米国の宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックは2021年7月1日、早ければ7月11日にも、6人の乗員を乗せたサブオービタル宇宙船「スペースシップツー」の試験飛行を実施すると発表した。

4人以上が乗った状態での飛行は初めてで、商業運航の開始に向けた各種試験を実施。同社創業者でヴァージン・グループ総帥のサー・リチャード・ブランソン氏も搭乗し、安全性などをアピールする。

  • スペースシップツー

    宇宙船スペースシップツーと、空中発射用の飛行機ホワイトナイトツー (C) Virgin Galactic

ヴァージン・ギャラクティックのスペースシップツー

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、実業家サー・リチャード・ブランソン氏らが立ち上げた宇宙企業で、「サブオービタル飛行」と呼ばれる形式での宇宙旅行の実現を目指している。

サブオービタル飛行は弾道飛行とも呼ばれ、地球の軌道に乗る宇宙船とは異なり、高度約100kmの宇宙空間に行って帰ってくるだけの飛行である。宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。

同社のサブオービタル宇宙船「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」は、全長18.3m、高さ5.5m、翼長8.3mの、小型のスペースシャトルのような形の機体で、2人のパイロットと6人の乗客、あわせて最大8人が乗ることができる。

スペースシップツーは、「ホワイトナイトツー」と呼ばれる双胴機に吊るされて高度約5万ft(約15km)へ運ばれ分離。そこから機体後部に搭載したロケットを噴射して上昇。宇宙空間に達したのち降下し、最終的には滑空飛行して滑走路に着陸する。

なお、「どこからを宇宙とするか」にはいくつかの定義があり、ヴァージンでは米軍や米国航空宇宙局(NASA)が定めた「高度80km(高度50マイル)以上が宇宙」という定義を採用している。

スペースシップツーはこれまでに2機が造られたが、1号機は2014年に事故で喪失。現在は2号機「VSSユニティ」が試験飛行を行っている。

VSSユニティはこれまでに、ホワイトナイトツーに吊るされて飛行する試験を皮切りに、単独での滑空飛行試験、ロケットを噴射しての動力飛行試験を経て、2018年には初の宇宙飛行に成功した。試験飛行はこれまでに21回、そのうち宇宙飛行は3回成功している。

そして今回、商業宇宙飛行の開始に向けた次のステップとして、機長と副操縦士の2人に加え、乗客役として4人の同社社員を乗せた、計6人での試験飛行が行われることになった。

これまでの試験飛行は、いずれも機長と副操縦士の計2人か、もしくは乗客役として乗り込んだ同社の従業員1人を含む計3人で行われており、史上最多かつ、「より実際の商業運航に近い形で、機内の環境や座席の快適さ、無重力体験、地球の眺めなどの、宇宙旅行体験の試験ができる」としている。

  • スペースシップツー

    2018年の飛行試験で宇宙空間に到達したスペースシップツー (C) Virgin Galactic

ブランソン氏自ら搭乗

この試験飛行では、ブランソン氏も自ら搭乗。今後の商業運航の開始をにらみ、実際と同じ訓練や準備、そして飛行を経験し、評価するとしている。ちなみにブランソン氏は冒険家でもあり、過去には熱気球による大西洋や太平洋の横断にも成功した実績をもつ。

そのほかの搭乗者は以下のとおり。

  • デイヴィッド・マッケイ(David Mackay)氏……機長、スペースシップツーの操縦を担当
  • マイケル・マスッチ(Michael Masucci)氏……副操縦士、スペースシップツーの操縦を担当
  • ベス・モーゼス(Beth Moses)氏……チーフ・アストロノート・インストラクター。今回の試験飛行の責任者を務める
  • コリン・ベネット(Colin Bennett)氏……同社リード・オペレーション・エンジニア。今回の試験飛行では機械の設備や手順、経験の評価を担当
  • シリシャ・バンドラ(Sirisha Bandla)氏……同社政府関係・研究業務担当副社長。今回の試験飛行では、フロリダ大学の実験装置を用いて、飛行中に実験を行う際の手順などの評価を担当

なお、操縦士以外のブランソン氏ら4人は「ミッション・スペシャリスト」という肩書きで呼ばれている。

試験飛行は早ければ7月11日の予定。ただし、天候や技術的要因により遅れる可能性もある。離陸、着陸はニューメキシコ州にあるスペースポート・アメリカを拠点に行われる。

飛行の様子は、同社のWebサイトなどでライブ中継が行われる。

この試験飛行が成功すれば、機体の点検やデータの確認などを経て、試験飛行プログラムを次のステップに移行。今後さらに2回の試験飛行を予定しているという。

商業運航の開始は2022年に予定しているという。

また、スペースシップツーを全面的に改良した「スペースシップIII」の開発も進んでおり、実運用では同機が使われることになる。スペースシップIIIは現時点で、「VSSイマジン(Imagine)」と「VSSインスパイア(Inspire)」の2機が製造されており、VSSイマジンに関しては地上試験が始まっている。

ブランソン氏は「私は、宇宙とは私たち人類すべてのものだと心から信じています。16年以上にわたる研究と開発、そして試験を経て、ヴァージン・ギャラクティックは人類に宇宙を開放し、世界を良い方向に変えるべく、新しい宇宙ビジネスの先陣を切っています。誰もが宇宙に行けるようにするという夢を持つとともに、素晴らしいチームが一丸となって、その夢を現実にするため努力してきました」と語る。

そして自ら宇宙に行くことについては「ミッション・スペシャリストの一員として、未来の宇宙旅行者の旅を検証し、ヴァージンに期待されているユニークな顧客体験を提供する手助けができることを光栄に思います」と語っている。

サブオービタル宇宙船の開発をめぐっては、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンも力を入れており、7月20日にはベゾス氏らが搭乗し、初の有人飛行試験が予定されているなど、競争が過熱している。

  • スペースシップツー

    7月11日の試験飛行に搭乗する予定の6人のクルー。左から、マッケイ氏、ベネット氏、モーゼス氏、ブランソン氏、バンドラ氏、マスッチ氏 (C) Virgin Galactic

参考文献

Virgin Galactic Announces First Fully Crewed Spaceflight - Virgin Galactic
Learn - Virgin Galactic