「仮面ライダー」生誕50周年記念プロジェクトとして、1987年放送の『仮面ライダーBLACK』を新たな世界観でリブートした新作ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』が、2022年に配信される。

監督を務めるのは、『凶悪』『孤狼の血』などで知られる日本映画界の俊英・白石和彌氏。内面の感情をむき出しにする生々しい人物描写や、刺激的なバイオレンス演出を持ち味とする白石監督が、いかにして『仮面ライダーBLACK』を新たな時代のヒーローとして生まれ変わらせるのか、仮面ライダーファンだけでなく多くの日本映画ファンから注目が集まっている。

  • 樋口真嗣(ひぐち・しんじ)。1965年生まれ、東京都出身。1984年『ゴジラ』の造形助手として映画界入り。1995年の『ガメラ 大怪獣空中決戦』では特技監督を務め、かつてないリアリティを感じさせる特撮演出で、日本アカデミー賞特別賞を受けるなど高い評価を得る。監督としては『ローレライ』(2005年)『日本沈没』(2006年)『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015年)などを手がけ、2017年の『シン・ゴジラ』では第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞ならびに最優秀監督賞を受賞している。撮影:宮田浩史

今回は、白石監督と共に本作の「コンセプトビジュアル」を手がけ、ヒーローの仮面ライダーBLACK SUN(ブラックサン)や宿命のライバル・仮面ライダーSHADOWMOON(シャドームーン)、そして暗黒結社「ゴルゴム 」怪人たちのビジュアルイメージの構築や、彼らが存在するための世界観の設定などを創造した樋口真嗣氏が登場。シリーズ屈指の人気作『仮面ライダーBLACK』が持つ深淵なる魅力や、普遍的なヒーローキャラクターを「再構築」するにあたってどのような部分を見つめ直したのか、そして仮面ライダーを作り上げた偉大なクリエイター、原作者・石ノ森章太郎氏への思いを尋ねた。

――今回の『仮面ライダーBLACK SUN』参加の経緯はどういった流れだったのでしょうか。樋口監督は白石和彌監督と以前からご友人でもあるそうですね。

白石監督とは、フランスのパリで開催された日本映画のイベント「ジャポニズム2018」で知り合い、そこで意気投合して、以来よく一緒に飲みにいく仲になりました。

『仮面ライダーBLACK SUN』については、去年(2020年)の終わりくらいに、白倉伸一郎プロデューサーから声をかけてもらいました、ご存じのように僕は『シン・ウルトラマン』をやっていたのですが、そのころコロナ禍の影響で進行がストップしていた状況だったこともあり、現状のタイミングだったら行けるかなと思い、お引き受けしました。他でもない白石監督の手がける「仮面ライダー」ですから、これはぜひやりたいと思ったんです。

――「コンセプトビジュアル」という肩書が付けられていますが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。

なにしろ「仮面ライダー」なので、ヒーローや怪人などさまざまな異形のキャラクターが登場します。これらのキャラクターが、どうすれば白石監督の作り出す世界に齟齬なく同居できるか、を考える作業をやっていました。コンセプトを示すイラストもたくさん描きましたが、最終的なデザインワークはPLEXの小林大祐さんたちが手がけられています。僕は主にネタ出しや方向性、世界観を決めるポジションです。

――『仮面ライダーBLACK』のテレビシリーズはご覧になっていましたか?

1987年の放送ですよね。そのころすでに、ある程度アニメや特撮の仕事をしていたのもあって、オンエアをじっくり観ていたわけではありませんが、存在は知っていましたよ。1979年に『仮面ライダー(新)』で「原点に帰る」と謡っていたけれど、なかなか原点には戻ってくれなかったって印象があったんです。そんな中、『仮面ライダーBLACK』はまさに昔の仮面ライダーを最新のテクニックで復活させたイメージで登場して「やっと原点回帰してくれたか!」と喜んだ思い出がありますね。

――おっしゃるとおり、仮面ライダーBLACKはそのデザインコンセプトからして、1号からZXまでの10人ライダーと趣向が違っていました。マフラーに手袋、ブーツという出で立ちでなく、頭のてっぺんからつま先まですべて造形物で固められている点など、非常に斬新な感覚がありました。

仮面ライダーをもう一度やるにあたって、ちゃんと「新しいヒーローにしよう」という意欲を感じました。今回『仮面ライダーBLACK SUN』に携わることが決まって、参考のために『仮面ライダーBLACK』を全話観て、その作品世界を頭に叩き込みました。

――ヒーローキャラクターとしての仮面ライダーBLACKには、どのような魅力があるとお考えですか?

萬画家・石ノ森章太郎先生が求めていた「生物的な、異形のヒーロー像」と、バンダイ・村上克司さん(当時バンダイで商品企画・デザイナーを担当)が生み出した「機能美にあふれた工業デザイン」の、理想的な「融合」です。両者の要素をひとつのキャラクターにどうやって落とし込んでいくか、その作業自体は、まさにこれから僕たちが行うことと同一なんだと思います。

――テレビシリーズとして毎週放送する特撮ヒーロー作品の場合、いわゆる「商品展開」を重視して、アイテム化前提のデザインが行われています。今回の『仮面ライダーBLACK SUN』についてはいかがでしょうか。

玩具デザイン的要素を排し、徹底的に生物っぽい仮面ライダーにする手もありますけれど、そうしたら『仮面ライダーBLACK』にはならないと思いました。生々しいライダーを押し進めると、『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』(1992年)というのがすでにありますしね。

それよりも白石監督の得意とされる「人間の本能を具現化」する物語の中に、村上克司さんから始まるPLEXの洗練された「工業デザイン」をどうやって融合させ、うまく着地させることができるか。それが観たいというよりも、それを僕がやらなければいけないことだと思いました。

最初の『仮面ライダーBLACK』でも、石ノ森先生と村上さんのアイデアがブレンドされ、ひとつのヒーローキャラクターとなって完成するまでに、かなりの試行錯誤の跡を感じます。デザインが決定してからも、金属的だったヒジやヒザの部分について、石ノ森先生の発案で生物的な関節に修正していたりしますから。

――『仮面ライダー』の原点に立ち返ってすべての要素を見つめ直し、『仮面ライダーBLACK』を作ったときのように、『仮面ライダーBLACK』の要素を改めて見つめ直すことで『仮面ライダーBLACK SUN』に至るということなんでしょうか。

原点の原点を探るというか、仮面ライダーBLACKがなぜ「バッタ」の改造人間なのか、という部分から突き詰めようとしています。

改造人間の題材が世の中にたくさんいる中で、どうしてバッタを選んだのか、なぜバッタのヒーローが強いのか……。初歩に立ち戻って「なぜだろう」と疑問を抱いたとき、デザイン上の秘密というか、ヒントが見つかるんじゃないかと思ったんです。

改造されたとき、バッタの能力が人間の体に残っていないといけない気がします。そうなると、バッタの能力とは何だ?という興味が生まれ、生き物に関する記事を読んで研究するようになりました。もう「俺にバッタについてのいい話を教えてくれ! 俺をバッタ好きにさせてくれ~!」という思いで探究していました(笑)。