エイジングはいつから始まる?

エイジングはいつから始まるの?

私は甘党で「串団子」(特にみたらし)が大好物なのですが、実は「アンチエイジング」は串団子に似ているのです。アンチエイジングという言葉を聞いたとき、シミやしわなどの美容的な内容をイメージされる方も多いでしょう。さらに「女性が対象で、男性には関係ない(興味がない)話」「20代や30代だから関係ない」と考える方もいらっしゃるでしょう。

実は、まったく違うのです。前回に「『物理的な加齢+生物的な加齢』の結果として、『老化』現象が起こる」とご説明しました。人間社会は「平等」でないことも多い現実がありますが、それでも「一日24時間、1年365日」という時間軸は平等です。国籍や人種、老若男女すべての人に「老化(エイジング)」は平等に訪れ、逃れることはできません。

エイジングはいつから始まる?

「30歳(or40歳)を過ぎると、深夜までの仕事や宴会がつらいなあ。10代や20代の頃は徹夜でも平気だったのに……」などと感じることはありませんか? 実年齢以上に「体の疲れが出て無理がきかなくなる」「シミやしわが増えたな」ということから、「年を取った」と実感する方も多いことでしょう。「20代半ばは、お肌の曲がり角」という言葉もあります。

ところが実は、「この世に生を受け、生まれた瞬間」、即ち0歳から老化は始まっているのです。「赤ちゃんの肌はモチモチ、ツヤツヤしている! 」と表現されることがありますが、老化が進み始めている大人と比較すれば、「赤ちゃんの老化」は僅かなものです。

「アンチエイジング」は、英語では「Anti-Aging」と表されます。「Anti(抵抗する)、Aging(老化)」の意味から、直訳すると「老化に抵抗すること」になります。

学問としてのアンチエイジングは、1990年初頭に欧米で研究が始まった、非常に新しい分野です。日本では1990年代後半に形成外科や美容外科など一部の医師たちが取り入れ、シミやしわなど「見た目の若返り」を目的とする医療を提供してきました。

そして2000年頃から内科や外科などの医師たちにも広く伝わりました。時期をほぼ同じくして、化粧品やエステティックサロンなどの美容業界、女性誌などのメディアを通し、徐々に社会に浸透していき、多くの方に知られるようになりました。

病気は串団子のようにくっつき、連動して発生

「老化に抵抗する」という直訳から、「アンチエイジング=若返り」と解釈している人も多いでしょう。ただ、アンチエイジングによって「時計の針を戻す」ことは残念ながらできません。大人が赤ちゃんの体と入れ替わることも当然不可能です。アンチエイジングの目的は「時計の針の進みを遅くする(老化を遅くする)」ことなのです。

ではなぜ、アンチエイジングと串団子が似ているのでしょうか。

人間の体は、さまざまな臓器や細胞で構成されています。臓器や細胞は、全く別物として動いているわけではありません。脳が活動するには、心臓から血管を流れる血液が必要です。酸素や栄養を運ぶ血液も、空気を取り込む肺の存在が不可欠です。

高血圧や血管が詰まることから動脈硬化が起こり、心筋梗塞や脳梗塞につながるなど、病気も各臓器が別個で異常をきたしているわけではありません。「体の仕組み=臓器」で、各病気は個々の存在としては「1つの団子」ですが、人間の活動や病気の発生は、串団子のようにくっつき、連動しているのです。健康状態が良くなければ、肌や身体機能も低下してしまうこともあります。

アンチエイジングで重要なことは、臓器や病気の一つひとつだけでなく、「人体全体を診る」ことです。老化が原因となる病気や症状は、シミやしわだけでなく、高血圧や糖尿病、悪性腫瘍(ガン)、脳血管障害、認知症、骨粗しょう症、白内障・老眼、更年期障害、前立腺肥大症、難聴など非常に多岐にわたります。

医学における診療面でも、皮膚科や形成外科・美容外科だけでなく、内科、外科、脳外科、整形外科、眼科、精神科、神経内科、産婦人科、泌尿器科、耳鼻科など、非常に幅広く連動しています。アンチエイジングを医療として行うには、多様な知識と経験が医師にも求められます。あたかも、団子を横刺ししている串のように、複数の科にまたがる横断的な知識が必要になるというわけです。

次回は、「肌とアンチエイジングの不思議な関係」を書きたいと思います。

※写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: 倉田大輔(くらた だいすけ)

日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医。

日本大学医学部卒業後に、形成外科・救急医療などを研鑚。2007年に若返り医療や海外渡航医療を行う池袋さくらクリニックを開設。「お肌やアンチエイジング」や「歴史と健康」などの講演やメディア出演。海上保安庁が行う海の安全推進活動への執筆協力や「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く”美・食・宿”』を執筆。東京商工会議所 青年部 理事。