YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第4弾は、『全力!脱力タイムズ』制作総指揮『千鳥のクセがスゴいネタGP』総合演出の名城ラリータ氏(フジクリエイティブコーポレーション)、『有吉の壁』『千鳥のクセがスゴいネタGP』『新しいカギ』などを手がける元芸人の放送作家・樅野太紀氏が登場。『新しいカギ』の総合演出を担当するモデレーターの木月洋介氏(フジテレビ)を含めた3人によるテレビ談義を、4回シリーズでお届けする。

第2回は、3人が携わっていた『笑っていいとも!』(フジテレビ)の秘話。「今考えるとすごいことやってました」という生バラエティの制作現場や、木月氏が演出を担当した伝説の『グランドフィナーレ』、さらには『SMAP×SMAP』にも話題が及んだ――。

『笑っていいとも!』司会のタモリ

『笑っていいとも!』司会のタモリ

■フジ局員以外から曜日ディレクターに

木月:ラリータさんは、「荒井班」(※)の先輩なんです。僕は2004年に入社して『ココリコミラクルタイプ』と『笑っていいとも!』の一番下のADに配属されるんですけど、当時ラリータさんは『スマスマ(SMAP×SMAP)』のチーフADでした。その後、『ミラクルタイプ』で一緒になったりして、ラリータさんは企画演出した『全国一斉!日本人テスト』の特番で(世帯視聴率)15%とって当てるんです。

(※)…荒井昭博プロデューサー(現・BSフジ常務)が率いた制作チーム。『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』『サタ☆スマ』『ココリコミラクルタイプ』などを制作。

ラリータ:それで木曜19時でレギュラーになってうれしかったですね。

木月:その後ラリータさんは『いいとも』水曜日のディレクターになられて。僕はその直後、金曜日のディレクターになって。あのタイミングでラリータさんが『いいとも』のディレクターになるというのが下から見ててカッコよかったんですよ。あの番組は曜日ごとにディレクターが1人ずついて、半年ごとに入れ替えや曜日異動があって5曜日全部が局員だらけになる時期が多いんですが、『日本人テスト』を当てたラリータさんが風穴を開けたんです。

ラリータ:2年くらいやって前の年から平均0.6くらい(視聴率が)上がったんですけど、また局員の人が入ってクビになりました(笑)

――数字が上がった要因は何だったのですか?

ラリータ:作家に鈴木おさむさんがいてくれたのも大きかったですね。DAIGOさんがMCをやった「最新ワード展覧会」とか、ランキングを年代別にしてクイズにしてみたり、良いコーナーが結構できたんですよ。あと、爆笑問題の太田(光)さんがいるから絶対オープニングが伸びるんですけど(笑)、これをどうにかしなきゃいけないと思って、MCをやってもらったんです。そしたら台本通りやってくれて、「これだ!」と思って(笑)。樅野さんも『いいとも』やってましたもんね。

樅野:(放送作家の)石原(健次)さんに誘っていただいた『サタデー・ナイト・ライブ JPN』で一緒にやってた渋川(大輔)に呼ばれたんです。『いいとも』はチーフ作家をやらせてもらって、めちゃくちゃ鍛えられたなあ。毎週VTRなしで1時間の生放送を埋めなきゃいけないというのがあって、朝会議して「今週はこれやろう」って決まって、次の別の局の会議に行ってたら渋川から「上に通りませんでした。もう1回ゼロから考え直しです」って連絡きて、夜フジテレビに行って…みたいなことを、本当に毎日やってましたから。生放送当日は朝から新企画のオーディションやったり、効果音まで決めるじゃないですか。あれが、芸人のときにやってた単独ライブみたいな感じで、懐かしいなと思ったんですよね。

木月:ああ、それに近いんですね!

樅野:音響さんと暗転のタイミングとか打ち合わせしたりして、あの感じを作家になって唯一やったのが『いいとも』ですね。ライブショーだからすごく鍛えられましたよ。毎週責任持ってやんなきゃいけないし、もちろん視聴率は出るし、タモリさんはいるし。あの感じは、しびれましたね。

木月:「3つ全部新コーナーにしてくれ」って言われて(笑)。本番の日の演者リハの11時半までになんとかしなきゃいけないって、よくありましたよね。朝9時に集合して、「2時間半で何とかなるのか?」みたいなあの感じ。

樅野:今考えるとすごいことやってましたよね。

ラリータ:太田さんがいるから、ざっくりやってると絶対お客さんに何かやって、それにタモリさんが乗って、田中(裕二)さんが笑うから、ツッコミが(千原)ジュニアさんしかいなかったんですよ(笑)。そこに、おすピー(おすぎとピーコ)さんが乗っかったら、平気で3分くらい飛んじゃう。3分あれば、2個はやりとりできますからね。

■スター作家たちが「いいとも選手権」のリハ

木月:ラリータさんの曜日は、会議がすごく長かったって聞きました。

ラリータ:長かった…。でも、当時も『いいとも』の会議にいた作家さんはスターばっかりでしたよね。おさむさんとか石原さんに、ADの頃は田中直人さん、松井洋介さん、渡辺真也さんがいて、あの人たちが「いいとも選手権」のリハやってるんですよ(笑)。ADのやり方がつまんないから、「こんなふうに企画を出したんじゃない!」って言って、床にはいつくばってやるんですよ。本当に感動しましたもん(笑)。石原さんと『スマスマ』やってるときも、自分で書いたコントを実際に(香取)慎吾さんたちがやってる映像を見て、すごく楽しそうなんですよ。だから、本当に好きなんだろうなって思いましたよね。あれはカッコよかったです。

樅野:石原さんは、どんな番組でもできる怪物なんですよ。リハと言えば、『くりぃむナントカ』(テレビ朝日)でシミュレーションのVTRを撮ったことがあったんです。真也さんが出してくれた企画を、ディレクターと俺と北本かつらさんでやってみたらすごく面白くなって、「これはウケるぜ!」って意気揚々と全体会議でそのVTRを出したら、真也さんに「面白くしようとしてるな?」と怒られました(笑)。つまり、シミュレーションというのはダメなところを探すんだということなんですよね。

木月・ラリータ:なるほど~!

ラリータ:演者さんがこの企画をやったら面白くなるのは分かってるから、そこで補えないことを演者さんにやってもらう前に探そうということだと。

木月:それがシミュレーションですもんね。

樅野:「これはウケるぞー」と思ってワクワクして会議に行ったら怒られて(笑)、勉強になったなあ。

ラリータ:本当にそういう方たちには、テレビの作り方を勉強させていただきましたよね。

樅野:どういう諸先輩方と会議して育ってきたかって、作家もディレクターも“年輪”に出ますよね。僕は芸人を辞めて作家になって、まさに石原さんの後を追ってるんです。僕の5年先にずっと石原さんがいますから。