南川氏は、「これからは、米中貿易摩擦で最も注目されており、影響の大きな制裁対象であるHuaweiに絞って話を進める」として、Huaweiの長所と短所ならびに今後の半導体産業への影響について以下のように話した。

Huaweiの長所

  • モバイルネットワーク事業世界No.1
  • 迅速な新規製品開発、ビジネス展開
  • 中国市場における強い基盤
  • 企業規模の巨大さ
  • グローバルなカバレッジ(ただし北米を除く)
  • 優れたアプリ設計機能

Huaweiの短所

  • 貿易戦争(アメリカ政府の対中政策)の渦中にいる点
  • 北米事業が欠如している点
  • 主要コンポーネントを海外から購入している点

Huaweiの現状

Huaweiは、世界のスマートフォン(スマホ)市場でもっとも急成長しているOEMの1つであり、2015年に出荷台数は1億台を超え、その3年後には2億台を突破した。結果として、同社は2018年のスマホ出荷台数の14.6%を占め、年間で初めてAppleを抜いて2位に躍り出た。

2019年第1四半期も前年同期比50%増の5910万台を出荷したが、前年同期比で大幅なプラス成長を記録したのは、大手スマホサプライヤの中でがHuaweiだけだった。Huaweiは、日本で言えばソニーのような存在で、多くの人がHuawei以外の中国ブランドへ乗り換えようとはしないようである。

Huaweiは基地局で32%、バックホール機器でも32%の世界シェアを持っており5Gでは4割以上のシェアを取る勢いで、米国にとっては脅威である。Huaweiの子会社であるHiSiliconはスマホ向けプロセッサ「Kirin」を設計しているが、その性能は世界トップクラスであり、これも米国の脅威となっている。

HuaweiのEntity List追加による電子産業への影響

Huaweiが米国商務省によってEntity Listに追加された影響について、南川氏は以下の点を指摘した。

  • Huaweiのスマホ年間出荷台数は、当初予想の2億4000万台から多くても1億9400万台、最悪1億5000万台になると予想している。来年、この禁止措置が期間継続されれば、Huaweiの出荷台数はさらに減少するだろう。
  • この影響で、スマホではSamsung、OPPO、VIVO、Xiaomiなどが恩恵を受けるが、中国内では消費が落ち込む可能性が大きい。なぜなら、中国では特にHuawei製が欲しいと思っている人々が多いからだ。
  • KirinチップはHuaweiのスマホ出荷量の69%に搭載されている。QualcommのSnapdragonは主にHuaweiスマホのミッドレンジおよびローエンド向け製品で使用されている。
  • Huaweiはアプリケーションプロセッサをすべて自社製品に置換が可能だが、他の部品は置換が困難なものが多い。
  • スマホの影響も大きいが米国は特にネットワーク機器の採用に懸念を持っている。モバイルインフラではNokia、Ericssonが恩恵を受け、イーサネットマクロセルモバイルバックホール、イーサネットアクセス装置(EAD)、ルータではCisco、Nokia、Juniperが恩恵を受けるだろう。
  • 日系メーカーはHuaweiスマホ向け部品のシェアが高い企業も多く、短期的にはHuaweiのシェア低下の悪影響を受ける可能性が高い。しかし、米国製部品から日系や台湾系への設計変更が行われているため中期的には恩恵を受けると思われる。

制裁によるHuaweiとスマホ業界への影響

南川氏は今回の制裁を踏まえ、「Huaweiは長期的に厳しいビジネス環境に陥るだろう」とする。つまり、Huawei問題は長期的に解決しないという見方である。スマホ市場におけるHuaweiの位置づけおよび今回の制裁のHuaweiおよびライバルスマホメーカーへの影響について、同氏は以下のように見解を示した。

  • Huaweiは、ZTEと比較して米国の部品に依存する度合いは低いが、米国製のすべての部品をすぐに他国あるいは自国製で置き換えることは困難である。
  • 2019年のほぼ半数がすでに出荷済みであり、四半期分の部品在庫を所有しているため、中国市場向けに携帯電話の製造継続は可能である。ただし、ソフトウェアとサービスの利用停止は即座に発生するため、一部の市場ではすぐに影響が出る。
  • Googleのソフトウェアサポートの終了は、特にヨーロッパにおいて、Huaweiのスマホ事業に悪影響となる。ただし、すでにHuaweiはAndroid互換の独自OSを発表し、搭載スマホを発売するとの情報もあり、今後のGoogleの動向が注目される。
  • Huaweiはヨーロッパでシェア2位である。その市場シェアの一部はライバルによって置き換えられる。特にSamsungは、ほとんどの地域のすべての製品セグメントでHuaweiと競合しているため、最大の恩恵を受ける。また、中国ベンダーのOppo、Vivo、Xiaomiへの恩恵は限定的である。アフリカのTranssion Holdings(Tecno、iTel、Infinix)、Nokiaなどがヨーロッパで恩恵を受けるだろう。
  • Huaweiは米国企業からさまざまな部品を購入しており、納入禁止が特許ライセンスにまでおよぶ場合、その影響は海外事業だけでなくスマホ事業全体にも及ぶことになろう。

Huaweiスマホに使われているICはどの国のものか?

IHS Markitでは、Huawei製の3種類(ハイエンド、ミッドレンジ、ローエンド)のスマホを分解し、どこのメーカーのICが使われているか調べてみたという。その結果、ハイエンド機種のP30では、中国製(35.3%)、韓国製(28.5%、メモリ)、日本製(27.2%、CMOSイメージセンサ)がほとんどを占めた。ミッドレンジ機種も同様の傾向であったが、ローエンド機種では、米国製が61.7%と過半を占め、残りが中国(16.9%、OmniVisionのCMOSイメージセンサ)、EU(9.7%)、日本(0.2%)と、ハイエンド/ミッドレンジとはまったく異なる結果となった。米国製品が入手できなくなると数が必要なローエンド機種に影響が出るだろうと南川氏は話す。

  • IHS

    Huaweiの代表的なハイエンド、ミッドレンジ、ローエンドのスマホに搭載されている半導体のサプライヤの本社所属国別シェア (出所:IHS Markit)

Huaweiへの主要半導体・電子デバイス供給メーカーのうち最大の納入者(アプリケーションプロセッサ、アナログ半導体)はHuawsei子会社のHiSiliconで50億ドル規模。自社売り上げの8割以上がHuawei向けである。次いで、SK Hynix(DRAMおよびNAND)で36億ドル規模で、これはSKの売り上げの約10%を占める規模となっている。次いでTSMCで20億ドル規模で、同社の売り上げの10%ほどを占める。4位は東芝メモリである。以下に主要日本メーカーのHuawei向け納入製品、その売上高、および企業総売上高に占めるHuawei向け売上高の比率を示す。

  • 東芝メモリ:NAND、10億ドル(10%)
  • ソニー:CMOSイメージセンサ、5億ドル(10%)
  • ヒロセ電機:コンデンサ、5000万ドル(5%未満)
  • 村田製作所:RFフィルタ/MLCC/バッテリ、2億ドル(5%未満)
  • 太陽誘電:RFフィルタ/MLCC、1億ドル(5%未満)
  • TDK:バッテリ/受動素子、4億ドル(5%未満)

Huaweiが採用するディスプレイはどこ製か?

Huaweiのスマホ用ディスプレイ供給メーカーについては、2017年以前は、ジャパンディスプレイ(JDI)、Innoluxなど海外メーカーのものを大量に調達していたが、2018年に入り高精細ディスプレイの生産技術力をつけてきたBOE、Tianmaなど中国国内メーカーからの調達量を上げている。

その結果、2018年のディスプレイ調達先は、BOEが26%、Tianmaが26%、Samsungが6%、JDIが5%、LG Displayが4%、シャープが3%などとなっている。JDIが2015年の26%から大きくシェアを落としており、この取引量の減少が同社の経営危機の一因にもなっているといえる。

一方、Huaweiは2019年のハイエンドモデルからSamsungやBOE製の有機EL(AMOLED)の採用拡大を進めており、今回の規制の影響を受ける可能性が高い。また、Huaweiが調達数量を上げてきたBOE、Tianmaなどの中国メーカーも、規制による悪影響が出ると見込まれると南川氏は見ている。

(次回は7月19日に掲載します)