ダイバーシティ(多様性)は、さまざまな考えを育み、より多く、より速いイノベーションをもたらすことから、企業にとってプラスの力となることで知られています。多様性にはさまざまな形がありますが、その議論は、ジェンダーの多様性や、民族や文化の多様性に焦点が当てられがちです。しかし、見逃されがちなダイバーシティのもう一つの側面が世代の多様性です。テクノロジーを効率的に活用するZ世代の活躍が目立つなか、定年後も働き続ける経験値の高いシニア層も増えていきます。

日本の高齢化は深刻で、1970年にはすでに高齢化率7%が超える「高齢化社会」と分類され、1994年には高齢化率が14%を超え、現在では高齢化率が28.8%の「超高齢化社会」に置かれています。高齢社会が進む中、エイジレスやエイジフリーなどがキーワードとなり、高齢者も年齢にとらわれず他の世代と交流する多様化した社会づくりは課題となっています。

しかし、団塊の世代からX、Y、Z世代まで、それぞれの世代が持つ強みがある一方で、若者が最も注目される傾向にあります。例えば、多くの企業は、熟練労働者の不足を解消するために、若い従業員に大きな期待を寄せており、インターネット知識が豊富なY世代や、最近ではソーシャルメディアに精通したZ世代に注目しています。

メディアが若者の活躍に注目をする一方で、少子高齢化を迎える多くの国では、労働力の高齢化が著しく進んでいます。これは、日本だけでなく、多くのヨーロッパ諸国やアメリカでも同様です。そのため、企業は従業員の世代の多様性の増加にも備える必要があるのです。

Y世代やZ世代は、インターネットやソーシャルメディア、モバイルアプリのスキルが高いことで知られていますが、シニア世代には長年培われた経験があります。顧客やパートナーとの長い関係を持ち、リーダーシップの専門知識を身につけています。デジタル技術にも長けているシニア世代も少なくありません。最新のテクノロジーは若い世代だけのものではありません。だからこそ、先進的な企業は、ある世代だけに焦点を当てるのではなく、世代の多様性を取り入れています。

世代の多様性を考慮したデザイン

世代の多様性をサポートする職場環境の構築は、Cレベルの経営陣から人事、ITまで、企業全体が関与する複雑で長期的なプロジェクトです。まず必要なことは、企業の多世代戦略を策定し、それを社内で全員に共有し、従業員に対し意思表示をすることです。その上で、以下のような取り組みが可能になります。

採用プロセスの再定義

企業は、人材獲得の考え方を変えなければなりません。新卒や、若手層だけにターゲットした採用戦略ではなく、労働力の多様性に関するリーダーシップの目標を再定義し、人材獲得のプロセスとワークフローを更新し、あらゆる世代の応募者にとって魅力的な福利厚生が含まれた求人情報を再設計する必要があります。また、従業員のスキルアップに力を入れることで、熟練労働者の不足の緩和につながります。

継続的な教育・研修戦略の策定

プロフェッショナルは学ぶことをやめてはいけません。しかし、継続的に働きながら、学び続けることが難しいのも事実です。多くの標準的なトレーニングプログラムは、新社会人向けに設計されています。新入社員が安心して仕事に取り組めるように、迅速に教育することが重要ですが、同時に、多世代を意識した人材の要件や厳しいワークスケジュールに合わせたトレーニングプログラムを構築する必要があります。

多世代間のチームビルディングを促進する

世代の異なるチームは、他の年齢層の視点や行動に対する理解を深めることができます。これには、異なる世代の従業員が互いのスキルを学び、恩恵を受けることができる「(部下が上司のメンターになる)リバース・メンタリング」プログラムも含まれます。

仕事の柔軟性の拡大

あらゆる世代の従業員にとって、仕事と家庭や社会生活を両立させることができる柔軟な労働条件は有益です。従業員が自宅で仕事をしたり、時間を変えて仕事をしたりできる環境を作ることは、世代的に多様なスタッフにとって企業をより魅力的なものにします。

ワークスペースの再設計

ビジネスタスクの多くがITによってサポートされ、さらには推進されています。そこで企業は、年齢や役職に関係なく、すべての従業員に優れた従業員エクスペリエンス(EX)を提供する、ユーザーフレンドリーなワークスペースを実現する必要があります。最新のインテリジェントなワークスペースでは、企業内のあらゆる世代のエンドユーザーが、生産性を高めるために必要なすべてのアプリケーションやITサービスに簡単かつ直感的にアクセスできます。

企業は、物理的にも技術的にも、多世代の労働力の要件を満たすために職場環境を再設計する必要があります。1つの世代だけに焦点を当てても、熟練労働者の不足など、既存の課題をすべて解決することはできません。競争力を維持するためには、より良い従業員体験、つまり自分の好きなように働ける環境を整えることが重要です。人材争奪戦が本格化する中、世代の多様性に注目し、いち早く職場環境を整えた企業が勝者となるでしょう。

國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE本部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。