スマート家電やIoT製品を手がけるプラススタイルが5周年を迎えました。立ち上げ当初からクラウドファンディング事業などを通じて、先進的でユニークな製品を数多く国内に流通させてきた同社。3月末には、さまざまな電動スクーター(eスクーター)の取り扱いを発表して注目を集めています。この5年間で成功したこと、うまくいかなかったこと、今後のスマート家電業界の展望を、プラススタイル 取締役社長 兼 CEOの近藤正充氏に聞きました。
日本人にクラウドファンディングはなじまないと悟った
――はじめに、プラススタイルを立ち上げた経緯について教えて下さい。
近藤さん:いまから5年前になります。シリコンバレーで勤務していた2016年当時、現地ではIoT製品が出始めたころでした。Kickstarter、Indiegogoといったクラウドファンディングを通じて、私自身も商品を購入して使っていたんです。そんな体験があったので、日本に帰任したあとも同じような体験ができると思っていました。でも、日本にはそういう商品がほとんどなくて、「この差はなんなんだ!?」と思ったんです。IoT製品の市場を広げるための旗振り役が必要なんだろう、ということで、モノ作りをサポートするプラットフォームを立ち上げました。それが現在のプラススタイルにつながっていきます。
当初の目論見としては、IoT市場でモノ作りをする日本のメーカーのサポートを考えていました。企画を立案する「プランニング」、資金を集める「クラウドファンディング」、商品のマーケットとしての「ショッピング」という3つの側面でサポートしていこうと。
でも、事業をスタートしてすぐに「日本ではクラウドファンティングの文化は根付かない」と気付きました。お金を出したお客さんは「モノづくりをサポートしている」という認識が薄く、あくまで「モノを買っている」認識なんです。だから、商品が届かないとクレームが入ってしまうんです。
本場アメリカのクラウドファンディングでは、当初の予定から1年や1年半、開発が遅れることはザラ。そんな状況でも、お客さんは「モノづくりをサポートしている」というモチベーションのもとでお金を出しているから、文句を言う人はほとんどいません。でも、日本人にはそうした意識が根付いていない。文化の違い、育った環境の違いでしょうか。
それもあり、日本ではまともに機能しないクラウドファンディングをやめ、すでに世界に流通しているIoT製品をいち早くユーザーにお届けすることに注力しようと方向転換しました。ディストリビューターの役割ですね。それが2017年ごろでした。
日常的に使えるスマート家電が少なく、オリジナル製品を手がけることに
方針転換してから少しずつユーザー数も増え、新しもの好きなイノベーターと呼ばれる方が我々のサイトで2個、3個と商品を買ってくれるようになりました。でも、なかなかスケールしない(規模が拡大しない)。このままではキャズムを超えるところまでいかない、つまり普及しないのでは、という思いがありました。
そのころ扱っていたのは先鋭的な商品、つまり“とがったもの”が多かったんです。そこで、日常的に使うものをIoT化した方がよいのではないか、スマートフォンやスマートスピーカーを介して簡単に操作できる便利な商品を販売すれば市場も広がるんじゃないか、という考えに至りました。
でも、そうした商品は世界中を探してもなかなか良いものがありません。それならば自分たちで作ってしまおう、という思いで2018年にオリジナルのスマート家電を作り始めました。
当初は「加湿器」「掃除機」「アロマディフューザー」の3商品からスタートし、のちに新しい掃除機や「LED電球」「シーリングライト」といった日常的なスマート家電をラインナップに加えていきました。一般的な製品と比べても見劣りしない価格設定のスマート家電を出していくことで、まずはその便利さを感じていただいて、ユーザーの生活レベルを上げてもらう。そのあとなら、もうちょっと機能が豊富だったり、とがった商品も購入いただけるようになる、という狙いがあります。いまも、この“二段構え”でやっています。
――商品のアイデアは、どんなときに浮かぶのでしょう?
近藤さん:私自身、結構面倒くさがりで、すぐに「何かを端折りたい」と思ってしまうんです。在宅ワークが増えたいま、家にいる時間も増えたのですが、持ち前の面倒くさがり心が以前にも増して「もっと、こんな機能があれば良いのに」と思うようになりました。
例えば、毎日のようにケトルでお湯を沸かしていますが、飲むものによって温度設定を変えられないかと発想する。玉露なら低めの温度でちょっと苦味が出るようにしたいし、紅茶だったら100度くらいでカンカンに沸騰させるのが良い。コーヒーなら80度くらいがイチバン美味しく淹れられるでしょう。これを自分で調節しようとすると大変ですが、スマート家電が自動でやってくれたらうれしいじゃないですか。
こんな風に、毎日の生活の中にヒントは転がっています。別の言い方をするならば、自分がユーザーになったときに「何が欲しいのか」を考えてみる。あとは、ライバル企業が新しい製品を出したときに、それを買って使ってみる。すると「自分だったら、この部分をこうするのに」というアイデアが浮かぶんですよね。
――プラススタイルの強みは、どのあたりにあると考えていますか?
近藤さん:1個1個の商品でできることは、他社の製品とそんなに大きくは変わらないんです。でも、「そういう商品をラインナップとして持っていること」が強みになります。例えば、スマート電球で有名な企業さんは電球しか出していませんよね。ロボット掃除機で有名な企業さんはロボット掃除機だけ。皆さん、それぞれ磨き上げた商品を出しています。
でも、我々はコーヒーメーカーや加湿器など、すでに20前後の商品ラインナップを展開しています。すべて自社製品で、これらが1つのアプリケーションでコントロールできる。そこが大きな差別化要素になると思います。これからもラインナップを増やすことで、アドバンテージをどんどんと広げていきたいですね。
購入者の壁は「接続設定」、5Gの普及でスマート家電が大きく変わる
――5Gに期待することはありますか?
近藤さん:コールセンターへの問い合わせの1/3ほどが、機器の接続設定に関する問い合わせなんです。Wi-Fiの設定のやり方やスマートスピーカーとの連携のやり方など、製品を買ったけれど接続に戸惑っている方が多い状況です。我々もあぐらをかくことなく、設定の簡素化を進めています。
しかし、5Gが普及したころには、買ってきた製品を電源につなぐだけで、5Gで通信がつながって使えるようになっている――。そんな世界が実現できると思います。通信の発達が、スマート家電がさらに広がるための一助になることを期待しています。
――スマート家電、キャズムを超えるためには? どんな課題が残っていると思いますか?
近藤さん:まず大きな課題として、認知度の低さがあると思っています。スマート家電の便利さを、もっと多くの方に知ってもらう必要がありますね。例えば「スマート全自動コーヒーメーカー」のような分かりやすい製品を出して、「こんな便利なことができるんだ」と知ってもらうことがまず大事です。
そのためには価格設定も重要になります。「スマート家電なので、普通の製品よりも1万円高くなります」といきなり言われても、スマート家電のメリットが分からない方には受け入れてもらえません。競合製品と同じくらいの価格帯で販売されているものをまずは買ってもらい、使ってみてIoTの便利さを認識していただきたいです。通信機能を入れるため、一般的な家電と同じ価格帯にできるかと言われると、なかなか難しい部分はありますが、企業努力の範囲内でできるだけ安く提供していければと考えています。
既存商品との差別化要素をしっかり伝えていくことも大事ですね。一時期、ペットに餌をあげる商品が売れました。でも、あるときを境にパタッと販売が止まったんです。スマート家電の良さを分かっている人がまず買ってくれたんですが、その後の販売戦略がなく、同じような売り方を続けてしまったのが原因です。現在は、既存商品との差別化要素をなるべくクリアに伝えるよう心がけて販売するようにしています。
――コロナ禍により、販売状況に影響はありましたか?
近藤さん:コロナの影響はまったくないですね。伸び続けています。家電市場では「空気清浄機や加湿器の販売が伸びた」といった報道を目にしましたが、スマート家電市場はコロナが影響を及ぼすほど大きくはありませんから。現在、プラススタイル自体の知名度が上がっている最中で、年間の売上高も倍倍で増え続けています。
法改正で電動スクーターがいよいよブレイクする
――近藤社長が、個人的にいま注目している製品はありますか?
近藤さん:一昨年、KDDIが出資した電動キックボード「Lime」にドイツのベルリンで試乗する機会がありましたが、これは便利でした。でも、日本では(道路交通法の関係で)公道で走行できず、公園や私有地内など限られた場所でしか乗れないんですね。これまで法規制が厳しく、私もそこがクリアにならないと国内の普及は難しいと考えていました。でも、2021年4月からヘルメットなしに乗れるようになります。これは大きな転換点になるのでは、と思っています。
電動スクーターについて、我々も半年くらい前から幾度となくディスカッションしてきました。コロナ禍では電車に乗るのもちょっと怖い、でも自転車は大変…。そんな状況において、行動範囲を広げるのに電動スクーターがちょうど良いツールになるのでは、という思いがありました。今回、プラススタイル5周年ということで特設サイトを開き、複数のラインナップを紹介することになりました。
【電動キックボードにまつわる法改正について】
警察庁は2月4日、シェアリング事業者が認可を受けている地域に限り、電動キックボードのヘルメット着用無しでの走行を認可すると明らかにした。電動キックボードを小型特殊自動車(トラクターやフォークリフトなどと同等)と位置付けることで、認可区間で「ヘルメットの装着は任意」になる。
――今後、どのようなカテゴリーでスマート家電は伸びていくと考えていますか?
近藤さん:ベースとなるのは「電球」や「シーリングライト」などの商品で、ここから新しい進化はあまりないかなと思います。あとは枠を広げるというか、コーヒーメーカーのような商品をもう少し多くラインナップしていくことで個別のニーズに対応していく考えです。
一方で、製品をインターネットにつなげる方法の簡便化については、今後の課題です。家に帰って電源を入れたら、もうつながっているという状態にするのが理想です。どんな仕組みを使ったらその世界に近づけるかの検討を進めていますが、成功すればスマート家電が普及する大きな一歩になるでしょう。
今後の商品ラインナップに関しては、戦略上あまり公表しない方針です。でもヒントを教えると、プラススタイルでは世界中のIoT製品をディストリビューションするなかで、これまでもテスト的に国内販売してきた製品があります。試しに売ってみて、売れたら自社で作る、ということをやっています。だから、この1年でオリジナル商品以外にどんなものが発売されたか、ラインナップを振り返っていただくと、「このあたりが来るんじゃないか?」なんて予想がつくかもしれません。そんな目線で、過去の商品もぜひチェックしてみてください。
3月に入り、「+Style 5周年感謝祭」などのキャンペーンを大々的に実施してきたプラススタイル。近藤社長には、最先端のスマート家電(IoT製品)と国内ユーザーをつなぐ橋渡し役を担った5年間を振り返ってもらいました。いま注目したいのは、警視庁が規制緩和を打ち出す前から検討を始めていたという、電動スクーター(eスクーター)の販売です。今後、どんな製品が飛び出してくるのかにも期待したいですね。