富士通がAI画像解析ソリューション「GREENAGES Citywide Surveillance V3」の販売を開始した。デジタルサイネージなどの視聴人数や人物属性をもとに広告効果を測定し、人の興味や行動に着眼した街頭広告モデルや街づくりを支援するもので、富士通独自の個人を特定しないAI画像解析技術で実現するという。

富士通は、先端技術をいかに社会に実装するかをテーマにさまざまな取り組みを行っている。「GREENAGES Citywide Surveillance」も、V1では都市の見える化を果たし、V2ではAI機能を強化、そして、今回のV3では人に着眼したAI活用をもくろんでいる。そして、安心して快適に暮らせるまちづくりを支援する。

  • GREENAGES Citywide Surveillanceでは、その場に何人の人がいて、そのうち何人が注目しているかを瞬時に分析。顔認識をすることなく群衆を構成する人々の属性を導き出す

「群衆」の動きをまるっと捉えるAI

やっていることは、群衆の都市活動をデジタルに認識し、群衆のリアルな行動の特徴を捉えることだ。このテクノロジーでは、街の随所に設置されている監視カメラなど、いかに既設のファシリティにソフトで寄り添えるかが考えられているという。

広角にとらえた監視カメラの映像では、映り込む人物が小さく、顔正面が映らないことは多い。そんな群衆がいる光景でも、個々の視認方向を検出し、群衆の興味、関心を捉えることができるという。具体的には性別推定や年代推定を行う。

この技術のミソは顔認識をいっさい行っていないという点だ。いわゆる個人情報保護の観点から「誰が見た」「この人物とこの人物は同じ」といった情報は記録されない。

カメラがとらえた映像は、いったんローカルのコンピュータに集められ、そこで稼働するAIが画像を分析し、画像を含まないメタデータだけをクラウドに送る。複数のカメラの情報を解析する処理系はコンパクトで、パソコンに毛が生えた程度のものでまかなわれるという。

そして、クラウド側では集まったデータをもとに、現場に掲げられた広告等の掲示物がどのように見られているのかを分析する。つまりこのシステムはポスターやデジタルサイネージなどで掲示される各種広告等の視聴率調査ができるというものだ。

デジタルサイネージに取り付けられたカメラが前にいる人物の顔をとらえ、年齢などの属性や性別等を分析し、その人の嗜好に応じた広告に切り替えるシステムは以前からあったが、今回の技術では「群衆」のまなざしを十把一絡げにとらえる。AIは頭の向いている方向や、着ている洋服の色や形状などでさまざまな属性を推論する。決して顔を元に判断はしない。それによって広告投資効果の分析や広告視聴数を把握可能なモデルとして提供する。

公共の場で人々を導く新技術にならないか

今、東京の街は五輪を前提に再開発のまっただ中だ。いや、五輪は目と鼻の先、それよりも先の将来のまちづくりが段階的に進行している。極端な話、よく知っているターミナル駅周辺も立ち寄るたびに街の様相が変わっているといってもいい。東京でいえば、現在の渋谷駅や新宿駅は決して人に優しいとはいえないのに、それに拍車がかかっている。変わりつつある駅施設を案内する標識や案内板なども不親切きわまりない。

今回の富士通のシステムは、第一義として広告効果の高いサイネージ設置をめざしているが、公共の場におけるナビゲートの評価にも応用できるのではないか。2020年の現代に、駅で迷うなんてことがあっていいはずがない。そんな悲劇を起こさないためにも、どの位置に、どの高さに、どの言語で案内を掲げればいいのか。文字のサイズは適切なのか。どのくらいのサイズが注目されやすいのか、色はどうなのかなど調べることはたくさんある。

スマホではない、新しい案内システムに期待

将来を科学の力で豊かにするために、今、われわれは何をどうすればいいのか。その指針を手に入れるために、今という時期は絶好のチャンスではないか。五輪はテクノロジーのショーケースとも言われるが、それをうまく利用できなくてはソンだ。そういう意味ではプライバシーの問題をクリアしつつ人の群れとして認識して動向を分析するという手法はきわめて魅力的だ。

監視カメラというと、どうしても管理された社会を連想してしまうが、初めて訪れたような場所であっても迷わず快適に移動したりできればどんなにいいだろう。今、そうした環境のためには個人が持つスマホなどのデバイスがインドアナビゲーションをするような方向で考えられることが多いが、そうではない別の方法論もあるはずだ。カウンターを片手にどれだけ人が行き交ったかを数える調査風景は何十年も変わっていないが、そろそろそんな原始的な方法ではなく、テクノロジーの力でよりよい動線を導き出せるようにしてほしいものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)