トヨタ自動車が新型車「グランエース」を発表した。最大8人で乗れるフルサイズワゴンで、車内には高級ミニバン「アルファード」のような本革キャプテンシートを4席も備える。トヨタがプラットフォームを専用開発してまで世に問うこのクルマ、一体、どんな顧客を想定しているのだろうか。

  • トヨタの新型車「グランエース」

    トヨタの新型車「グランエース」。発売は2019年中、価格は現時点で明かされていない

トヨタの新車は8人乗り高級送迎車!

グランエースは全長5,300mm、全幅1,970mm、全高1,990mm、ホイールベース3,210mmのフルサイズワゴン。パワートレインは2.8リッターのクリーンディーゼルエンジンで、レイアウトはフロントエンジン・リアドライブ(FR)だ。実車は「第46回 東京モーターショー2019」のトヨタ車体のブースで見られるが、今回は報道向けの事前公開でクルマを見て、チーフエンジニアにも話を聞いてきた。

車内の仕様は、6人乗りの3列シートと8人乗りの4列シートの2タイプから選択可能。リアシートの1列目と2列目には、ゆったりとした「本革キャプテンシート」を設置する。

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    「グランエース」の室内は、室内長3,290mm(8人乗りは3,365mm)、室内幅1,735mm、室内高1,290mm。写真は3列シート仕様だ

グレード設定など、詳しい情報は現時点で明らかになっていないが、今回の事前説明によると、「プレミアム 3列仕様」というグレードでは、リアシートが2列とも「本革キャプテンシート」になっていて、全てのシートに「パワーリクライニング」「パワーオットマン」「快適温熱シート」といった機能が付いている。リアの1列目に付いている「手動の大倒し機構」を使えば、リア2列目への乗り降りが楽になる。

一方、「G 4列仕様シート」というグレードは、リアシートの1列目は前述の3列仕様と同じだが、2列目は「マニュアルキャプテンシート」となる。リアの3列目は「チップアップシート」で、荷物を積みたい時には座面を折りたたみ、前のシートの後ろにぴたりと付けることでスペースを生み出せる。

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    「グランエース」は車内に4席のキャプテンシートを備える

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    ヴァニティーミラー(天井に付いている鏡)は全てのキャプテンシートで使える

「グランエース」の需要予測は?

グランエースのターゲットユーザーは、「快適な移動空間を求める複数名乗車の顧客(特に法人)」だとトヨタは説明する。例えば、顧客や要人などを送迎したりするケースだ。高級ホテル、空港、観光地などでの活躍を見込んでいるらしい。

「高級な送迎車」といった感じの商品性を備えるグランエース。そういう需要は確かにありそうだが、あったとしても、そんなに大きな市場ではなさそうな気もする。その点について、グランエースのチーフエンジニアを務めたトヨタ車体の石川拓生さんに聞いてみると、以下のような答えが返ってきた。

「今、VIPを乗せるクルマといえば、ミニバンだと『アルファード』が代表的だと思います。ただ、アルファードの場合、リアシートの1列目にはグランエースと同じく“立派”なシートを備えていますが、2列目は“普通”のシートになってしまいます。それだと、複数のVIPは乗れませんし、さらに、シートの後ろに荷物も積めません。例えば、空港やホテルなどで、複数のVIPが荷物を持ってクルマに乗り込むということになると、アルファードだと小さいんです。ただ、それより広いクルマを探すとなると、バスになってしまいます。その中間の商品が必要なのではと考えました」

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    VIP4人とVIPの大事な荷物を積める「グランエース」。そういったクルマに対する需要は確かにあるし、市場は今後も育つというのがトヨタの見立てだ

複数のVIPを送迎するクルマの市場は、「『ある』ということ以上に、これから『できる』のではないか」というのが石川さんの見方だ。

とはいえ、プラットフォームを専用開発してまでグランエースを商品化するのは、かなり大胆な決断のようにも思える。このあたりの事情について石川さんは、「この大きさと重さだと、トヨタに兄弟車となるクルマがありませんので、作ろうと思ったら、プラットフォームからやるしかないですよね」とする。プラットフォームから作ったことにより、グランエースではトヨタでトップクラスの高い剛性を実現できているそう。新開発のサスペンションを採用して乗り心地を高め、静粛性や車内からの視界の明瞭度にもこだわったそうだ。

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    トヨタが「圧倒的な存在感と高級感」を実現したと自負する外観。「アルファード」や「ヴェルファイヤ」などにも通じるギラギラ感が目を引く

トヨタはグランエースを海外でも販売する。そこに、大きな需要が育ちそうな気配を石川さんは感じ取っている様子だ。

「海外の需要はあると思っていますし、伸びるのではないかと見ています。実際のところ、欧米から新興国に行く人たちが乗るクルマは、なかなかないというのが現実なのではないでしょうか」

これから伸びそうな高級送迎車市場を見据えるトヨタ。実はこの市場、ライバルも少ないのだ。日本メーカーに同じような用途で使えそうなクルマはないし、海外勢を見ても、競合はメルセデス・ベンツ「Vクラス」くらいだ。

では、グランエースは法人や組織だけに売るのかといえば、そうではない。石川さんは「大きな家族」や「改造メーカー」などに、このクルマで訴求していきたいと意欲を示す。大きなスペースを備えるクルマなので、確かに改造のしがいはありそうだ。

最後に、「グランエース」という車名の由来についても聞いてみた。予想は「ハイエースの高級車バージョン」だったのだが、石川さんによれば「やっぱり、トヨタには『タウンエース』や『ハイエース』、『トヨエース』などのクルマがありますので、そのイメージが強いと思うんですが、今回は、あくまで高級な送迎車ということで、『1番』とか『第一人者』という意味で『エース』と付けました」とのことだった。