「低賃金による将来への不安」から、男性が「寿退職」の道を選ぶことも少なくないという介護業界。退職後は介護職を離れ、異業種に転職していく人が多いといいます。

そうした中、『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)という本が注目されています。

著者は深井竜次さん。正社員の介護士から、派遣介護士×副業ブロガーという働き方に変え、満足のいく収入と、自分らしい幸せな生活を手に入れました。そんな深井さんに、「介護士としての幸せな働き方」について話を伺いました。

  • 介護士の幸せな働き方とは?

正社員=安定ではない介護業界

深井さんは、介護の世界に足を踏み入れる前は、保育士として働いていました。しかし現実の厳しさに直面し、1年足らずで挫折しまったのだそうです。

「保育士は中学生の頃からの夢でした。それを実現させたにも関わらず、幸せになるために始めた仕事だったのに、続けられなかった。それは相当悔しく悲しい経験でした」。

その後、縁あって始めた介護の仕事。戸惑いながらも仕事を覚え、今度は続けることができたものの、次第に介護職の正規雇用の給料と勤務形態に疑問を持ち始めたと言います。

「介護の仕事は好きでした。でも、志のある同僚や優秀な上司が、低賃金を理由に次々と職場を離れていく様を見て、現在の介護業界には"正社員=安定"という構図が見当たらないと危機感を抱きました」。

ただ深井さんは、ここで介護士を辞めるというマインドには至りませんでした。

「介護職の待遇問題は、国を挙げて根本的に解決しなければならないことではあります。でも、保育士の仕事で一度挫折を経験していた僕は、低賃金を理由に、せっかく積み上げた努力や経験を捨ててキャリアを断絶させてしまうのはもったいないと思ったのです。

幸せは、積極的につかみにいかないと手に入りません。問題があるなら、自ら対策を考え、行動して、解決すればいい。そう思って僕は、介護士を続けながら将来を安定させる方法を模索しました」。

  • 介護ブロガー、アフィリエイター、作家の深井竜次さん

介護士を続けるために選んだ「派遣×副業」

こうして深井さんは自身の働き方を突き詰めて考え、たどり着いたのが「派遣×副業」という働き方でした。

「僕が選んだのは、介護士の仕事を本業に据えながら、副業で収入を増やすという方法です。副業では、介護業界に特化したブログ運営を行うことにしました。それは、僕自身が、介護士の不安や悩みを解決する情報が少ないと感じていたから。

ネットで検索しても、出てくるのは企業視点からの情報ばかり。現場の課題や悩みを解消するものではありません。だったら、自分がそこを満たせる情報を発信しようと。もともと文章を書くことは好きだし、現場の一介護士が自分の考えや厳しい現実について伝えることには、意味もあるし需要もある。そう思ったのです」。

一方で、本業の介護職は、正社員という立場を捨て、あえて派遣という働き方を選択しました。

「副業を成立させるためには時間が必要でした。でも、最低限生活に必要なお金は稼がなくてはなりません。そこで思いついたのが、地元島根を出て、介護職の時給が高い東京に行き、夜勤専従で働くという方法でした。そうして、収入と社会保障などの安定性を確保しながら、副業のための時間を作り出しました」。

緻密な計画と地道な努力の結果、深井さんのブログ「介護士働き方コム」は多くの読者から支持を得るように。次第に、アフィリウェイトでも結果を出し始め、現在では、月収100万円を突破するまでに至っているそうです。

介護士と副業の良い関係性とは?

深井さんに、介護職と副業の関係性について、自身の考えを伺いました。

「一般的にも言われていることではありますが、副業を考える際には、本業との掛け合わせによって新しい価値を生み出せるかどうかをポイントにすると良いでしょう。そういう意味では、介護の仕事や職場は、他の仕事の経験や自分のスキルを生かせる場が多いと思うのです。

例えば、プログラミングの技術を持っていれば、介護の仕事をしながら施設のサーバー管理ができます。英語が話せれば、グローバル化で介護施設に外国人が入ってきた時に役に立ち、また、歌がうまい人は、入居者へのレクリエーション提供で喜んでもらえます。視点の持ちようで、色々な掛け合わせの可能性があるのです」。

では、NGな副業の考え方は?

「介護士の仕事をしながら深夜に飲食店のアルバイトをするというようなWワークはあまり良くないと思います。どちらの仕事も体が資本で、体調を崩してしまうと一気に収入がなくなってしまいます。時間を切り売りして一時的に収入を得るという方法は、長く続かないうえ次にもつながりません。

自分の付加価値を意識して働かないと、生き残っていけないこれからの時代、副業も一つのビジネス活動として、成功させるための勉強をしたり、努力したりすることは重要でしょう。またそれが、本業のパフォーマンスを伸ばすことにもつながると思います」。

  • 副業することで可能性が広がると話す深井さん

介護士として働くなら、派遣と正社員どちらが良い?

さらに、派遣で介護士をするという働き方についての、深井さんの考えも伺いました。

「派遣という働き方に対する、今までの世間の目は決して良くはなかったと思います。でも、そもそも僕には、自分が幸せになれればいいという考えがあるので、あまり気になりません。さらに大事なことは、僕の場合、副業の時間を作るという大きな目的があったので、派遣介護士という働き方は最善の選択でした。

2020年4月1日からは、改正労働者派遣法が施行され、派遣社員にも交通費やボーナスが支給されるなど、待遇面が強化されます。

また、派遣社員が抱える労働環境や人間関係の悩みに対しては、派遣会社が第三者として施設と調整してくれます。自分に明確な目的や考えがあれば、派遣というのは、『介護士に優しい働き方』と言えるのではないでしょうか」。

ただし、介護士としての最初の職場は正社員の方が良いと深井さん。

「正社員と派遣社員では、学べること、得られることの量は違います。僕も最初の3年間は、特別養護老人ホームで正社員として働きました。仕事は大変でしたが、しっかりと教育してもらえたので、介護士としてのスキルやノウハウ、知識の多くをそこで身に付けることができました。

初めが大変なのは誰でも同じ。つらくても歯を食いしばって、最初の数年は一つの職場に留まり、業務に関わることをしっかり学ぶことが大事です」。

介護士は意義のある仕事だから続けてほしい

介護士は、今も、今後も、世の中に不可欠な意義のある仕事。だからこそ、長く続けてほしいと深井さん。

「賃金、人間関係、労働環境など、不安や悩みを抱えている介護士の方は少なくないと思います。でも、それによって介護職そのものを嫌いになってほしくありません。そういった問題は、職場を変えるだけで解決するということも多々あると思います。

ミスマッチがあるのは仕方のないこと。働く場所はたくさんありますので、1つの場所や環境に触れただけでこの業界は合わないとかこの仕事は自分に向いていないという判断はせず、転職などで自分に合う職場を探して、長く介護士の仕事を続けてほしい」。

もちろん深井さんも、今後も様々な形で介護業界と関わり続けていきたいと話します。

「自分自身の幸せを追求してきた結果が今の自分の姿ですが、その軸になったのは介護の仕事。今後は、ブログ運営で培ったマーケティングやブランディングの知識や経験を還元するなど、現場の仕事を超え、様々な形で介護業界に関わっていきたいです。

また、介護業界の実態を広く世の中に伝え、働く人々の未来を変えられるよう、貢献していきたいですね」。

取材協力:深井竜次(ふかい・りゅうじ)

1993年生まれ。島根県在住。たんたんの名で活動する介護士ブロガー。保育士から介護士に転職後、介護職の正規雇用の給料や勤務形態に疑問を持ち、派遣社員の道を選択。派遣の仕組みを有効活用しながら労働時間を減らし、介護職専門のブログサイトを立ち上げる。アフェリエイトブログを始めて約1年後にブログ収入100万円を突破。介護の現場に立ち続けながら、介護職のリアルな悩みや問題を合理的に解決へ導くブログを日々更新している。