理化学研究所(理研)は11月17日、B型肝炎ウイルスなどの活性を抑制することが知られている低分子化合物「CDM-3008」が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抑制作用を有しており、重症化を防ぐ経口治療薬となる可能性が示されたと発表した。

同成果は、理研 開拓研究本部肝がん予防研究ユニットの古谷裕上級研究員(東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座訪問研究員)、同 前田瑞夫ユニットリーダー(理研研究政策審議役)、同 松浦知和客員主管研究員(東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座教授)らの研究チームによるもの。詳細は10月28日付で科学雑誌「International Journal of Molecular Sciences」にオンライン掲載された。

新型コロナの治療薬の開発が世界中で進められている。すでにウイルスの抑制作用を持つ承認薬がいくつか出てきているが、いずれもが注射投与剤であり、使用する場合には入院や通院し、医師の指導のもとに行う必要があり、より手軽に自宅で服用可能な経口もしくは経肺投与できる治療薬の開発が求められるようになっている。

一方、新型コロナに感染し、重症化した患者に対する研究から、そうした患者ではインターフェロン(IFN)に対する自己抗体ができ、IFNの作用を阻害していること、ならびに、重症化した患者にはIFN受容体とシグナル伝達分子に変異が見られ、インターフェロン誘導性遺伝子(ISGs)の発現誘導が阻害されていることなどが報告されるようになってきており、タンパク質を有効成分とするバイオ医薬品によるインターフェロンを用いた研究では、患者の回復を早めるなどの効果が確認されているものの、そうした課題を解決する必要がでてきたという。

そこで研究チームは、インターフェロンα/β受容体2のアゴニスト(生体内の受容体に働いてリガンドと同等の効果を示す薬)として働く低分子化合物(CDM)の探索を実施。新型コロナ肺炎を再現できるとされる肺がん由来Calu-3細胞に、研究調査のために作成された「SARS-CoV-2サブレプリコンRNA発現ベクター」を導入し、「CDM-3008」で処理したところ、SARS-CoV-2サブレプリコンRNAが濃度依存的に分解できることが判明。また、Calu-3細胞は増えにくいという性質があったことから、一般的によく用いられるヒト子宮頸がん由来培養細胞「HeLa細胞」を用いるスクリーニング系を構築して調査を実施。その結果、24時間以内にSARS-CoV-2サブレプリコンRNAを濃度依存的に分解することが確認されたという。

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  • Calu-3細胞ならびにHeLa細胞に対するSARS-CoV-2サブレプリコンRNA分解活性調査の結果 (資料提供:理研)

研究チームでは、その作用機序の解明にも挑戦。主にDNAやRNAを末端から分解するエキソヌクレアーゼであるISG20がSARS-CoV-2サブレプリコンRNAの分解を促進しており、ISG20 siRNA処理により分解が抑制されていることを確認。「ISG20」がSARS-CoV-2ゲノムRNAを分解し、複製を抑制するために働く分子であることを突き止めたとする。

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    「ISG20」によるSARS-CoV-2サブレプリコンRNAの分解の仕組み (資料提供:理研)

なお、研究チームでは今回の治療薬候補物質は、インターフェロンが阻害され重症化した新型コロナ患者の治療薬となりうる可能性が示されたとしており、臨床試験を2024年ころには実施したいとしているほか、新型コロナのみならず、次のパンデミックの原因となる可能性とされているコロナウイルスやフラビウイルスの治療薬としても活用されることが期待されるとしている。また、CDM-3008の構造を基にして合成展開し、特異的にIFNシグナルを活性化するCDM誘導体を複数同定することにもすでに成功しているとのことで、今後、CDM-3008やCDM誘導体を用いて治療薬の開発などにつなげていきたいとしている。

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    インターフェロン-αならびにCDMの作用機構のイメージ (資料提供:理研)