NI Weekが2017年5月に開催 - ミリ波測定用のシステム「Porcupine」、5G向けに世界最高レベルの速度を実現

新たな規格について取り組みを始める際に重要な最初のステップは、使用される可能性のある周波数に対応してワイヤレスチャンネルに対する測定を行うことです。そのようにして得られた測定値を基に、研究者は、特定の環境下でのワイヤレスチャンネルの振る舞いを理解します。例えば、チャンネルに対する測定を行うことによって、信号が空間を伝搬する様子だけでなく、樹木や建物、車、人などの物体によって反射したり遮られたりする様子も把握することができます。データを収集した後、研究者らはシミュレーションに使用するためのモデルを作成します。シミュレーションでは、さまざまなシナリオにおけるネットワークの性能を計算します。システムに関するパラメータの値を変更することで、問題についてより深く理解し、設計上のトレードオフ要因について探求することができます。

5Gの標準化に向けた取り組みが進むなかで、業界ではミリ波に対応するチャンネルの測定に注目が集まるようになりました。ミリ波については、それに対する理解が十分に進んでいないことが問題だと言えます。実際、その実装モデルは、6GHz未満の周波数帯を使用する従来のネットワークとはかなり異なるものになります。ミリ波の信号には指向性があるため、一部のモデルは非常に狭いチャンネルの解釈を生み出し、MIMOの観点からはメリットも得られます(おそらく、分極化を利用することによってランク2を容易に達成できるはずです)。その一方で、ビームがふさがれた場合には、サイドローブと後方散乱の利用という観点からは楽観視ができなくなります。ミリ波対応のチャンネルは非常に速く変化することがわかっていますが、時間の経過に伴ってビームがどのように変化するのか理解することが非常に重要です。時間に加え、測定時間が特に鍵になります。

従来のチャンネルサウンダではシリアルに測定を行っていきます。一方向のチャンネルの「スナップショット」を取得し、角度を変えて次のスナップショットを取得するといった具合に処理を繰り返して360度のビューに対応します。スナップショットを取得する間隔はチャンネルサウンダごとに異なります。次のスナップショットを取得するための切り替え/設定の最中にチャンネルが変わると、有効なデータが失われてしまうかもしれません。また、チャンネルサウンダを実現する従来のシステムは、スナップショットを取得してから、さまざまなビューをつなぎ合わせてデータに対する後処理を行います。必要な測定値の数を考えると、その環境の全体像を構築するまでに、数時間から数日かかることになります。

この問題に対処するために、ナショナルインスツルメンツ(NI)とAT&T社は提携を行いました。それにより、両社は、5G向けに世界最速クラスのミリ波対応チャンネルサウンダを開発しました。この最先端のシステムは、当初AT&T社内で「Porcupine(ハリネズミ)」というニックネームで呼ばれていました。Porcupineを利用すれば、360度の視野でチャンネルに対する測定をリアルタイムで実施できます。このシステムは、AT&T社が開発したユニークな設計のアンテナを採用しています。360度の半球上に16個のクアッドホーンアンテナを実装することで64素子のアンテナが実現されています。それぞれの「羽根」からのデータはリアルタイムで収集/処理されます。スナップショットを順次取得するための待ち時間は発生しません。NIがシステム設計ソフトウェアであるLabVIEWによって開発したIP(Intellectual Property)と複数のPXIe FPGAモジュールを組み合わせることで、独立した4つの信号ストリームをリアルタイムで処理します。単一方向のI/Qデータを取得/保存し、その後オフラインでスナップショットをつなぎ合わせて1つの像を作り上げるのではなく、Porcupineでは数ミリ秒以内にすべてのチャンネルのインパルス応答を出力します。最も重要なのは、AT&T社はコヒーレンス時間内にミリ波対応のチャンネルの全体像を把握できるようになったという事実です。これは、5Gに対応するネットワークの設計/実装を行う際、特に役に立ちます。

5Gに向けては、業界が発表したアグレッシブな要件を満たすために、強力な技術革新を実現すべく挑戦が続けられています。そうした難題に対し、現実的なソリューションをなるべく容易に得るためには、ワイヤレス研究者向けの新たな手法やツールが必要です。Porcupineはそうしたイノベーションの一例です。5Gの実用化に向けて、このようなブレークスルーが数多く登場することを期待しています。

NIとAT&Tが提携することで開発されたミリ波対応チャンネルサウンダ「Porcupine(ハリネズミ)」。写真は5月に開催されたNI Weekでの1シーン

著者プロフィール

James Kimery
National Instruments(NI) RF研究/SDR担当ディレクタ

今回の記事は「Microwave Journal」の筆者によるブログ(2017年5月1日に掲載)を邦訳したものです