バイデン米大統領は6月9日(米国時間)、中国発のショート動画投稿アプリ「TikTok」の米国内でのサービスを禁じようとしたトランプ前大統領の命令を撤回した。中国企業のアプリのリスクを警戒する姿勢に変わりはなく、形骸化した命令に代えて、米国民の個人情報を保護するより効果的な対策を探る。

昨年8月、トランプ大統領(当時)は利用者の情報が中国に渡る可能性がある安全保障上の懸念を理由に、国際緊急経済権限法に基づいて中国のByteDance (TikTokを開発)、Tencent (WeChatを開発)との取り引きを45日後に禁じる大統領令を出した。しかし、命令は法的根拠が弱いとして首都ワシントンの連邦地裁がTikTokなどが求めた一時差し止めを認め、サービスは停止されることなく、今でも同じように利用できる状態が続いている。

バイデン大統領は、大統領就任前には民主党の対中融和路線に回帰していくという見方があったものの、中国への強硬姿勢を継続した上で、トランプ前政権が行った対中政策を見直す作業を進めている。6月3日には、前政権では主に軍事関連の企業が対象だった中国企業への株式投資の禁止を、通信大手を含む59社に拡大した。

9日に出した大統領もその1つであり、TikTokなどのサービスを禁止しようとしたトランプ氏による3つの命令を撤回した一方で、敵対する政府や軍と結びついて米国の消費者からデータを収集するアプリへの新たな措置に乗り出した。そうしたアプリが米国に及ぼす国家安全保障上のリスクを判断し、対処するための新たな枠組みを求め、商務省と関係する連邦機関に対して、外国の敵対勢力による個人情報の収集、販売、利用を防ぐための方策を120日以内に提案するように指示した。

TikTokの問題ではトランプ氏の大統領令を受けて、対米外国投資委員会(CFIUS)がTikTokの国際事業の米国企業への売却を進めていた。昨年9月に、OracleとWalmartと提携して米国に新会社を設立する案で基本合意にこぎついたものの、大統領選挙の混乱や政権交代もあって実現には至っていない。今回のバイデン氏の大統領令はCFIUSによる調査とそれに基づいた措置には触れていない。今年2月、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官がCFIUSによるTikTokの調査はバイデン政権下でも継続中であると認めている。