多くの人の支持を集めることが人気のバロメーターである一方、常に評価の目にさらされる宿命にあるのが著名人たち。それぞれの職業観の中で、どのような言葉を支えにして苦境を切り抜けているのか。連載「わたしの金言」は、著名人たちが心の拠り所としている言葉を聞く。

第9回は、監督、演出家、脚本家、俳優と多方面で異彩を放つ松居大悟氏。監督として9作目となる映画『君が君で君だ』(公開中)では、池松壮亮が尾崎豊に、満島真之介がブラッド・ピットに、大倉孝二が坂本龍馬になりきった男を演じ、自分の名前すら捨てた3人の生き様を超純愛エンターテイメントへと昇華させた。

そんな松居氏にとっての金言は、7作目となる映画監督作『アズミ・ハルコは行方不明』で主演に起用した蒼井優の言葉。取材時に彼女が語ったことが、今でも心に残っているという。

  • 松居大悟

    松居大悟監督


蒼井優と一緒に取材を受けている時、彼女の言葉が今でも残っています。ライターさんから、「松居大悟監督に何かアドバイスするとしたら?」と聞かれて、彼女はこう言いました。

「とにかく、スタートラインに立って最初に歩き出した時の気持ちを持ち続けている人だと思います。それをずっと持ち続けてほしい。飛距離なんて、歩き続けていたらいくらでも伸びるから。伸ばそうとしないで、とにかく最初の気持ちを大事にし続けてほしい」

色んなものを見てきたからこその意見。僕も初期衝動だったり、最初に作ろうと思った気持ちとかを忘れかけて迷走してダメになったりすることもあるので、その言葉は今でも深く胸の中に残っています。いくらの予算があるとか、キャストが誰とか、どんな原作でやるのかとか。実は、そんなことってどうでも良いんですよね。

僕にとっての集大成ともいえる『君が君で君だ』は、そこを意識した作品です。一体どういうことなのか。確かめたい人は見てください。

自分にとっての「金言」、実はもう1つあるんですが……うーん……。こういうところで言うと狙っているように思われてしまうので……胸の中に大切にしまっておきます。僕の中では終わってないので。片付けるみたいな感じになるのが、すごくイヤなんです。

  • 大倉孝二、池松壮亮、満島真之介

    映画『君が君で君だ』(左から大倉孝二、池松壮亮、満島真之介) (C)2018「君が君で君だ」製作委員会

■プロフィール
松居大悟
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。慶應義塾大学在学中に劇団ゴジゲンを結成。2009年の『ふたつのスピカ』(NHK)でドラマ脚本家デビュー。最近では、大ヒットシリーズ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系・17~18)を手がけた。2012年に映画監督デビュー作となる『アフロ田中』が公開された。以降は、『男子高校生の日常』(13)、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)、『スイートプールサイド』(14)、『ワンダフルワールドエンド』(15)、『私たちのハァハァ』(15)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)。放送中のフジテレビ系『グッド・ドクター』(毎週木曜22:00~)では俳優として出演、J-WAVE『JUMP OVER』(毎週日曜23:00~)ではナビゲーターを務めている。