ついに開幕した東京2020。開幕直後から日本人選手の活躍が続いていることもあり、事前の予想に反して大いに盛り上がっています。連日、テレビの中継やWebのニュース速報に釘付け…という人も多いのではないでしょうか?

選手の活躍の瞬間を写真に収めて速報すべく、会場では世界から集結した腕利きのカメラマンが腕を競っています。カメラ機材の故障やトラブルで歴史的瞬間を撮り逃した、機材を修理に出しているので撮れなかった…という悔しい事態を避けるべく、“カメラマンの仕事を止めるな!”という意気込みを表した「ゼロ・ダウンタイム」を掲げて東京2020に参加しているのがキヤノン。会場内に設置したカメラマン向けのプロサポートブースでは、採算度外視で人員や機材をフル動員して裏方として大舞台に臨んでいました。

  • キヤノンが東京2020の会場内に設置したカメラマン向けのプロサポートブース

    キヤノンが東京2020の会場内に設置したカメラマン向けのプロサポートブース。機材の故障やトラブルに対応するためのメンテナンスや修理サービスを実施しているほか、代替貸出用のカメラや交換レンズをズラリと用意している

メンテナンスは1時間、修理でも24時間で完了する体制を整えた

報道関係者が集まるメインプレスセンターにキヤノンが設置したのは、東京2020に来場したプロカメラマンを対象としたフォトサービスセンター。ここでは、カメラや交換レンズの清掃や簡易点検を中心としたメンテナンスサービス、破損や故障の修理サービス、カメラのAF性能を補正するピント調整サービス、機材の代替貸出サービスを実施しています。サービスセンターの営業は朝7時~夜23時と長く、カメラマンを待たせない配慮がうかがえます。

  • 東京ビッグサイト内に設けたキヤノンのフォトサービスセンター。各国のカメラマンがひっきりなしに来訪していた

【お詫びと訂正のお知らせ】記事の初出時、キヤノンプロフェッショナルサービス(CPS)の会員が対象と記載しましたが、CPS会員でなくても利用できるとのことです。該当箇所を修正しました。お詫びして訂正します。(2021年7月28日 16:45)

まず注目できるのが、機材を預かったうえで実施するメンテナンスや修理に要する時間の短さ。スポーツイベントでのプロサポートを担当するキヤノンマーケティングジャパンの仲野正明氏は「高い技術力を持つスタッフを多く常駐させることで、メンテナンスサービスは預かりから1時間、修理は24時間で速やかに返却できる体制を整えた」と胸を張ります。過去のイベントでは海外のスタッフも招いていたものの、今回は国内各地の精鋭スタッフを集めたとのこと。外国語は、英語を中心に主要な言語に対応できるそうです。

  • ライト付きルーペでカメラのコンディションを細かくチェック。このルーペ、何か見たことある形だな…と思ったところ、EFレンズ用のリアキャップを流用して作ったオリジナル品とのこと

  • センサーの清掃など基本的なメンテナンスは1時間で済む体制を整えている

  • 部品交換を伴う修理も、24時間で戻せるようにしている

今回の東京2020では、原形をとどめないほど大破したカメラや交換レンズが持ち込まれることもあるそう。撮影している最中、飛んできたボールなどが衝突したり、時には選手が突っ込んできてカメラが大破することがあるからです。そのようなひどい状態になったカメラや交換レンズも、迅速に修理できる体制を整えているといいます。

  • スポーツイベントでのプロサポートを担当する、キヤノンマーケティングジャパン カメラ統括本部 グローバルスポーツイベントプロサポート課 チーフの仲野正明氏

目を引いたのが、カメラや交換レンズを細かく検査して微調整するための調整室をブース内に設けていたこと。調整室は、特殊なテストチャートを用いて交換レンズのオートフォーカスや解像力を計測して補正する設備と、カメラ本体の露出やAFの精度などを計測して補正する暗室の2つに分かれています。特に、交換レンズの調整室は800mmクラスの超望遠レンズを装着した状態でも微調整できるよう、かなりの長さを確保したスペースが用意されていました。ピントの調整に利用するテストチャートはキヤノンのノウハウが詰まった社外秘とのことですが、そのような大事なものを持ってきてまで最善のコンディションでカメラを使ってもらいたい、という意気込みが感じられました。

  • 交換レンズのAFまわりを調整するための調整室。800mmの超望遠レンズにも対応するよう、かなり広いスペースが取られている。担当者で隠れているが、向こうにはキヤノン独自のテストチャートが設置されている

  • EF400mm F2.8L IS III USMを装着して調整しているところ。AFの微調整のほか、解像力を中央部重視にするかといった調整もできるという

  • こちらは暗室内に設けたカメラ用の調整室。特殊なレンズを装着してチェックしている

  • カメラの露出やAF精度、色調整(ホワイトバランス)など、基本的な部分が調整できる。EOS R5などのミラーレスカメラは、ボディ内手ぶれ補正機構の調整も可能とのこと

見渡す限り白レンズ、代替貸出用機材の用意がすごかった

圧巻だったのが、メンテナンスや修理で預かった機材の代わりに貸し出す機材の充実ぶり。ブース内のかなりのスペースを割いて機材の保管庫に使っており、さまざまなボディや交換レンズが並んでいました。特に“白レンズ”と呼ばれる超望遠レンズの品ぞろえが多く、見渡す限り白レンズ…という状況だったのには驚かされます。150万円近くする超望遠レンズ「EF400mm F2.8L IS III USM」でさえ、両手では数えられない数が並んでおり、「プロの仕事を止めない!」というキヤノンの本気が感じられました。

  • ズラリと並ぶ貸出用機材のストック。見渡す限り白レンズばかり、という夢の空間となっていた

ボディは、利用しているカメラマンが多いEFマウントのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark III」を中心に「EOS 5D Mark IV」も用意していましたが、RFマウントのフルサイズミラーレス「EOS R5」や「EOS R6」も見受けられました。バッテリーなどのアクセサリーも用意しているそうです。ちなみに、準備している機材の具体的な数量は非公表とのことで、残念ながら教えてもらえませんでした。

  • スポーツ撮影だけに、ボディはやはりEOS-1D X Mark IIIが多かった

カメラマンからのフィードバックを重視、サービスはすべて無料!

機材のメンテナンスや修理を受け付けている際、来訪したカメラマンから機材についての意見や要望を聞くこともあるそう。仲野氏は「極限の性能を求めるスポーツ撮影の現場で活躍する世界各国のカメラマンから生の意見が聞ける貴重な機会なので、大いに重視している」と語ります。開発発表をしたプロ向けのフルサイズミラーレス「EOS R3」をはじめ、今後登場する新製品の開発に生かされていくことでしょう。ちなみに、EOS R3が東京2020でこっそり活躍しているかどうかは「ノーコメント」とのことでした。

  • メンテナンスや修理などのサービスを提供するだけでなく、カメラマンからのフィードバックも重視しているという

これらのメンテナンスサービスや修理サービス、機材の代替貸出サービスですが、今回の東京2020では費用を一切徴収せず、すべて無料で提供しているといいます。部品交換が発生する修理を含めてタダなのには驚きました。

東京2020は一部競技を除いて無観客で実施しているだけに、私たちはテレビやWebサイトのニュース記事、新聞に頼るしかありません。感動の一瞬を逃さずとらえて世界に伝えるカメラマンの活躍を裏方でバックアップするカメラメーカーの奮闘を垣間見られ、いち写真ファンとして頼もしく、うれしくも感じました。