11月15日より配信中のNetflix映画『アースクエイクバード』。リドリー・スコットが製作総指揮をとり、ウォッシュ・ウェストモアランドが監督を務め、さらに数々の賞に輝き、『リリーのすべて』で第88回アカデミー賞で助演女優賞も受賞したアリシア・ヴィキャンデルが主演を務める。第32回東京国際映画祭に特別招待作品として出品もされた同作に、主要キャストとして抜擢されたのが、EXILE/三代目J Soul Brothersの小林直己だ。

日本在住経験のある作家 スザンナ・ジョーンズ原作の小説を実写化した同作は1980年代の東京を舞台にしており、日本に住むイギリス人女性リリーとみられる死体が発見されたことから、主人公のルーシーに容疑がかけられ、そこに絡む日本人カメラマン禎司の姿も浮かび上がっていく。この禎司を演じた小林は、アメリカで数々のオーディションを受け、メインキャストとして名を連ねることになった。今回は小林のインタビューを行い、2回にわたり同作への思いや、EXILEへの思いを紹介していく。

  • 小林直己

    小林直己 撮影:宮田浩史

■多くのノワールと反転した構造に

――『アースクエイクバード』の中で直己さん演じる禎司はとても謎めいていて、ルーシー(アリシア・ヴィキャンデル)とリリー(ライリー・キーオ)がその魅力に惹かれないと物語が成立しないという重要な役でしたね。

原作を読んでも脚本を読んでも、禎司はずっと重しのように存在していたので、その存在感に対して意識はしていました。ただ、禎司をどう演じようと考えたというよりは、どれくらい禎司のことを知ったらいいのかというところからアプローチをしました。禎司は日本人カメラマンの役なので、実際に写真を撮りはじめるところから始めて。というのも、自分もダンスを15年間やってきて、「積み重ねた時間は嘘をつかないな」と感じていたので、禎司を演じるにあたっても実際に写真を撮り始めることで、暗室で現像している時間がにじみ出るのではないかと思ったんです。

――禎司が生まれたと言われる鹿児島にも行ったそうですね。

行きました。彼が生まれ育った鹿児島に行って過ごして感じたことが、セリフひとつの説得力に関わってくるのかなと思ったので。原作の禎司にはほとんどセリフがないんですよ。監督のウォッシュ・ウェストモアランドと撮影が始まる前にLAで食事をしたんですけど、そのときに日本人の精神性や文化について、「こういうことは言わないんじゃないか」ということから、僕自身のバックグラウンドについても話しました。その中から彼がワードを抽出してくれて、禎司の精神性を表すカギとなるセリフになっていました。ウォッシュが僕を認めてくれて、僕に自由にシェイプすることを与えてくれたというか。だから、そうやって演じた結果が、仰ってくださったような謎めいた存在感に繋がってるとしたら、アプローチとして間違ってなかったなと思います。

――直己さんが禎司を知って突き詰めていくのと同時に、観客には彼のことがわからないという感覚が絶対に必要なわけで、そのあたりはどう考えていましたか?

僕も台本を読んで「禎司って何なんだろう」と考えたとき、人によっては 禎司はミステリアスだったりクローズマインドに見えるかもしれないけれど、彼自身には確固たる価値観があって、彼の追っている真実があると思ったんです。それをオープンにしないだけ、もしくは不器用なだけか、おそらくその両方だと思ったんですね。僕もどちらかというと禎司に近いタイプで、全てを話すわけじゃないし、そうすることのほうが尊いし、「伝わるものだけ伝わればいい」と思っていた方の人間だったので、そこに関しては、何を見せようとか、ここを隠そうとかは考えずに、「禎司として生きたらどうなるんだろう」ということに興味を持っていました。そのためには向き合いたくないことにも向き合わないといけないからタフな経験をしましたけど、それは僕の人生にとっても役者としても大きな挑戦であり、成長させてももらいました。

――禎司を見て、これはファム・ファタールではないかと思ったんですね。もちろん、オム・ファタールという言葉があるのも知った上で、役割としてはファム・ファタールがやってきたことではないかと。

この話自体が、ノワールスリラーでもあるんですけど、多くのノワール作品って、主人公がいて、出会う相手の謎を解いていくうちにいろんなことが明らかになっていく。だいたいがその主人公は男性で、出会う相手が女性であり、謎めいたファム・ファタールであったりすると思うんですけど、今回の『アースクエイクバード』の場合は、主人公がルーシーという女性で、彼女が出会う謎めいた男性が禎司になっている。その構造が面白いし仕掛けだなと思います。僕も改めて出来上がった作品を見て気づいたところですね。

――反転しているということですね。演じているときには、その視点は意識してなかった感じですか?

そうですね。でも行間から意味深さを感じていました。台本を読み終わったときに感じたのが、教会のでっかいパイプオルガンから出る低い音が通奏低音みたいに鳴ってるような感覚で。それは禎司から発せられてるのか、ルーシーからなのかは分からないけれど。日本という特殊な環境の中に、ルーシーがどんどん入り込んでいく中での禎司の役割は意識していました。

■時代性を感じた作品に

――同じ時期に『その瞬間、僕は泣きたくなった−CINEMA FIGHTERS project−』の主演作『海風』も公開になったわけで、この2作を見たら、直己さんが演じた蓮と禎司のふたりに共通して「弱さ」のようなものが感じ取れました。

自分の芝居のスタイルは、メソッド・アクティングというやり方で、過去の経験、記憶、感覚を使うものなんです。だから演じるときには自分に向き合わないといけない。そもそも映画って、映画を通して、自分自身の人生を見てるところがあると思うんです。僕は、抱えている過去や後悔があって、それを解消したいからこそ、一日一日、いい日になればいいなと思って生きてると思ってて。そういったことが、蓮にも禎司にも共通していました。もしかしたら、それは僕自身の哲学なのかもしれないですね。だから、他の人が蓮や禎司をやってもまったく違うものになっていたかもしれないし。特にふたりともに、母性 に対しての複雑な過去を持っているし。もちろん、そこから何をするのかは違うにしても、確かに共通するものはあるかもしれないですね。

――それと、蓮も禎司も女性に頭をなでられているシーンがあって。直己さんは、『HiGH&LOW』シリーズで不死身の源治を演じてたりもすることもあって、強いイメージを持ってる人も多いと思うんですよ。でも、ここへきて、それとは違う役が続くのは2人の監督がそういう部分を引き出したいと思う視点があったのかなと。

そうなのかもしれないですね。それと、時代性もあるのかもしれない。女性の社会的な立場が変化していて、性別、男性性や女性性に縛られない表現の中で、魂が寄り添う姿を描くときに、社会の規範やルールでだけは描けなくなっていると感じます。でも、人間なんてそもそもそういうもんだと思うんです。社会の規範やルールは、集団生活をするために生まれたものでしかないですから。そういう時代性があぶりだされている作品が、世界中で見られるNetflixで作られているのも興味深いなと思います。

――直己さんが今の時代で、関心のあることって何になりますか?

『アースクエイクバード』では、Netflixに、リドリー・スコットの制作会社スコット・フリー、そしてインターナショナルなクルーがいて、それぞれバックグラウンドや言語や文化が違う人たちとものを作りました。その経験を通して、改めて自分が日本という国で特殊な見方をしてたんだなって気づいたんです。例えば性別であったり出自であったりとか、そういうことに関して、目が開くような体験もありました。言葉を使うときにも、言いたい言葉も、言いたくない言葉も出てきました。

例えば男性性や女性性で単純に物事を語りたくないし、「日本人として」と いう 言い方もあれば、「日本で生まれて育って日本語を使って生活をしてきた」という言い方もあると考えるようになりました。でも、だからこそ、何が好きで何が嫌いなのか、それが核になるということも、この撮影の経験を通して感じたし、そんなやり取りを『アースクエイクバード』の中でもしていると思うんです。

■小林直己
EXILE/三代目J SOUL BROTHERSのパフォーマーとして全国ライブツアーなど精力的にアーティスト活動を行う。パフォーマー以外に役者としても活動し、舞台にも積極的に参加。劇団EXILE公演のほか、2013年2月より行われた「熱海殺人事件40years' NEW」(つかこ うへい作・岡村俊一演出)で大山金太郎役を熱演。各方面より好評を得る。2017年からは俳優として本格的に活動をはじめ、「たたら侍」(2017年) 「HiGH&LOW」シリーズなどに出演。Netflixオリジナル映画「アースクエイクバード」(2019年)も11月15日より配信スタート。日本ならず、アメリカにおいても俳優として活動の場を広げている。