東京医科歯科大学は8月5日、同大学医学部付属病院への入院または通院歴がある新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者から、これまで日本で市中感染事例が確認されていなかったデルタ亜系統株(AY.3系統)の市中感染事例を確認したと発表した。

同発表は、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明 准教授・医学部附属病院病院長補佐、同難治疾患研究所ゲノム解析室の谷本幸介 助教、同リサーチコアセンターの田中ゆきえ 助教、同ウイルス制御学分野の北村春樹 大学院生および関口佳 大学院生らによる同大学入院患者由来 SARS-CoV-2 全ゲノム解析プロジェクトチームと同統合臨床感染症学分野の具芳明 教授、木村彰方 理事・副学長・特任教授および貫井陽子 医学部附属病院感染制御部・部長との共同解析によるもので、すでに厚生労働省および東京感染症対策センター(ICDC)に報告済みだという。

2021年4月以降、関東圏では感染伝播性の増大に関わる変異(N501Y)を有するアルファ株(B.1.1.7 系統)の急激な症例数の増加がみられ、4月以前の従来株(主にR.1系統)から B.1.1.7 系統株への置き換わりが確認されていた。

2021年5月上旬からは、感染伝播性の更なる増大が懸念される変異(L452R)を有するデルタ株(B.1.617.2 系統)の市中感染事例が確認され、6月下旬までアルファ株とデルタ株の市中感染が継続していたが、アルファ株からデルタ株への明らかな置き換わりは確認されていなかったという。

ところが、6月下旬からはデルタ株の市中感染事例が増加し、それに伴う形でアルファ株の市中感染事例が徐々に減少していることから、アルファ株からデルタ株への遷移が進みつつあると考えられると同大学は説明する。

  • 感染割合

    同大学医学部付属病院への入院または通院歴がある新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者のアルファ株とデルタ株の割合(出典:東京医科歯科大学)

同大学でも、2021年5月上旬から7月上旬までに同大学医学部付属病院へ入院もしくは通院歴のある患者由来検体34例から、アルファ株(B.1.1.7 系統)の継続的な市中感染事例を確認しただけでなく、6月下旬からデルタ株(B.1.617.2 系統)の市中感染事例が増加していることも確認したとしている。

さらに、今回確認されたデルタ株の中には、デルタ亜系統株(AY.3 系統)が存在することが判明。AY.3 系統株が3例の患者に認められ、海外渡航歴や相互の接触歴がなかったことから市中感染事例と判断したという。

デルタ亜系統株はいままでに、AY.1系統、AY.2系統が世界中で1,200症例前後確認されており、両系統とも予防や治療に使用される中和抗体の統合親和性に影響を及ぼす可能性が示唆されている。現在までで日本での感染事例は、60例程度が報告されているがいまのところ際立った増加は見られていないとした。

今回確認されたAY.3系統は、AY.1系統、AY.2系統の後に定義され、特徴はまだ解析中で感染・伝播性およびワクチンへの影響に関する知見は不明だが、世界中で13,000症例前後が8月4日までに報告されている。現時点における主要流行国は、米国および英国で、日本では、これまでに空港検疫でアメリカからの渡航者から1件確認されているが、市中感染事例は確認されていなかった。

  • 知見

    デルタ株に分類される新たな系統株についての現時点での知見(出典:東京医科歯科大学)

同大学では、今回確認した AY.3 系統株による感染拡大状況への寄与については、現時点においては判断が難しく、更なる解析および調査が必要だが、引き続き強固な感染予防対策を継続すると同時に市中感染株の推移をモニタリングし、ウイルス流行の実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であると説明している。