アリアンスペースは4月18日、日本の宇宙スタートアップ「Synspective」(東京都中央区)より、合成開口レーダー(SAR)衛星「StriX-α」の打ち上げ契約を受注したことを発表した。小型ロケット「ヴェガ」に搭載し、ギアナ宇宙センターより2020年に打ち上げる予定。日本企業の衛星にヴェガが使われるのはこれが初めてだ。

  • StriX-α

    Synspectiveの小型SAR衛星「StriX-α」のモックアップ(1/10スケール)

Synspectiveは、SAR衛星を使った地球観測サービスの提供を計画している宇宙スタートアップである。StriX-αはその技術実証機という位置付けで、同社は今後、2022年までに6機を打ち上げ、アジアをカバーするコンステレーション観測網を構築。その後に衛星を25機まで増やして、サービス提供エリアを全世界に拡大する計画だ。

  • Synspectiveの打ち上げ計画

    Synspectiveの打ち上げ計画。最終的には25機まで拡大することを目指す

同日公開された調印式には、アリアンスペースのステファン・イズラエルCEOとSynspectiveの新井元行 代表取締役CEOが出席。アリアンスペースを選んだ理由について、新井氏は「我々にとって1機目の衛星は非常に重要。ロケットの信頼性の高さや、業界のリーディングカンパニーであることを重視した」と説明した。

  • 調印式の様子

    調印式の様子。右がアリアンスペースのステファン・イズラエルCEO、左がSynspectiveの新井元行代表取締役CEO

100kg級の小型衛星による地球観測では光学衛星が使われることが多いが、StriX-αの特徴はSAR衛星であること。電波は雲を通過するため、雨が降っている地域でも地表を観測できるというメリットがある。また自ら電波を出して、反射波を観測するため、昼でも夜でも関係無く観測することが可能だ。

しかしSARによる観測には、大きなアンテナが必要で、使用する電力も大きかったため、これまで衛星の小型化が難しかった。だがStriX-αは、国の「革新的研究開発プログラム」(ImPACT)で開発した成果を活用。「受動平面展開アンテナ方式」を採用することで、重量わずか150kg程度の小型衛星で実用的なSAR観測を実現した。

このアンテナは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の齋藤宏文氏と東京工業大学の廣川二郎氏が開発した技術。従来主流だった「アクティブフェーズドアレイ方式」とも「パラボラ方式」とも異なる方式で、高密度収納性と軽量性が特徴だという。衛星本体のサイズも、50cm×70cm×90cm程度と非常にコンパクトだ。

  • アンテナの裏面は太陽電池

    大きな電力を得るために、アンテナの裏面は太陽電池となっている

  • 打ち上げ時にはこのように格納

    打ち上げ時にはこのように格納。非常にコンパクトに畳むことができる

  • 衛星のこちらの面は全体が放熱面

    使用電力が大きいので、衛星のこちらの面は全体が放熱面となっている

衛星の詳細なスペックについては、まだ同社Webサイトにも記載が無いが、軌道上で一辺70cmのパネルを7枚並べて、長さ約5mのアンテナを展開。Xバンドの電波を使い、3m程度の地上分解能で観測を行う予定だという。観測幅は30km程度。電力の制約により、撮影時間は1日で合計15分程度になるものの、実用上問題は無いとみられる。

StriX-αを打ち上げるヴェガは、多数の小型衛星が相乗りするライドシェアとなる模様。そのため軌道を自由に選ぶことはできず、今回は高度500~600km程度の太陽同期軌道に投入される予定だが、実用機ではより中緯度地方を重視した軌道にすることも検討されているそうだ。

  • 調印式後のフォトセッション

    調印式後のフォトセッションには、アリアンスペースとSynspectiveの関係者が並んだ

また両社は今回、打ち上げ契約に加えて、戦略的パートナーシップ契約に調印したことも明らかにした。これについて、アリアンスペース東京事務所の高松聖司代表は、「打ち上げ企業と衛星運用企業がより深く関わって協力しながら、未来の成功のために何が必要かを積極的に検討していくもの」と説明する。

アリアンスペースが日本で最初の商業通信衛星「JCSAT-1」を打ち上げたのは平成元年(1989年)のこと。その後、商用の通信・放送衛星は当たり前の存在となり、何機も打ち上げられることになるが、高松代表は「商用の通信・放送衛星がビジネスとして成立するのかどうか、当時はまだ不透明だった」と、このときの状況を振り返る。

現在、宇宙業界はニュースペース(新しい宇宙産業)が大きな話題となっている。これを「新しい時代の到来」と見るか、それとも「バブルに過ぎない」と見るか。さまざまな見方があるだろうが、高松代表は「この状況は平成元年の当時と似ている」と指摘。「重要なのは本物かバブルか結果が出るのを待つのでは無く、顧客と協力して未来を作っていくこと」だと述べる。

同社は商業静止衛星の打ち上げで世界最大のシェアを誇るが、単に市場の拡大にうまく乗っかったのではなく、「顧客と協力しながら、ビジネスの発展に貢献してきた」(高松代表)と自負する。

今後、スタートアップの活動がさらに活発になれば、静止軌道以外への打ち上げが増えるだろうし、ライドシェアで大量に搭載することも増えるだろう。今回のパートナーシップは、Synspectiveからニーズを汲み上げ、通信・放送衛星のときと同じように、新しい市場でも「顧客とともに成功を作っていく」(同)姿勢の現れとみることができそうだ。

  • 高松聖司

    アリアンスペース東京事務所の高松聖司代表

なお小型SAR衛星は、九州大学の技術をベースとするQPS研究所も開発を進めているところ。こちらは展開型のパラボラアンテナを採用した衛星で、2019年にも1号機を打ち上げる計画であるとされる。衛星を軌道に投入する前から、スタートアップによる競争はすでに過熱しつつある。