消費税が10%になった。

8%になった時は「音もなく」「こっそり」という感じがしたが、今回は「記念すべき10%の大台!」「これからキャッシュレス還元(期間限定)がはじまってお得です!」というような、まるで増税が「良きこと」であることのような不思議な空気が漂っていた。

しかし、渋谷で若者が「巨大ビジョンで増税カウントダウン」をしていない時点で、「盛り上がっている」とは言い難い。どう考えても増税は、国民にとって「良きこと」ではないのだ。

ただ、あんまり国民に盛り下がられ「10%になったからしばらく買い物はやめよう」と思われたら店は困るし、景気がまた悪化する。

どうせ10%は覆らないのだから、車に轢かれたけど医者がイケメンだった、など、嘘でもポジティブに考えた方が世の中のためなのかもしれない。

ちなみに、金にだらしない奴は「そもそも値札を見てない」という、常に「コミケでDB(ドスケベブック)を買うオタク」と同じ買い物の仕方をしているので、「2%上がった」と言われても全く実感がわかない、という利点がある。

逆に1円単位まで見て買っていた、几帳面な方はさぞかし今辛いだろう。

軽減税率制度が生んだイートイン脱税

そして「消費税10%」と同時にスタートしたのが「軽減税率制度」である。

「軽減税率」とは、簡単に言うと食品などの「生活必需品」は消費税8%のままにする、という制度だ。必ず必要なもの税率を据え置くことにより、低所得者の生活を救済する、というのが一応のお題目だ。

しかし、8%と10%が混在するだけでも面倒であり、また「必需品」の線引きも曖昧なため、施工前から「必ず現場で混乱が起きる」と予想されていた。

特にお持ち帰りがあるファーストフード店やイートインスペースがあるコンビニなどでは、混迷を極めると言われていた。

何故なら、同じ商品なのに「お持ち帰り」なら「食品」として8%になるが、その場で食べる、となったら「外食」として10%になるという不思議な現象が起こるからだ。

これを書いているのが10月3日である。私はまだ軽減税率のことで人々が殴り合っていたり、店舗が核の炎に包まれていたりする現場を見ていないので何とも言えない。インターネットを見ると「軽減税率のせいでイートインなどでトラブルがあった」という報告もかなり散見されるが、これも定かではない。

もうすでに、軽減税率のことで殴り合った、うちの店は全焼した、という人がいればご一報いただきたい。

さて、そこで話題になった言葉が「イートイン脱税」である。

「イートイン脱税」とは、レジでは持ち帰りと言って、8%で会計しながら、しれっとイートインを利用する行為のことを指す。

2%の消費税を脱税していることになるのだが、この「イートイン脱税」に関する罰則は今のところ存在しない。つまり「人々の良心に任せるしかない」のが現状である。令和になって日本中で「田舎の無人野菜販売所方式」が採用されるとは思わなかった。

しかし、店側はただでさえ、新しいレジを導入したり、新しい会計法を周知したりと負担を強いられている。そこにさらに「イートイン警備員」を置け、というのもコスト的に酷である。

「制度上問題なし」でいいの?

そこで「イートイン脱税」と共に話題になったのが「正義の人」というワードだ。

これは「絶対『あの人、持ち帰りなのにイートインで食べてますよ』と店にチクる『正義の人』が現れるに違いない」という予想から生まれた言葉だ。

「正義」というのは皮肉であり「店側にとって迷惑な人」という意味で使われている。

だが、悪いのはイートイン脱税をしている側である。それを指摘するという行為は実際「正義」なはずだ。

一方で、例え動機が善意でも「警察の仕事を代わりにやっています」という人であふれかえるような状況にでもなれば、その内トラブルが起こるだろう。

イートイン脱税者を取り締まるのも、あくまで店側の仕事なので、そこに第三者が入ると事態がややこしくなり、店側にとって数円の消費税より大きな損害になってしまうこともある。

しかし、電車内で騒いでいる人間を、一般の人が注意したら「それは職員の仕事なのに、正義の人乙(笑)」と痛い人扱いされるだろうか。

おそらく、電車で騒いでいる人というのは、目に見えて迷惑だが、イートイン脱税者というのは、周囲の人間に実害があるわけではない。むしろ正義の人の指摘で「逆に目に見えた騒ぎになる」可能性があるから、そう言われているのかもしれない。

確かに、自分は正規料金を払ったのに目の前にイートイン脱税をしている奴がいたら、不愉快だろう。しかし飯を食っている横で「大の大人が数円をちょろまかそうとし、さらにそのことで無関係者を含めて揉めている」方が、キツく、もうそこには行きたくなくなってしまう。

さらに、よほど他人を注意深く見ていなければ、誰がイートイン脱税をしているかなどわからない。よってイートイン脱税を指摘するのは「よほどの暇人」という印象にもなってしまっている。

しかし、やはり悪いのは、やはり正義の人より、イートイン脱税をする方である。

もしくは、やる前から散々トラブルが予想され、ネガティブな新語が次々に生まれてしまう、現状「正直者が馬鹿を見る制度」がそのまま施行されてしまった点にこそ、問題があるのかもしれない。