これまで前面と背面に1つずつというのが一般的だったスマートフォンのカメラ。だが最近は、背面に2つのカメラを搭載した「2眼」の機種が増えており、中には自分撮り用のフロントカメラも2眼という機種が出てきている。なぜ、スマートフォンのカメラの数が増えているのだろうか。

背面だけでなく前面のカメラも2眼に

スマートフォンに欠かせない機能の1つとなっているカメラ。最近ではSNS、特にInstagramなどの人気もあって、カメラを使う頻度が増えているという人も多いのではないだろうか。だがここ数年、そのカメラ機能に大きな変化が起きている。

スマートフォンのカメラは通常、写真撮影などに用いる背面のメインカメラが1つ、自分撮りやビデオ電話などに用いる前面のフロントカメラが1つ、というのが一般的だ。だが最近、メインカメラを2つ、つまり「2眼」のカメラを搭載した機種が、急激に増えているのである。

  • MAYA SYSTEMの下で復活を果たしたFREETELブランドの新スマートフォン「REI 2 Dual」も、2つのカメラを搭載した2眼カメラを大きな特徴として打ち出している

代表的な例としてアップルのiPhoneシリーズを見ても、2016年発売の「iPhone 7 Plus」から、大画面モデルにはカメラが2つ搭載されるようになった。2つのカメラを切り替えることで、通常画角の写真だけでなく、2倍ズーム相当の写真を撮影できるほか、「ポートレートモード」を用ることで、背景をぼかした写真を撮影することも可能となっている。

また最近では、メインカメラだけでなく、エイスーステック・コンピューターの「ZenFone 4 Selfie Pro」や、ファーウェイの「HUAWEI Mate10 lite」などのように、フロントカメラにも2つのカメラを搭載する機種が出てきている。自分撮り需要の高まりから、ここ最近中国メーカーを中心としてフロントカメラを強化する機種は増えてきており、そうした流れがフロントカメラの2眼化を推し進めているようだ。

  • 最近ではメインカメラだけでなく、「HUAWEI Mate10 lite」のようにフロントカメラにも2眼カメラを採用する傾向が強まっている

2つのカメラを搭載する機種が増えたことから、カメラセンサー最大手のソニーなどは、センサーの出荷数が増えるなど大きな恩恵を受けているようだ。だが一方でスマートフォンメーカーにとって、カメラを増やすことはコストがかさむというデメリットも抱えてしまう。にもかかわらず、なぜスマトフォンメーカーは2眼化を積極的に推し進めているのだろうか。

カメラの画質競争に限界、2眼化が新たな提案に

その大きな理由はカメラ性能競争の限界にある。スマートフォンのカメラは利用者が多い人気機能であるため、短期間のうちに急激な進化を遂げてきた。それを象徴しているのが画素数で、「iPhone 3G」は200万画素だったのが、「iPhone X」では1200万画素にまでアップしているし、中には2000万画素を超えるカメラを搭載した機種もいくつか存在する。

またレンズの明るさを示す「F値」に関しても、当時明るいレンズを採用したとして注目されていた「iPhone 4S」のF値が2.4であるのに対し、iPhone Xの広角カメラのF値は1.8となっており、暗い場所でもより明るく鮮明に撮影できるようになっている。F値は低いほど明るい写真が撮影できるとされており、最近ではF値が1.8どころか、1.7、1.6という機種も出てきているようだ。

こうした状況を見れば、いかにスマートフォンのカメラが、大きく進化してきたかが理解できることだろう。しかしながらこれだけ性能がアップしてしまうと、一般の人がスマートフォンの画面で写真を見る分には、画質の違いを見分けるのが難しい。そのためカメラ性能の向上に力を入れても、その魅力がユーザーに伝わらなくなってきているのだ。

一方でSNSの利用などによって写真を利用する機会は増えていることから、いかにカメラで楽しい写真を撮影できるか、いかに顔を美しく撮影できるか、いかに他の人と違う写真を撮影できるか、といったように、カメラに対するユーザーニーズは多様化、細分化してきている。それに応えるため、当初は「SNOW」のようにARを活用して装飾を施したり、「BeautyPlus」のように美肌効果に力を入れたりするなど、ソフトウェア面での進化が見られるようになった。

そしてソフト面だけでの性能進化に限界が見えてきたことで、起きてきたのがハード面での進化、つまりカメラの2眼化である。2眼化によって望遠撮影やボケ味のある撮影など、1眼のカメラでは難しかった機能の実現が可能になり、メーカーとしても差異化が図りやすくなった訳だ。

ちなみにカメラの2眼化は、2014年発売の「HTC J butterfly HTL23」などで既になされていたものだが、現在の2眼化ブームを作り出したのはファーウェイであろう。2016年発売の「HUAWEI P9」が、カメラの2眼化に加え、ライカとの協業によって1眼レフカメラのように美しく精細なボケ味のある写真を手軽に撮影できることが人気となってヒットしたことから、2眼化の流れに拍車をかけたのだ。

  • カメラ2眼化の流れを大幅に加速させたのが「HUAWEI P9」。カメラの2眼化とライカとの協業により、美しいボケ味のある写真が手軽に撮影できることから人気となった

スマートフォンの2眼カメラはユーザーにも受け入れやすく、メーカー側としても工夫できる余地が非常に大きいことから、今後は一層採用するメーカーが増えていくだろう。だが3眼、4眼といったように、カメラの数がどんどん増えていくかというと、それはまだ未知数である。カメラを増やしたことで従来にない新しい撮影スタイルの提案ができるかが、カメラ複眼化の流れを進めることになりそうだ。