2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第7回は「平成7年(1995年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

平成7年(1995)は1月17日に発生した阪神・淡路大震災で、各局は大混乱。レギュラー放送は軒並み休止となり、報道特別番組を放送したほか、自粛ムードの中、バラエティ番組などに大きな影響を及ぼした。その後、3月20日には地下鉄サリン事件が発生し、22日にはオウム真理教への強制捜査。5月の教祖逮捕まで、ワイドショーはオウム真理教で覆い尽くされるなど、上半期は不穏なニュースが続いた。

バラエティ番組では、4月に『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)、11月に『鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系、現在の番組名は『ザ!鉄腕!DASH!!』)がスタート。その他では、10月に『めちゃ×2イケてるッ!』の前身番組『めちゃ×2モテたいッ!』(フジテレビ系)、『ランク王国』(TBS系)がスタートし、今春まで放送される長寿番組となった。

また、アニメ『ルパン三世』(日本テレビ系)のルパンを担当していた声優・山田康雄さんが亡くなり、モノマネをしていた栗田貫一が引き継いだのもこの年。違和感のなさが話題になり、現在もなお担当している。

数多くの名作がある中、TOP3には「1990年代後半~2000年代の連ドラに大きな影響を与えた3作」を選んだ。

北川悦吏子らしい“障害+純愛”劇

■3位『愛していると言ってくれ』(TBS系、豊川悦司、常盤貴子主演)

  • 豊川悦司

    豊川悦司

  • 常盤貴子

    常盤貴子

「脚本・北川悦吏子、出演・豊川悦司」と聞けば、現在放送中の朝ドラ『半分、青い。』(NHK)を思い浮かべる人は多いだろう。しかし今から23年前、すでに2人は深い信頼関係で結ばれていた。

興味深いのは、『半分、青い。』の主人公・楡野鈴愛(永野芽郁)は「左耳が聴こえない」のに対して、『愛していると言ってくれ』の主人公・榊晃次(豊川悦司)は「両耳が聞こえない」という設定。さらに、鈴愛は漫画家となり、榊は画家だった。両作に加えて、『オレンジデイズ』(TBS系)のヒロイン・萩尾沙絵(柴咲コウ)も「聴覚を失った」キャラクターだけに、北川の好む主人公設定は明白だ。

物語は、聴覚障害者の画家・榊晃次と、劇団員の水野紘子(常盤貴子)の純愛を描いた純度の高いラブストーリー。幼くして聴覚と母親を失うなど暗い過去を持つ晃次と、元気で純粋な紘子の対比が鮮明で、だからこそ心がすれ違ってしまう様子が丁寧に描かれていた。

作品の切なさを加速していたのは、劇中では一切しゃべらない晃次の佇まい。視聴者に晃次の心情を想像させる余白を与え、時折はさまれるモノローグ……すなわち紘子には決して聞こえない晃次の声が涙腺を刺激した。そして、終盤で晃次が唯一発した叫びのような言葉にならない声は、ドラマ史に残る名シーンだろう。

ただ、中盤以降、紘子が不安や嫉妬心から、取り乱し、泣きわめき、果ては健一と結ばれてしまうなど、女性の業を感じさせる描写を連続させたのは、いかにも北川脚本であり、賛否が分かれるところか。

少数精鋭の脇役たちも、恋の盛り上げ役として貢献。劇団仲間で紘子を愛する矢部健一(岡田浩暉)、晃次の異母妹ながら兄以上の感情を持つ榊栞(矢田亜希子、デビュー作だった)、晃次の元恋人でバツイチ子持ちの島田光(麻生祐未)らを絡めた愛憎劇でも視聴者を引きつけた。

当時、斬新だったのは、多くのシーンで手話を採り入れたこと。若年層をターゲットに入れた連ドラでは珍しく、「ありがとう」「愛している」などをマネする人が増えるなど、ちょっとした手話ブームとなった。

主題歌は、DREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」。シンプルな歌詞が純愛をテーマにした作風にフィットし、毎話のエンディングを盛り上げた。

中居正広と主人公がピッタリ重なる

■2位『味いちもんめ』(テレビ朝日系、中居正広主演)

  • 小林稔侍

    花板・熊野役の小林稔侍

個人的な話になるが、SMAPメンバーの中で最も俳優として好きなのは中居正広だ。演技力うんぬんよりも、役の核となる部分をつかむ感覚に長け、共演俳優とのバランスに配慮できるため、中居の出演作は『ナニワ金融道』『ブラザーズ』(フジテレビ系)、『ATARU』(TBS系)など、登場人物のやり取りを楽しめるような作品が多い。

その筆頭が初主演ドラマの『味いちもんめ』。1995年の放送後、翌1996年に第2シリーズ、1997年、1998年、2011年、2013年に単発スペシャルが放送された。「人気シリーズ」と言いたいところだが、どちらかというと放送初期から他局の派手な作品に話題を奪われがちな陰の存在。しかし、地味なポジションだったからこそ、中居や共演者たちの熱い人間ドラマがまぶしく見えた。

主なあらすじは、「料理学校をトップで卒業して、料亭「藤村」に就職した伊橋悟(中居正広)。見習い修行中であるにも関わらず、地道な努力が嫌いで自信過剰な伊橋は、先輩板前とのケンカが絶えないなど、封建的な板前社会では典型的な問題児だった。しかし、花板・熊野信吉(小林稔侍)の料理を目の当たりにして未熟さを実感した伊橋は、一流の料理人を目指していく」というもの。

「味覚やセンスは天才的だけど、精神的に幼く、バカで生意気」「でも、こうと決めたら努力を惜しまない頑張り屋」という設定が、当時22歳だった中居のパーソナルイメージにピッタリ合致。その後、SMAPのリーダーとして、一流のMCとして飛躍した姿が、ますます「伊橋はハマリ役だった」という気持ちにさせてくれる。

実際、伊橋と中居が壁にぶつかりながらも、成長していく姿に自分を重ね合わせた同年代は少なくないだろう。かくいう私もその一人だが、2011年と2013年に単発スペシャルが放送されたとき、「ひさびさの友人に再会した」ような感覚にさせられた。

不遜な伊橋に対して、厳しくも愛情あふれる先輩たちも魅力たっぷり。小林稔侍、内藤剛志、布施博、柳沢慎吾が料亭の重みと温かさを体現し、伊橋が成長できる環境としての理由づけとなっていた。

もう1つ忘れてはいけないのは、「板前の現場を知る」という醍醐味。献立を決める板場のリーダー「花板」、魚をさばく「立板」、煮物を任される「煮方」、雑用係の「追い回し」などの専門用語を覚えた人が多く、“業界モノ”としても楽しめた。

主題歌は大黒摩季の「ら・ら・ら」。伊橋には相沢陽子(田中律子)という恋人がいたが、歌詞のような恋愛模様は、あまり描かれなかった。当時はどんな作風でも恋愛をしっかり絡めるのがお約束だったが、ワンテーマに絞ったところが潔い。