列へ」がある)、Windows版Excelで読み込んで、OneDriveに保存してオンライン版で扱うことは可能だ。
オンライン版とWindows版Excelの機能に違いについては、以下のページに記述がある。
> 【ブラウザーと Excel でのブックの使用の相違点 - Office サポート】
Excelを使う
新規にブックを作成するには、オンライン版ExcelをOffice.comから起動してもいいが「https://www.office.com/launch/excel」を開けば、テンプレートや過去に開いたブックなどを表示するリボンのファイルタブ(バックステージビューという)が開く。とりあえずは、これをブックマークバーなどに置くのがいいだろう。オンライン版Excelは、ブックを自動保存し、新規ブックは、OneDriveのルートフォルダーに保存されるため、そのままクラウド側でリンクできる。
オンライン版Excelでブックを開いたとき、そのURLを記録しておけば、そのファイルを直接開くことができる。OneDrive側でファイルを指定して、右クリックメニューから「共有」を選んで「リンクのコピー」を行っても、ブックファイルを直接開くことができるURLを得られる。この2つは結果的には同じブックファイルを開くがURLが違っている。前者は、ドメイン名が「onedrive.live.com」となっているのに対して、後者は「1drv.ms」であり、後者のほうがURL全体が短い。URLを扱う場合には、短いURLのほうが記述がスッキリとして編集作業がやりやすい。しかし、作業としては、オンライン版Excelを開いたときのURLをコピーするほうが簡単だ。
Windows版Excelで作成したローカルのブックファイルはOneDrive側にコピーして使う。Windowsの同期機能を使えばいいだろう。
クラウドアプリケーションという特長を生かし、オンライン版Excelでは、デフォルトで共同編集やバージョン履歴が有効になる。ファイルがロックされないので、クラウドからの利用に向いている。作業中に別のマシンに移動して、同じブックを再度開くことができ、アプリケーションのインストールも不要だからだ。「閲覧」モードにしておけば、誤って編集することもないし、万一間違えて書き換えたものが保存されてしまっても、バージョン履歴(ファイル→情報→バージョン履歴)から前の状態に戻すこともできる。
やはり米国企業には、「競合他社」が必要だ。オンライン版Excelがここまで充実した裏には、Googleスプレッドシートの存在がある。なお、Googleスプレッドシートもオンライン版Excelとほぼ同じようにURLからファイルを開くことができるなど、クラウドサービスでの利用が可能だ。どっちを使うかはお好み次第である。