今回のテーマは「テレビの作法」である。私はテレビをほとんど見ない。「芸能人格付けチェック」「SASUKE」「プロ野球戦力外通告」ぐらいだ。

それすら、タイミングが合わないと見られない。なぜなら、数年前からわがテレビに付いている録画機能付きDVDは、「ディスクを入れたら出ない」という、「お前も道連れだ」と言わんばかりの自爆テロのような故障をした。

さらに、「そろそろ録画機能付きDVDを買い換えないと、でもまあ、言うほど使わないから、いらないよね」と自分で言い出し4秒で完結、という、そりゃ夫婦の会話もなくなるわ、ということを言い続けて数年経った。つまり、ぶっ壊れたままである。

よって、必ず見ている上記番組ですら、もしその時間帯にやんごとない用事があったら「見れない」。見るとしても、繰り返して見ることはできないので、「リアルタイムで見て網膜に焼き付ける、二度はない」という、平成も終わろうかというのに、テレビ番組に対し「一期一会」という生活を送っている。

しかし、テレビを見ないのは、つまらないからではない。それに、テレビをつけると大体、嵐が出ている。これは、私が見る時にたまたま嵐の番組をやっているのか、今テレビ界は、常時嵐の番組をやっているのか分からないが、とにかく目にする率が高い。

私がテレビを見ない間に何をしているかというと、ツイッター、つまり、インターネットを見ている。インターネットでは、嵐他、ジャニーズのタレントは肖像権の問題で写真を掲載することができず、灰色で全面塗りつぶされていることが多い。

これは写真だけではない。昔、仕事で全然似ていない某マツジュンの絵を描いたのだが、「シルエットにしてください」と言われたので、慣例にならって灰色にしたことがある。「こんなに似てなくてもダメなのか」と愕然としたのを覚えている。

よって私など、平素インターネットしか見ないため、ジャニーズ系タレントに関しては、局部どころか全身モザイクのAVを見ているに等しい状態であり、それが当たり前になっているのだ。それが、テレビだと、完全無修正で出ているのである。全身モザイクAVを見ていた者が、無修正を見るのだ。

よって、1年に2~3回、上記の3番組を見る以外でテレビをつけて、嵐などを見ると、まず「いいのか? 」と思う。5人が一緒に画面に映っていたりすると、「訴訟じゃすまない」とすら思う。

しかし、それがテレビでは当たり前なのだと気付くと、それだけで「テレビすげえ」と思う。さらに、それが基本タダだというから、驚愕せざるを得ない。「そんなすごいものを何で見ないか」と言うと、テレビではなく私の性格的問題だ。何せ落ち着きがないので、ただ見るだけのテレビより、手を動かすネットやスマホの方が向いているのだ。

あと、部屋が好きすぎるのも問題だ。私の部屋は、居住区というより、ゴミ箱なのだが、居心地がいいのだ。なぜなら、そのゴミ箱内で一番巨大なゴミ、つまり、ゴミたちの元締めが私だからである。ゴミを入れるためにわざわざあつらえられた箱なのだから、ゴミである自分が居心地悪いわけがない。

よって、極力部屋から出ない。テレビのあるリビングは落ち着かないのである。部屋にテレビを設置すれば見るかもしれないが、ネットがあってテレビがある部屋になると、いよいよ「出る意味が分からなくなる」ので危険だ。

そのような理由で滅多にテレビを見ない私だが、年末年始は、戦力外通告と格付けチェックがあるので、それでもテレビをよく見る期間である。そして今年は、『香川照之の昆虫すごいぜ!』という番組も見た。面白いと、ネットで評判だったので、正月に放送されているのを見たのだ。

とてもいい番組だと思った。私は虫が好きではない。番組中、マレーシアの森の中、仕掛けた白い布に大量の虫がたかっているシーンがあった。魚で言えば「大漁」という大成功シーンなのだろうが、私がリアルでこれを見たら雄たけびを上げて逃げると思う。

では何がいいかと言うと、虫が大好きな香川照之がいい。つまり、「虫とか嫌いだし全然いいとか思えないけど、香川さんが楽しそうで何より」と思えるのがすごくいいのだ。俳優さんなので、視聴者がそう思えるようにやっているとしたら、本当にすごい。

前にも言ったが、自分が楽しくない時、自分が理解できないもので盛り上がっている人間を見ると、腹が立って、その他人が好きなものをくだらないと腐してしまったりするものだ。「人を憎むな」。1月3日引いたおみくじにはそう書かれていた。

新年早々、「俺の分からねえことで幸せそうにするんじゃねえ」ではなく、「その良さは分からないけど、楽しそうで良かった」と思わせてくれた当番組には感謝である。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。