アップルのiPhone 11シリーズがいよいよ登場します。「カメラが増えただけじゃないの?」といぶかしがる声もありますが、追加された超広角カメラはこれまでのスマホやレンズ交換式カメラでも不可能だった撮影を可能にしてくれるなど、革命的な存在だと感じました。鹿野貴司カメラマンとともに、iPhone 11とiPhone 11 Proのカメラ機能の実力をチェックしていきたいと思います。

  • 9月20日に販売が始まるiPhone 11シリーズ。これまでにない機能をもたらす超広角カメラの搭載が、写真ファンのみならずSNSを楽しむ一般ユーザーにとっても注目の存在となりそうだ

    9月20日に販売が始まるiPhone 11シリーズ。これまでにない機能をもたらす超広角カメラの搭載が、写真ファンのみならずSNSを楽しむ一般ユーザーにとっても注目の存在となりそうだ

iPhone 11シリーズは「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone 11 Pro Max」の3機種とも、初めて超広角カメラを搭載したのが特徴。35mm判換算で13mm相当の超広角レンズは、レンズ交換式カメラの交換レンズでも持っている人がきわめて少ない特殊な存在で、カメラマニアではない多くの人が日常的に持ち歩くiPhoneで13mmの超広角撮影が気軽に楽しめるのは画期的といえます。

  • iPhone 11 Pro Max(左)とiPhone 11 Proは3眼カメラ、iPhone 11は2眼カメラを搭載。手ごろな価格のiPhone 11にも超広角カメラが搭載されたのがポイントだ

この超広角カメラですが、単に「ワイドに撮れる」だけではありません。iPhone 11では、広角カメラや望遠カメラと同時に撮影して高度な画像処理を実行することで、最新ミラーレスでも不可能なさまざまな機能をもたらしてくれます。この点については、追って詳しく解説したいと思います。

iPhone 11 Proは、3つのカメラが三角形のように配置されています。「3つを直線的に並べたほうが見た目がよい」という意見もありますが、フラッシュやマイクを含めてコンパクトにまとめるためにこの配置にしたとのこと。それぞれのレンズの距離が最小限で視差が抑えられ、画像合成時のズレが少なくなるメリットを狙った可能性もあります。

  • iPhone 11 Pro/Pro Maxの3眼カメラ。一番上が広角カメラ、左下が望遠カメラ、右が新たに追加された超広角カメラだ。カメラ以外にフラッシュとマイクを配置している

超広角カメラはオートフォーカスのないパンフォーカスで、手ぶれ補正機構は搭載していません。また、センサーの1画素あたりのピッチは、広角カメラが1.4μmなのに対し、超広角カメラは1.0μmとのことです。画素数はどのカメラも1200万画素なので、超広角カメラはセンサーサイズが若干小さいことが分かります。画質面では若干不利になりますが、超広角だと大きくなってしまうレンズ部をコンパクトにまとめるための選択だったと考えられます。

超広角は迫力や広がりのある描写が楽しめる

前述の通り、超広角カメラは従来のiPhoneのカメラよりもワイドに撮れるのが特徴。室内での撮影や大きな建物を撮る際など、後ろに下がれない状況でも被写体を切らずに収められます。13mm相当の超広角カメラと26mm相当の広角カメラ、数字の違いは13mmしかありませんが、広角域は1mmの違いでも大きな変化がもたらされるため、両者を比べると描写の違いは圧倒的といえます。

  • 超広角カメラ(13mm相当)

  • 広角カメラ(26mm相当)

  • 望遠カメラ(52mm相当)

  • 東京駅丸の内口を見下ろす感じで撮影。13mm相当の超広角カメラと26mm相当の画角の差はかなり大きい(撮影:鹿野貴司)

  • 超広角カメラ(13mm相当)

  • 広角カメラ(26mm相当)

  • 望遠カメラ(52mm相当)

  • 1mぐらい先にあるウォールの装飾を撮影。これぐらい被写体との距離が近いと、超広角レンズのゆがみが目立つ

超広角は、強い遠近感を伴った撮影が可能で、描写に迫力や広がり感が生まれるのも特徴です。人物を下からアオリで撮影すると、足長効果も生まれます。このような超広角特有の描写を利用すれば、表現力がグッと高まるでしょう。

  • iPhone 11で新たに搭載された超広角レンズは13mm相当。一眼レフやミラーレスでこの画角を撮るには、iPhoneよりも高価なレンズが必要になる。わずかに歪曲収差があるものの素直で補正しやすく、iPhone 11は正直プロが仕事で使えるツールだと感じる(撮影:鹿野貴司)

  • 有名な浅草寺を撮影。これほどのワイド感や迫力は、一般的なスマートフォンや一眼カメラのキットレンズでは得られない(撮影:鹿野貴司)

  • あらゆるものが画面に写り込むため、使いこなしが難しいのが超広角レンズ。被写体にぐっと近寄って、ポイントを明確にするのが定石といえる。以前のiPhoneに比べると、青空がクリアに再現される印象を受けた(撮影:鹿野貴司)

  • 超広角レンズの強烈な遠近感を生かすべく、ローアングルで撮影。足を長く表現してみた。13mm相当という焦点距離はアクションカム並みの広さだが、静止画でもいろいろな表現ができそう(撮影:鹿野貴司 モデル:桂華)

少し前、アクションカム「GoPro」の超広角レンズがもたらす独特な描写がインスタグラムを楽しむ人の間で話題になりましたが、これからはiPhoneだけで同様のユニークな描写が楽しめます。

鹿野カメラマンは「13mm相当という焦点距離は仕事でも作品でもめったに使いません。なのでスペックを聞いたときは『必要?』と思ったのですが、実写すると違和感がなく、しかも撮っていて楽しいのです。広くて精細感のあるディスプレイのおかげかもしれませんが、空間を丸ごと写し込む独特な感覚はクセになりそうです」と評価していました。

フレーム外の情報を自動で撮影し、撮影後に画角を広げられる

iPhone 11で驚かされた機能の1つが、写真を撮る際に超広角カメラを含む複数のカメラを同時に使って撮影し、本来はフレーム外にある情報をあとから取り戻せることです。

文字だけでは分かりづらいと思いますので、以下の実写を基に解説したいと思います。高速道路を走るクルマをデジタルズームで撮影したのですが、一瞬のことだったので奥のクルマの車体や手前のクルマのタイヤが切れてしまいました。

  • 189mm相当のデジタルズームで撮影した写真。手前や奥のクルマが中途半端に切れてしまった

しかし、編集画面に移行してトリミングモードに入り、回転用のゲージをスワイプすると、フレームの周囲に外側の領域の写真が表示されました。iPhone 11では、撮影時に超広角カメラや広角カメラがとらえたフレーム外の情報を一緒に記録し、編集の際にその情報を利用できる仕組みが備わっているのです。

  • 編集画面でトリミングをしようとすると、撮影した写真の外側の領域が現れた

この仕組みにより、写真を回転させた際に周囲が切り取られてしまう可能性が少なくなるほか、外側の領域をそのまま生かして撮影時よりも広角の写真に仕上げることが可能になります。通常、撮影後の編集は画角を狭くすることしかできないので、逆に画角を広げられるのは革命的だと感じます。既存のスマホやカメラでは不可能な「タイムマシン」的な機能といえます。

  • 外側の領域が利用できることで、写真を回転させても画角が狭くなることがない

  • 写真を回転させずにピンチインすれば、外側の領域をまるまる生かすことも可能

  • 外側の領域を全部生かして改めて保存した写真。手前のクルマのタイヤや奥のクルマがまるまる収められ、納得できる結果となった。不自然なつなぎ目も確認できない。画像サイズは、標準の4032×3024ドットから5648×4240ドットに大きくなった

撮影時に保存したフレーム外の情報は、撮影の30日後に自動で削除されるため(編集で利用した場合は延長される)、ストレージ容量の圧迫を防げます。この機能、標準では動画撮影時のみ有効で写真撮影時は無効になっているので、事前に設定の「カメラ」→「構図」の項目で変更しておかないと利用できません。ぜひ有効にしておきましょう。

  • 「写真のフレームの外側を含めて撮影」の項目は、なぜか標準ではオフになっている。iPhone 11を購入したら、まずオンに切り替えておきたい

注意したいのが、この機能は広角カメラか望遠カメラで撮影した場合に限られ、超広角カメラでの撮影時は有効にならないなど、すべての撮影で利用できるわけではないこと。フレーム外の情報が記録された写真は、右上に「★」マーク付きのアイコンが表示されるので判別できます。

  • フレーム外の情報が格納された写真は「★」マーク付きのアイコンが表示される

この機能が備わったおかげで、撮影時にはフレームの外にもライブビューが表示されるようになったのも特筆できます。光学ファインダーを搭載する一眼レフカメラのように、撮影されない領域の状況も確認できるようになり、動く被写体の撮影時などに便利に活躍しそうです。

  • 撮影時、フレームの外の様子が薄く表示され、周囲の状況が確認できるようになった

鹿野カメラマンは「トリミングで不要な部分をカットすることは写真の一般的技法ですが、写っていない範囲を後から加えるという経験はないので、実際試してみると不思議な感覚です。ただ端にたまたま写り込んだ人やモノを、意識してフレームに収めればよかったな……と思うことは僕もときどきあります。決して多用する機能ではないと思いますが、“あってよかった”と感じることは確実にあるはず」と評価します。