ビジネスに生かせるAI(人工知能)の基礎知識について解説する本連載。第6回は、AI導入の前準備の工程である「データ活用」を行うためにどのようなツールを導入すべきかについて考えてみたい。

昨今、これまで実施してきた不特定多数を対象にした広告やマーケティング・キャンペーンが効力を失いつつある。それは、対象となる消費者のことを知らなければ、銀行ローンや衣料品などをオンラインで販売することが困難だからだ。鋭敏なマーケターであれば、最適なオーディエンスを特定することが、マーケティング施策のROI(費用対効果)を最大化に必要なことを実感しているに違いない。

例えば、データ活用の目的が売上の増大であり、そのために最適なオーディエンスを把握しアプローチすることだとしよう。その場合、最適なオーディエンスを把握するツールとしてCRMやBIを活用することはできないのだろうか。そうすれば、最小限の投資で効果の高いデジタルマーケティングが可能になるはずだ。

しかし、現行のCRMは顧客のプロファイルを持っていても購入履歴と連携していないし、BIも販売履歴や在庫データを持っていたとしてもオンラインの閲覧状況のデータとは連携していないなどの限界がある。

それにもかかわらず、企業では最適なオーディエンスを把握するために、経験に基づく推測や単純なデータ分析ツールの活用など、さまざまな取り組みが行われている。こうした取り組みは、少数の次元を分析する際は有効だが、複雑なデータや相当数の次元を分析する場合、真の難題に直面する。オンラインの閲覧状況の分析や顧客のセグメンテーションは、とても面倒で手間のかかるプロセスであり、AIを活用したツールなしではとても困難だ。

では、どんなAIツールを導入したらいいのだろうか。例えば、マーケターが利用できる便利なツールの1つに、AIによるオーディエンス・セグメンテーション予測がある。企業は、予測分析の大分類としてオーディエンス・セグメンテーション予測を活用することで、KPI(重要業績評価指標)にかかわらず、販売量、クリック数、インストール率などにコンバージョンする可能性が最も高いターゲット・オーディエンスを特定できる。

最先端のオーディエンス・セグメンテーション予測ツールは、行動パターンに着目し、デモグラフィックデータと組み合わせて傾向を特定することで、最も有望なリードを抽出でき、その効力は顧客セグメンテーションでさらに発揮される。AIオーディエンスツールを導入すると、次のことが可能になる。

  • 行動パターンに着目し、デモグラフィックデータと組み合わせて傾向を特定している様子

正確なオーディエンス像を把握

最先端のオーディエンス・セグメンテーション予測ツールは、異なるプラットフォームおよび情報源からのデータを一元化でき、外部のビッグデータであるデバイスプロファイルと重ね合わせることで、各顧客セグメントのより詳しい状況を把握できる。

高精度なデータ分析により、より正確な予測とセグメンテーションが可能になり、サービスを乗り換える可能性の高い顧客、他人に紹介する可能性の高い顧客、購入する可能性の高い顧客などを判別することができる。さらに、最も収益をもたらす顧客を明らかにすることも可能となる。

タイムリーな販売やコンバージョンを促進

購入サイクルの中で、より効果的に顧客にリーチできるのは、顧客に購入意欲がある時だ。オーディエンス・セグメンテーション予測は、最も受容的なタイミングにある顧客を抽出でき、販売やコンバージョンを促進することが可能となる。

新しい市場の開拓

オーディエンス・セグメンテーション予測技術は、企業の目的に基づいてデータを分析することで、新しい市場を開拓し、その中でも絶好の機会を特定できる。分析した行動データならびにデモグラフィック・データから導き出されるインサイトは、新しいターゲット・セグメントの特定にもつながる。新しいカテゴリーの潜在顧客をターゲットにしたい場合、AIがプロファイルを学習し、市場セグメントをさらに細分化できる。

そして、忘れてならないのが容易な操作性だ。せっかくAIツールを導入してもIT部門の手を借りなければならないのであればその威力は半減する。マーケター自らが操作できるUIを備えたAIツールこそが、最大の効果を得ることができる。その結果、有望な見込み客グループを抽出し、マーケティング施策を実施してコンバージョン率を高め、さらには販売量の増加が期待できるのだ。

著者プロフィール

松崎 亮


Appier Japan株式会社
Director, Enterprise Sales

2004年 コロラド大学ジャーナリズム&マスコミュニケーション学部卒。総合広告代理店の営業を経て、2011年グーグルジャパン入社。SMB を顧客とする第二広告営業本部の初期メンバーとして同本部の成長と組織作りに貢献。
その後、グーグルが買収したダブルクリックの日本の初期メンバーとして参画。DoubleClick Bid Manager (DSP) の拡販、DoubleClick Campaign Manager (第三者配信、DoubleClick Search (SEMツール、Google Analytics を含めたグーグルのアドテクソリューション営業に従事。
2017年に Appier Japan に入社。同社の人工知能をベースとしたオーディエンス予測分析プラットフォーム「Aixon(アイソン)」の日本営業統括責任者。