職場や取引先で見かける「残念なおじさん」。彼らはなぜ、若者から見て"残念"と思われる言動をとってしまうのでしょうか。

マイナビニュースでは、仕事を持つ20~30代のマイナビニュース会員500名を対象に「中高年男性が残念だと思う瞬間」について調査。この連載では漫画にてさまざまなタイプのおじさん像を紹介した上で、『<40男>はなぜ嫌われるのか』の著者で男性学の第一人者・田中俊之氏にその背景を解説してもらいます。

3回目は「スキンシップ勘違いおじさん」です。

アンケートでは、残念だと思う瞬間について、若手社員から以下のようなコメントが寄せられました。

・「セクハラギリギリ(もしくはアウト)の発言をする」(男性/33歳/福岡県/食品)
・「若い女の子に抱きつく。『かわいい、かわいい』と言ってダメなところを注意しない」(女性/31歳/愛知県/警察・消防・自衛隊)
・「男性や年配の女性には態度が悪いが、若い女性に対する態度だけ愛想が良く残念」(男性/38歳/北海道/ソフトウェア)
・「セクハラ言動を指摘するとすぐに『昔はこんなのセクハラじゃなかった』と言い訳しだす」(女性/25歳/大阪府/ガラス・化学・石油)
・「意味のないメールが毎日くる」(女性/39歳/神奈川県/ドラッグストア)
・「『女性の営業マンはやっぱり顔』って言われたときはドン引きしました」(女性/37歳/神奈川県/インターネット関連)
・「自分の席の後ろを通るとき『調子どう?』って言いながら肩をもんでくる」(男性/38歳/愛知県/輸送用機器)
・「話しかけてくるときの顔が近いことと、やたら肩や頭を叩いてくるとき」(女性/31歳/福岡県/化粧品・医薬品)
・「ボディタッチが多い。下着の色を聞いてきたときなど」(男性/38歳/神奈川県/専門サービス関連)

田中氏は、「スキンシップ」と称したセクハラまがいの行動をしてしまうおじさんが多い理由を以下のように解説してくれました。

時代の変化に対応できないおじさんがセクハラに及ぶ

「#me too」のムーブメントや官僚のセクハラ問題などもあり、ようやく日本でも本格的にセクハラに対し、厳しい目が向けられるようになってきました。しかし、加害者であるはずのおじさんたちは、いまいちピンときていない様子です。どうしてなのでしょうか。

現在、50代~60代の男性が若者だった時代には、多くの女性が結婚か妊娠をきっかけに退職していました。自分の妻も女性の同僚も、主婦になっていったのです。その後、パートタイムで働く女性は増えましたが、2000年代までは70%ぐらいの女性が結婚、妊娠、そして、出産をきっかけにフルタイムの仕事を辞めています。そのため、どうしても彼らは、女性は「腰掛け」であるとの固定観念を持ちがちです。そして、一部のおじさんは「だから女性を蔑ろにしてもいい」と考える傾向があるのでしょう。

2010年代になると、育休を取得して復帰する女性が顕著に増えました。女性も男性と対等に働く時代の幕が開きつつあります。こうした変化に対応できないおじさんたちが、「何をしたらハラスメントなのか」とあたふたしているのが現状です。

しかし、そもそも「何をしたらハラスメントなのか」という質問は低レベルです。辞めたいと悩む部下を、上司が話も聞かずに「社会人失格!」と言ってと追い返し、後日に「まだ辞めてないの?」と声をかければ部下は傷つくでしょう。しっかり話を聞いて信頼関係を築いたうえで、「まだ辞めてないの?」と声をかけた場合は、冗談として成立する可能性が高いと言えます。

アンケート結果にある「若い女の子に抱きつく」のような行為が、セクハラなのは明白です。しかし、多くのハラスメントは、常にその場の関係性の中で発生するので、ボーダーラインの設定が簡単ではありません。そうした「コンサル」で儲けようとするのはまさに火事場泥棒ですし、「アドバイス」を求めるおじさんも自己保身ばかりでみっともないです。

「自分も加害者になるかも」と心配している中高年男性が学習するべきは、セクハラやパワハラのボーダーラインではなく、コミュニケーションを通じて職場で信頼関係を築く方法です。そのうえで、おじさんは大人の責任として、いかにハラスメントという社会問題を解決するかを考えてください。

解説: 田中俊之

大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授。
社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。単著に『男性学の新展開』『<40男>はなぜ嫌われるか』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか!』、共著に『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』などがある。

漫画: 山本ゆうか

フリーランスのイラストレーター・漫画家として活動するワーキングマザー。
ウェブを中心に雑誌、書籍、広告の仕事で活躍している。情報処理学会会誌『IT日和』、チエネッタ『お隣さんの○○事情』イラスト担当中。