北海道大学(北大)は9月14日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株やSARSコロナウイルスなど、コロナウイルス全般に広く有効な新しいヒト抗体を単離して構造決定および病理評価を行うことに成功し、その高い中和活性と交差反応性のメカニズムを解明したと発表した。

同成果は、国立感染症研究所(NIID)治療薬・ワクチン開発研究センターの小野寺大志主任研究官、北大大学院 薬学研究院の喜多俊介特任助教、NIID 治療薬・ワクチン開発研究センターの安達悠主任研究官、同・森山彩野主任研究官、北大大学院 薬学研究院の前仲勝実教授、NIID 治療薬・ワクチン開発研究センターの高橋宜聖センター長らの共同研究チームによるもの。詳細は、免疫学を扱う学術誌「Immunity」に掲載された。

新型コロナの変異株の中には、中和抗体から逃避する能力を獲得したものもあることが知られている。変異株に活性を消失しない「交差中和抗体」を特定し、その中和メカニズムを科学的に理解することが、新たな治療薬やワクチンの開発に求められているという。

そこで研究チームは今回、完全型ヒト抗体を作るマウス(TC-mAbマウス)を用いて、変異株やほかのコロナウイルスに結合するヒトモノクローナル抗体(NT-193)の単離を実施し、それに成功。NT-193は抗体カクテル療法に使用されている抗体と比べた場合、従来株を同程度の高い活性で中和することを確認したとするほか、定常領域の種類(IgGサブクラス)を変えると、SARS-CoVウイルスなどのほかのコロナウイルスへの交差中和効果を高めることも確認されたとする。

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    (左)SARS-CoV-2シュードウイルスへの中和活性。(中央)SARS-CoV-2ウイルスへの中和活性。(右)SARS-CoVウイルスへの中和活性 (出所:北大プレスリリースPDF)

また、NT-193が標的としているウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合領域(RBD)をX線結晶構造解析で調査したところ、ヒト受容体であるACE2と同じようなアングルで、RBDに結合するユニークな抗体であることが判明したほか、抗体タンパク質を構成する重鎖と軽鎖が、それぞれSARS-CoV-2とSARS-CoVウイルスで保存性の高い領域と、ACE2結領域をそれぞれ認識することで、幅広い交差性と高い中和活性を両立していることも確認されたという。

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    NT-193とRBDの結合の様子。(左)NT-193-RBD複合体と、ACE2-RBD複合体の比較。(右)NT-193によるRBD認識の模式図 (出所:北大プレスリリースPDF)

さらにNT-193は、変異株のアルファ株やガンマ株に対する中和活性を維持していること、新型コロナを感染させたハムスターに治療効果を有することも確認されたとしている。

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    コントロール抗体(左)とNT-193の変異株への中和活性。Wuhan(従来株)に加え、アルファ株(501Y.V1)2株と、ガンマ株(501Y.V3)3株に対する中和活性が比較検討された (出所:北大プレスリリースPDF)

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    SARS-CoV-2(従来株)を感染させたハムスターに確認されたNT-193の治療効果。ウイルス感染1日後に記載量のNT-193抗体が投与された。(左)6日後までの体重変化の様子。(右)6日後に測定されたウイルス量 (出所:北大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは、NT-193抗体は、新型コロナウイルス変異株に対する治療薬としてのみならず、広くSARS関連コロナウイルスに対する治療薬として開発が進むことが期待できるとしている。