京都市営地下鉄烏丸線では40年ぶりとなる新型車両20系がこのほど公開された。車内に「おもいやりエリア」を設置するなど、既存の10系とは一線を画す車両となっている。8月17日の関係者向け見学会で撮影した写真をもとに、新型車両について紹介する。

  • 京都市営地下鉄烏丸線の新型車両20系。外観は丸みを帯びた近代的なスタイルに

新型車両の形式に関して、いまのところ公式サイト等で公表されていないが、京都市交通局のパンフレットに「20系車両」と紹介されていた。新型車両のコンセプトは、「みんなにやさしい地下鉄に」「京都ならではの地下鉄に」「愛着がわく地下鉄に」とのこと。設計にあたり、有識者らで構成された「地下鉄烏丸線車両の新造にかかるデザイン懇談会」の意見も盛り込んだ。

新型車両の車両寸法は、1両あたり長さ20,000mm、車体幅2,780mm(側板間)、最大高さ4,040mm(クーラキセ上面)。定員は先頭車130人(座席28人)、中間車143人(座席44人)。車体はアルミニウム合金ダブルスキン構造となっている。

外観デザインは2019年に一般投票が行われ、3案の中からB案「前面の造形に曲面を多用した、より近未来的なイメージのデザイン」が選ばれた。車体前面は他社局の地下鉄車両にも見られる丸みを帯びた近代的なデザイン。種別・行先表示器はフルカラーLEDとなり、京都市交通局「地下鉄・市営バス応援キャラクター」の「太秦萌(うずまさもえ)」を表示させることも可能になった。

新型車両の特徴として、外観や内装に京都の伝統産業素材・技法を採用したことが挙げられる。先頭車両に取り付けた京都市交通局の局章も、材質はアルミながら、鎚(つち)で一枚金属板を立体的なものや浮彫状に装飾を打ち出す金属工芸「鎚起(ついき)」の技法を活用している。既存の10系では窓下に局章を配置していたが、新型車両ではホームドア設置による視認性確保のため、運転台窓の横に局章を配した。

  • 種別・行先表示器はフルカラーLED。「太秦萌」も登場

  • ロングシートの車内。座席仕切り板も雅なデザインに

  • 連結部通路の壁に「釘隠し」の飾り付けを行っている

車内は片側4ドア・ロングシートを基本としつつも、「京都らしさ」が随所に見えるレイアウトに。座席仕切り板にも華やかで雅なカラーデザインを施した。両先頭車において、客室と運転室を仕切る壁に設置された車号銘板と事業者銘板に、小さな金鎚で純金銀をはめ込む「京象嵌(きょうぞうがん)」の技法を採用。標記銘板の四隅には、有職文様で縁起が良いとされる「幸菱(さいわいびし)」を施した。

中間車両の車内連結部通路の壁には、伝統的な建築の装飾に用いられる「釘隠し」の飾り付けが行われている。号車ごとにデザインが異なり、今回公開された第1編成の2号車は「サトザクラ(春)」、3号車は「シダレヤナギ(夏)」、4号車は「タカオカエデ(秋)」、5号車は「ツバキ(冬)」。デザインのテーマは編成ごとに定めるとしている。「釘隠し」は金属工芸の鏨(たがね)による打ち出しや彫り技法で制作された。

中間車両では、一部の吊手に「北山丸太」製の吊手の鞘(さや)と「京くみひも」の飾り付けが見られる。鞘には「北山丸太」と「京都市交通局章」の焼印が入る。「京くみひも」は平安時代以降の公家社会における衣服を重ねて着たときの色の取り合わせを参考にし、季節ごとに4種類のデザインで制作されている。

新型車両の最大の特徴となる多目的スペース「おもいやりエリア」。位置の覚えやすさも意識し、両先頭車に設置された。2段手すりや立ち掛けシートが設けられ、車いす・ベビーカー利用者も快適に利用できるスペースに。立ち掛けシートに伝統産業の素材を飾り付けるガラス張りのスペースがあり、編成ごとに異なる素材で装飾する。第1編成では、京都市指定の伝統産業74品目の中から「西陣織」と「京友禅」を選定した。

  • 先頭車両の多目的スペース「おもいやりエリア」。第1編成では「西陣織」と「京友禅」が飾り付けられている

  • 「北山丸太」製の鞘に「京くみひも」の飾り付けを行った吊手

  • 各ドア上に設けた車内案内表示器

  • 新型車両の運転台

新型車両はバリアフリーも意識している。全車両に車いすスペースを設置し、手すりは2段になっている。ロングシートの端に中仕切りを取り付けて1人掛けとし、足腰の弱い人も意識した設計に。各ドア上に設けた車内案内表示器はLCD車内案内表示器を採用し、駅名や乗換案内だけでなく、各駅のエスカレーター・エレベーターの位置も表示する。

乗務員室は将来のワンマン運転に備えるため、左右の「扉開」ボタンやATO(自動運転列車装置)に対応した「出発押ボタン」が設置されている。ただし、現在の烏丸線はATC(自動列車制御装置)運転となっており、当分は同線においてワンマン運転やATO運転の具体的な予定はないという。

車両性能は最高運転速度が地下部75km/h・地上部105km/h、加速度3.3km/h/s、減速度3.5km/h/s(常用最大)・4.0km/h/s(非常)。制御装置はVVVFインバータ、低圧電源装置はIGBT3レベル静止型インバータを採用している。

新型車両20系は近代的なスタイルながら、車内の随所に「京都らしさ」が見え、市民の足と観光とのバランスが取れた車両に仕上がっていると感じた。公開された第1編成は来年春の運行開始をめざす。今後、2025年度までに計9編成を導入し、烏丸線開業当初から活躍を続けてきた10系1次車を置き換える予定。運用に関して、導入当初から限定運用ではなく、近鉄京都線・奈良線にも乗り入れる予定とのことだった。

  • 新型車両20系の車内・外観