2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡をさまざまなテーマからたどる。この「平成を駆け抜けた番組たち」は、平成の幕開けと同じ時期にスタートし、現在まで30年にわたって続く番組をピックアップ。そのキーマンのインタビューを通して、長寿番組の人気の秘密を探っていく。

第1回は、平成元(1989)年4月にスタートした、テレビ朝日『渡辺篤史の建もの探訪』(毎週土曜4:30~)。間もなく放送1,500回を迎え、日本の住宅を探訪しまくってきた俳優・渡辺篤史に話を聞いた――。

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    渡辺篤史
    1947年生まれ、茨城県出身。茨城なまり矯正のため劇団若草に入団し、60年にドラマ『にあんちゃん』(フジテレビ)でデビュー。以来、俳優、ナレーターとして活躍し、89年から『渡辺篤史の建もの探訪』に出演。10年から14年まで、神戸芸術工科大学環境・建築デザイン学科の客員教授を務めた。

最初は公共建築を訪問していた

――平成とほぼ同時に番組がスタートして30年目に突入しましたが、番組を始める前から建築に興味を持っていたそうですね。

まずは、放送局(テレビ朝日)に、そして、関係する全ての人に感謝します。建物を好きになった要素は、いくつかありますが、まず第一に故郷の田舎の思い出ですね。豊かな田園風景を背景に蔵のある広い家でした。親の都合で上京してやっと住めた狭い家は、幼少の頃の原風景にはかなわない。家が好きになったのはその頃からですね。蔵の太い梁、柱、漆喰の壁、母屋の土間、釜戸、囲炉裏、大黒柱、などなど…。それが、建物に対する私の原初であり、原風景です。

また、成長のプロセスに、西洋に対する憧れがあります。音楽を聴きながら本を読み、写真集を見る。その中に、「ル・コルビュジエ」「ミース・ファン・デル・ローエ」「フランク・ロイド・ライト」といった建築家の作品がありました。ますます集中して追いかけ、日本人の建築家も知ることになるんです。

――子供の頃から建物が好きだったんですね。

そうですね(笑)。小さい頃から家が異常に好きだったんです。いわゆる日本の住宅は、アメリのカ建築家、I・M・ペイさんが、戦後の日本復興半ばの時にヘリコプターで上空から東京の街並みを見て、「ゴミ箱をひっくり返したような街」と言ったそうなんですが、番組を通じて、日本の街の景色や住環境を良くしたいという思いもあるんです。そんなこと言ったら偉そうに思われるかもしれないけど、家族で番組を見て、「この家好きだ」とか「嫌いだ」とか言ってくれるだけでいいんです。その家に憧れて「こういうところに住みたいな」って子供が言ったり、それを聞いたお母さんが「お父さん頑張らなきゃね」って言ったり、普通の会話の中に建築のことや家のことが出てくれば必ずレベルは上がります。そして、住環境が住みやすく美しくなれば良い。

――番組開始当初に探訪していたのは、一般の住宅ではなかったんですよね。

実は、公共建築を訪問していたんですよ。最初は沖縄、首里城の隣にある城西小学校。当時は全国どこの学校もアメリカの影響でコンクリート製の丈夫な豆腐みたいな建物ばっかりだったので、縦長で気候風土が違う日本は地域的に変えてもいいんじゃないかということで、建築家の原広司さんが設計したところなんです。3階建てで、漆喰を思わせる壁面、階段や廊下に装飾を施したり、図書館を円形にしてじゅうたん敷でゴロッと横になって本が読めたり、教室の仕切りをなくしたり。そういう新たしい試みをやっていたんですよ。そこで一番驚いたのは、赤瓦の裏に、子供たちが自分の名前を書いて校舎の屋根に使用してるんです。それで「この校舎は僕たちが作ったんだ」って、威張ってました。地域を愛する気持ちを自然に身に付けていたんですね。

――デザインだけでなく、機能的な面や精神的な部分まで計算された建築だったんですね。

2回目は、沖縄の名護市庁舎でした。役所ってどうも権威的な感じで作るじゃないですか。でもそこは、沖縄の土を混ぜたブロックとレンガでところどころに街の人たちが作ったシーサーが置いてあるんですよ。そのマッチングが最高で! 海が見えて芝生もあって、朝9時半くらいに行ったら、日差しを受けたじいちゃんばあちゃんたちが泡盛飲んで、「渡辺さん一緒に踊ろうよー」って(笑)。そういう街に溶け込んでる感じが良かったですね。

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  • 『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日 毎週土曜4:30~、BS朝日 毎週日曜8:30~)
    俳優の渡辺篤史が、こだわりの個人住宅を訪問して紹介していく番組。あす5月12日の放送では「埼玉県熊谷市・山岸邸/枯山水の庭がある蔵のような家」(=写真)を訪れる。

下見なしで住人も玄関で初見

――その後、一般の住宅に伺うスタイルになるんですね。

それは、僕の方から「設計家がデザインした個人住宅を紹介したい」とお願いしたんです。創意工夫して夢を作り上げる物じゃないですか。それが面白いと思って進言したらOKになって。最初は1クール(3カ月)で終わる予定だったんですけど、30年。これは本当にうれしいですよ。毎回アイデアや工夫が見られ、それを発見して感動するんです。

――撮影のときは、事前に下見などされないんですか?

好きな建築家を推薦し、選んでもらうんですが、予備知識なしで、住んでる方とは初見であいさつもせず見せてもらいます。ピンポンで初めて、顔合わせです。本当に感じたことを話しているんです。

――家の中に入ると、感じるままに探訪されているのが伝わってきます。階段を上がろうとしたら「ちょっと待って!」と止まって、横にある収納スペースをご覧になったりされていますが、事前の打ち合わせもしないんですか?

家を建てるのは、山に登り、極めるのと同じで裾野は広い。外観、建物の好きな素材、インテリアなど、何から始めても良いのです。それは全て、建物に関わりがあるから。だから、全く予測不能で、わがままをさせてもらってます(笑)。でも、それができるのは、設計家がデザインしたお宅というのは、こだわりがいっぱいあるからなんですよ。いろんなところに思いを込めている。どれに興味を持ち、話を聞いても大丈夫なんです。だから自由にできるんです(笑)

――1つのお宅は、どれくらい時間をかけて見るんですか?

人が1日に集中できるのは、15分と言われています。ですから続けて3時間くらいが限度。それ以上やると、私がクタクタになり仕事になりません。スタッフも早く帰りたいじゃないですか(笑)