花王パーソナルヘルスケア研究所、花王生物化学研究所、花王解析化学研究所の3者は12月14日、ヒトの手指には、感染症の原因となる菌やウイルスを減少させるバリア機能が生来的に備わっており、風邪やインフルエンザなどの感染症のかかりやすさに関連している事、ならびにバリア機能に個人差がある事や、バリア機能には手汗から分泌される乳酸が寄与していることを明らかにしたと発表した。

今回の研究では、予備的な試験として、感染症にかかりにくいという意識を有しているヒトと、かかりやすいという意識を有しているヒト、それぞれ数名を選別、手指に大腸菌を塗布して、直後と3分後の手指の菌の状態を調査。その結果、かかりにくい意識のあるヒトの手指では3分後に菌が大幅に減少していることが判明したという。

  •  感染症にかかりやすい意識のあるヒトとかかりにくい意識のあるヒトの手指バリアの違い

    感染症にかかりやすい意識のあるヒトとかかりにくい意識のあるヒトの手指バリアの違い。寒天培地によるハンドスタンプ法による、大腸菌塗布直後と3分後の評価(大腸菌を緑色に発色させている)

さらに、6名のヒトの手指表面の成分を採取し、抗菌・抗ウイルス活性(菌やウイルスを減少させる効果)を評価したところ、手指表面の成分には、大腸菌だけでなく、黄色ブドウ球菌やインフルエンザウイルス(H3N2)を減少させる効果があることも確認。また、この効果には個人差があり、いずれの菌・ウイルスに対しても高い効果を持つヒトや、その逆のヒトがいることも解明したとしている。

  • 手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性

    手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性

加えて、10名のヒトを対象にした数日間の調査で、手指表面の成分の抗菌性の日内・日間変動を検証。抗菌性が高い5名と低い5名に分けたところ、その関係が維持されていることもわかったという。

  • 手指表面成分の抗菌性の日内・日間変動

    手指表面成分の抗菌性の日内・日間変動(黄色ブドウ球菌に対する評価)

これらの結果から、ヒトの手指には菌やウイルスを減少させる機能が備わっており、その機能には個人差があり、その機能が恒常的に高いヒトがいるとの着想を得たとしている。この機能を研究チームでは「手指バリア」と名付け、20~49歳の健常な男女から、感染症にかかりやすいヒト55名、かかりにくいヒト54名の計109名を選抜し、手指表面の成分を採取して、その抗菌活性を調査した。

ちなみに、かかりやすいヒトの定義としては、過去3年間にインフルエンザに2回以上かかり、過去1年間に風邪の発症が3回以上のヒトとし、かかりにくいヒトの定義は、いずれも0回のヒトとしたとする。

調査の結果、評価に用いた大腸菌と黄色ブドウ球菌のいずれに対しても、感染症にかかりにくいヒトの成分の抗菌活性が有意に高いことがわかったとのことで、このことから、手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることが強く示唆されたとしている。

  • 感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係

    感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係

また、「手指バリア」の活性に重要な成分を検討するため、20~40代の男女54名の手指表面の成分を採取し、黄色ブドウ球菌とインフルエンザウイルス(H3N2)を用いて抗菌・抗ウイルス活性と相関の高い化合物の特定を試みた結果、その両方に対して相関がある複数の化合物の中でも特に、手汗から分泌される乳酸が重要であることが判明したという。

  • 手指上での乳酸量と、手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係

    手指上での乳酸量と、手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係

さらに、乳酸水溶液を手指に存在する範囲で乳酸量を変えて手指に塗布した実験では、乳酸量が多くなるほど抗菌活性が向上することを確認したとしている。

  • 乳酸を塗布した際の手指上での抗菌活性の変化

    乳酸を塗布した際の手指上での抗菌活性の変化(大腸菌に対する評価)

今回の成果について研究チームでは、一般的な手指衛生の手段である手洗いやアルコール消毒による菌やウイルスの除去・不活性化効果は一過性のものだが、手指のバリア機能は恒常的であることから、手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案につながるものだと説明しており、今後も手指の感染症に対するバリア機能をより深く研究し、手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案を通じて、世界の人々を接触感染とその不安から守る感染予防習慣の実現に貢献していきたいとしている。