LoRaWAN 挿絵

みなさんは「名探偵コナン ゼロの執行人」は見ただろうか。

これは、日本中の女、時に男をとりこにしている「安室透」の話をしたくてしゃあねえ中年女が、テーマを無視してあむぴ(愛称)の話をしようとしているというわけではない。ちゃんとテーマに関係ある話なのだ。

以下、映画のネタバレが含まれている。だが、「あむぴがカッコ良ければ、トリックとかどうでもいい」というクソ萌え豚にとってはかすり傷程度の内容だとは思う。とはいえ、これからまっさらな気持ちで見ようとしている方は引き返してほしい。

知識があるとより深く分かる「ゼロシコ」

このIT用語コラムも100回を超えるわけだが、その間に「IoT」という言葉が何回も出てきた。何回も出てきた割には私含め全員忘れていると思うのでもう1回言うが、「IoT」とは「モノのインターネット」という意味である。

今までネットというのはPCやスマートフォンなど、主に通信機器と繋がっているものだった。「IoT」はそれらに限らず、他の家電や車など、あらゆる「モノ」にネットを繋げる技術のことである。そうすることにより、例えばIoT機能つきの家電なら、外にいながらでも操作をすることができる。

まさにその「IoT」が映画コナンで登場したのである。詳しい経緯は割愛するが、ネットに繋がっている「IoT家電」などをハッキングし、遠方にいながらいたるところで暴発などの不具合を起こす、という仕掛けが用いられたのだ。

世界的に「これからはIoTやで」と言っているのに、これだけの大ヒット映画が、フィクションとはいえ「IoT家電は第三者が操って暴発させられる」と言ってしまって良いのだろうか。ただ、劇中では安室透が輝きすぎていたため、それを差し置いて「IoT家電って危険なんじゃないの?」と心配している奴はかなり少数派だとは思う。

ちなみに、作中で「IoT」についての説明はほぼなかった。コナンが「わかった! IoTだ! 」と言えば、周りも「なるほどIoTか! 」と返すという、完全に「みなさん、IoTぐらいご存知ですよね?」という体で話が進んでいった。

もちろん、IoTを知らなかったとしても、話の流れから何らかの遠隔操作技術を使ったんだな、というのはわかる。だが、登場人物たちがあまりにもナチュラルに「IoT」を連呼するので、自分になじみがないだけで、「IoT」という言葉も、「IoT」を使った製品も普及し終わっていた、ということなのだろうか。

よって、「名探偵コナン ゼロの執行人」を見た人全員に、「IoTのところすんなり飲み込めた?」「そもそも「IoT」って言葉知ってた?」と聞きたいのだが、残念ながら見た人はほぼ全員、安室透の話かしないため、それを遮って「それより『IoT』のことなんだけど」という勇気はない、変態だと思われる。

ともかく「名探偵コナン ゼロの執行人」は、「IoT」が一般家庭にまで相当普及している、という世界観だったわけだが、そうなると今回のテーマも相当普及している、ということになる。

「LoRaWAN」、これが今回のテーマだが、その前に以前「LPWA」という用語を取り上げたのを覚えているだろうか?

私は忘れた。

よってもう一回調べなおしたところ「Low Power Wide Area」という意味であることが判明した。「IoT」の普及により、ありとあらゆるモノにネットがつながるとなると、それだけ広範囲の通信回線が必要だ。だが、広ければそれだけ電力がかかる。よって、広く、さらに消費電力が小さい通信回線が求められる、それが「LPWA」というわけだ。

コナンでは、東京がプチ混乱するほどIoT製品がドッカンドッカンいっていたため、相当良い感じに「LPWA」が張り巡らされていたと予想される。「LoRaWAN」は、その「LPWA」の一種である。

「LPWA」には「ライセンス系」と「アンライセンス系」がある。「ライセンス系」は総務省から無線局の免許を交付してもらうことで使える通信サービスのことで、日本だとKDDI、NTTドコモ、ソフトバンクが挙げられる。「アンライセンス系」はそれ以外の無線局免許を必要としない通信サービスを指し、それが「LoRaWAN」である。

免許がいらない、と言っても脱法ハーブ回線というわけではなく違法ではない。「LoRaWAN」は個人や企業単位で運用でき「非常に低速ながら低消費電力」という特徴がある。よって低電力で広範囲に使えるメリットはあるが、その分遅い、というデメリットもあるのだ。

現在のIoTはそこまで大容量データを扱うわけではないので、デメリットより低電力のメリットの方が大きいとされている。だが、コナンの映画のようにIoTを使って製品を任意のタイミングで暴発までさせるとなると、「LoRaWAN」では荷が重そうだ。よってコナンでは「ライセンス系」の方が使われていたのではないだろうか。

知識があった方が理解もはかどるが、そんなことばっかり考えるよりは、あむぴのカッコよさに集中した方がいいような気もする。

<作者プロフィール>

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄 - 」(2018)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年6月5日(火)掲載予定です。