“小中学校に1人1台の情報端末を配備する”という「GIGAスクール構想」の準備が、全国の自治体で急ピッチで進められています。各自治体は、文部科学省が標準仕様と定める「Windows」「Chromebook」「iPad」の3種類から選ぶことになりますが、試験導入ではWindowsを用いていたのに正式導入ではiPadを採用する自治体が増えてきました。“鞍替え”の背景には、iPadならではの使いやすさや軽快な動作が教育現場でも認められたことがありました。

  • 小中学校に1人1台の情報端末を配備する「GIGAスクール構想」でiPadを採用する自治体が増えている

    小中学校に1人1台の情報端末を配備する「GIGAスクール構想」でiPadを採用する自治体が増えている。iPadを選んだ背景や活用の方法を、東西2つの自治体に取材した

iPadの使いやすさとレスポンスのよさが認められた

IT先進国の印象が強い日本ですが、学校での情報端末の利用は世界各国と比べても遅れているといわれます。その状況を受け、「小中学校に1人1台の情報端末を配備する」と国が旗を振って推進しているのが「GIGAスクール構想」です。当初は2023年までの計画で進められていましたが、新型コロナウイルスの影響で学校が臨時休校になって授業時間が減ったことを受け、急きょ2020年度内の実施へと大幅に前倒しされました。

GIGAスクール構想では、児童生徒1人あたり45,000円が国から自治体に補助され、情報端末や通信環境の整備に用いられます。情報端末は、文部科学省が「Windows」「Chromebook」「iPad」を標準仕様と定め、自治体ごとにそれら3種類のなかから採用するものを自由に選択する仕組みとなっています。当初、一般への認知度やシェアが高いWindowsが優勢だとみられていましたが、直近ではiPadを採用する自治体が増えています。

その1つが大阪府枚方市。京都府に隣接する人口40万人の中核市で、大阪市と京都市の中間にある交通の便のよさから、ベッドタウンとして人気を集めています。

枚方市教育委員会は、これまで深い学びや学力向上の取り組みを重点的に進めてきましたが、「子どもを誰ひとり学習で取り残さない」新しい教育のスタイルを確立するため、IT機器を用いたICT教育の導入検討をいち早く進めてきたといいます。この方針を受けて「1人1台のタブレット」を早期に目指すべく、タブレット端末を一部の学校に試験的に導入することを決定しました。

1年前、ある中学校の3年生全員にWindowsタブレットを試験的に導入し、それと並行して別の中学校にはiPadを試験的に導入。どちらの機種のほうが使いやすいか、機能面はどうか、通信環境はWi-FiかLTEのどちらがよいか、といった点を中心に検証を進めてきました。

検討の結果、iPadを導入することを決定。小学校・中学校合わせて31,000人ぐらいの児童生徒が在籍するなか、予備の機材を含めて32,000台ものiPadを大量導入することを決めました。アクセサリーは、ロジクールのカバー兼キーボードを導入しましたが、Apple Pencilの導入は見送られました。

iPad導入の決め手は、「率直に使いやすさ」だといいます。「試験導入してみて、iPadは子どもだけでなく教師にとっても直感的かつ簡単に扱え、さらに自由度の高さや表現のしやすさも備えていると感じた」と評価します。

Windowsを選ばなかった理由については、「大きな問題があったわけではなく、あくまでタッチの差というか感覚的な差ではあるが、iPadのほうが操作のレスポンスが優れていた。iPadのタップ操作やWindowsのダブルクリックの感覚など、大人ならばこんなものかと納得できるのに対し、子どもはちょっとしたレスポンスの悪さが我慢できない」といいます。

導入したのは、第7世代iPadのLTEモデル。LTEモデルにしたのは、体育の授業など校外での利用を見込んでいることと、いつでも安定した通信ができること。Wi-Fiは、正常に通信できなくなるトラブルが起こりやすいのに対し、携帯電話回線はそのようなトラブルが基本的にないことを評価したといいます。

授業でのiPadの活用はさまざま。キーノートやiMovie、Pagesなどを用い、課題を発表する際に利用することもあるそう。発表時にはApple TVを用い、教室のテレビやプロジェクターに映し出しています。体育の授業では、幅跳びの姿を撮影してスローモーションで再生し、フォームをみんなで確認するのにも活用していました。ちなみに、すべての授業でiPadの利用を必須としているわけではなく、iPadのメリットが活躍する場面で用いているとのことです。

コロナウイルスの影響でオンライン学習の重要性が高まっていることもあり、導入したiPadは持ち帰っての利用も認めています。ただし、MDM(モバイルデバイス管理ツール)で指定したアプリ以外は導入できなくしており、ゲームは遊べないようになっています。

導入のお手本は熊本市などの先駆者、今後は枚方市も手本になりたい

タブレットの導入検討を進めていた際、枚方市教育委員会の担当者がお手本としたのが、いち早くiPadを学校に導入して実績を上げていた熊本市や近畿大学附属高等学校・中学校です。熊本市は、2万台を超えるiPadを公立の小中学校に導入することを2018年にいち早く決定し、大きな話題となりました。実際に視察に訪れたほか、月に1度の情報交換の場を設けて検討を進めたといいます。

担当者は「iPadを導入している学校は私立がほとんどで、公立の学校はまだまだ少ない。しかし、いざ導入してみると、本当に何でもできるな、無限の可能性を秘めているなと感じた。学校側や先生があれこれ決めるのではなく、子どものやってみたいを後押しできる存在だと感じる。今回、枚方市は公立の小中学校に3万台規模のiPadを導入することになったが、ほかの自治体の参考になればうれしい」と語ります。