宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は9月11日、H-IIBロケット8号機を打ち上げる予定だったが、同日3時5分頃、移動発射台(ML)の開口部付近で火災の発生を確認。原因の調査や機体・設備への影響の確認に時間を要するため、打ち上げの延期を決めた。なお放水等の消火活動により、5時10分頃、炎は見えなくなった模様だ。

  • J-IIB・8号機

    火災発生時の射点。打ち上げてもいないのに、炎が見える (撮影:柴田孔明)

火災が発生したのは、ロケットを搭載している移動発射台。この移動発射台は、ロケットをVAB(大型ロケット組立棟)から射点へ運ぶのに使用。射点では、移動発射台を介して、ロケットの点検や燃料充填などを行う機能がある。

ロケットはこの移動発射台の上に乗っているが、打ち上げ時の噴煙を逃がすため、第1段と固体ロケットブースタの下に開口部が設けられている。今回火災が発生したのは、第1段用の開口部の側面だという。火災発生時の映像を見ると、遠くからでも炎がはっきりと確認でき、かなり激しく燃えたことが分かる。

出火時の映像。中継していたnvs-live.comのカメラが捉えた (C)nvs-live.com

JAXA/MHIは、同日6時すぎから記者会見を開催、現在の状況について説明した。最も気になるのは何が燃えたのか、ということであるが、これは現時点で不明。もともと、高熱にさらされる部分であるため、鋼鉄製の構造に、断熱材を塗装している。通常であれば、何かが燃えることは考えにくい場所だ。

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    H-IIB用の移動発射台(左)。噴煙を逃がすための開口部が5つ見える (C)JAXA

火災が発生したのは、燃料の充填が完了した後で、機能確認を行っていたフェーズだという。ただ、射点に設置されているガス検知器に反応は無かったため、燃料のリークは可能性が低い。火災の確認後、燃料の排出を行っており、爆発する心配は無くなっている。

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    夜が明けてからの射点。すでに火災は鎮火した模様だ (撮影:柴田孔明)

移動発射台はH-IIAロケットでも使用しているが、火災の発生はこれが初めて。会見に出席したMHIの担当者も「正直初めてのケースで、どこに原因があるのか見えていない」と、戸惑いを隠せなかった。なおH-IIBで使われる移動発射台(ML3)はH-IIB専用となっており、使用するのは今回で8回目。前日の点検でも、特に異常は無かったという。

ロケット本体へのダメージの有無も現時点では不明。今後、安全が確認でき次第、射点に作業員を派遣し、移動発射台の状態など、詳しく調査する予定だ。

状況がまだ詳しく分からないため、再打ち上げの日程の見通しは立っていない。天候による延期であれば、最短で3日後の打ち上げも可能だが、今回のケースでは難しいだろう。原因の究明と対策に、少なくとも1週間程度は必要なのではないだろうか。なお今回の打ち上げの予備期間は10月末までとなっており、まだ時間はある。

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    前日の機体移動の様子。ロケットが移動発射台に乗っている (撮影:柴田孔明)

H-IIBロケット8号機には、宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機(HTV8)を搭載。船内物資約3.5トン、船外物資約1.9トンの合計約5.4トンの補給物資を、国際宇宙ステーションに輸送する計画だった。ただJAXAによれば、国際宇宙ステーションの物質の備蓄は十分あり、延期による深刻な影響はないということだ。