キヤノンがフルサイズミラーレスの新製品「EOS RP」を発表しました。実機を手にして驚かされるのが、フルサイズ機とは思えない小型軽量ボディー。キヤノン自身も「フルサイズなのにキスデジよりも軽い!」と自社の売れ筋製品を引き合いに出してアピールするほどです。そんなコンパクトに仕上げたEOS RPにゾッコン惚れた点は何なのか、どのような課題を感じたのか、発表会を改めて振り返ってみたいと思います。

  • キヤノンのフルサイズミラーレスの入門機「EOS RP」

    キヤノンが3月中旬に販売を開始するフルサイズミラーレスの入門機「EOS RP」。ボディー単体モデルの実売価格は税込み17万3000円前後

小型軽量ボディーに心奪われる

キヤノンは、2018年9月にフルサイズミラーレスへの参入を発表し、高性能モデル「EOS R」を10月に発売しました。それからわずか4カ月で、入門者向けモデルのEOS RPを追加したことになります。プロ向けの高性能モデルよりも先に普及価格帯モデルを投入したことにも、フルサイズミラーレスを幅広い層に浸透させてトップシェアを狙いたい、という意図が感じられます。

EOS RPを手にしてまず驚くのが、フルサイズ機とは思えないボディーの小ささと軽さ。APS-C型センサーを搭載するデジタル一眼レフの入門機「EOS Kiss X9i」よりも高さや奥行きは短く、重さは1割近くも軽くなっています。フルサイズでこの小ささや軽さに仕上げたのは大いに魅力的です。

  • 本体の小型軽量ぶりが印象的なEOS RP。写真のレンズは開放F4通しの標準ズームレンズ「RF24-105mm F4L IS USM」だが、レンズがかなり大きく感じる

  • レンズキットで組み合わされる単焦点レンズ「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」を装着すると、かなりバランスがよいと感じる。写真は販売台数限定のゴールドモデル

  • EOS RPはフルサイズセンサーを搭載していながら、APS-Cデジタル一眼レフの入門機「EOS Kiss X9i」よりも軽い

  • 同じフルサイズセンサーを搭載するデジタル一眼レフ「EOS 6D Mark II」との本体サイズの差は圧倒的だ

ボディーの小型化で「ホールドした際に指が余る」という声に対して、底面に装着する「エクステンショングリップ EG-E1」を純正で用意した点も評価できます。これを装着すると、小指あまりもなく安定してホールドできるようになりました。装着時も三脚への固定やバッテリー交換ができる構造になっているのも、純正ならではの安心感といえます。

  • EOS RP専用の「エクステンショングリップ EG-E1」。発売記念期間中にEOS RPを購入した人に対して無料でプレゼントされる

  • 底面に装着すれば、グリップの“小指あまり”が解消できる

希望小売価格は税別9,500円ですが、発売記念期間中にEOS RPを購入した人全員にEG-E1をプレゼントするキャンペーンを実施しており、実質無料で入手できるのは魅力的だと感じます。

さらに、EOS RPは入門者向けモデルという位置づけながら、上位機種のEOS Rと比べて機能や装備をあまり削っていない点が好印象です。画素数や連写性能、EVFや液晶の表示性能、情報表示パネルの削減などで差が付けられていますが、それ以外の相違点は入門者にはあまり重要視されない部分が大半なので、おいしいところを落とさずキープしたと感じます。EOS Rシリーズの新しさを象徴する背面のマルチファンクションバーは省かれましたが、操作系はオーソドックスに使いやすくまとめられており、不満は感じませんでした。

大口径ズームでも小さく設計できるRFレンズ

レンズ交換式カメラで重要となる交換レンズは、期待と課題を感じました。

期待を感じたのが、EOS RPと同じタイミングで開発発表した6本のRFマウントレンズで、いわゆる“大三元ズーム”と呼ばれる開放F2.8のズームレンズ3本も含まれます。

  • “大三元ズーム”として人気のあるF2.8の超広角ズーム、標準ズーム、望遠ズームのRFマウント版。展示されていたのはモックアップで、外観は変わる可能性もあるとした

なかでも特に目を引いたのが、望遠ズーム「RF70-200mm F2.8 L IS USM」のコンパクトさ。焦点距離や開放F値が同じEFマウント版の「EF70-200mm F2.8L IS III USM」と比べると、全長がかなり短くなっているのに驚かされました。RF70-200mmは、側面にズーム機構のロック用と思われるスイッチが設けられていることから、インナーズームのEFマウント版とは異なり、ズーム時に長くなるタイプの構造とみられます。

  • 望遠ズームレンズ「RF70-200mm F2.8 L IS USM」。EFマウント版と比べて圧倒的に短く、ずんぐりした印象だ

  • 側面には「LOCK」と書かれたスイッチが。キヤノンの担当者いわく「ノーコメント」とのことだが、ズームのロック機構だと推測できる

  • EFマウント版の「EF70-200mm F2.8L IS III USM」(左)と並べたところ。長さの圧倒的な違いが見て取れる。RFマウント版はEFマウント版よりも径がいくぶん太いようだ

キヤノンが2018年12月に開催したEOS Rの技術説明会では、ショートバックフォーカスで大口径のRFマウントは後玉が大きくできるため、レンズの構成がシンプルで済み、交換レンズ自体がコンパクトに設計できるという説明がありました。大きく重いのは当たり前だった大口径ズームでも大幅にコンパクトになる、ということがモックアップとはいえ実際に示されたのは大きいと感じます。

  • 2018年12月の技術説明会で示された、ショートバックフォーカスと大口径マウントのメリットを解説したスライド。理想とするレンズに近い状態で構成でき、レンズの肥大化を招かずに済む(右下)

手ごろな価格&サイズのズームレンズが欲しい

一方で課題だと感じたのが、手ごろな価格のレンズが圧倒的に不足していること。今回開発発表した6本を含め、RFレンズは大半が高性能のLレンズとなっており、非Lレンズは発売中の単焦点レンズ「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」と開発発表した高倍率ズームレンズ「RF24-240mm F4-6.3 IS USM」の2本しかありません。

  • 開発発表のレンズを含めたRFレンズのラインアップ。大半がLレンズで、通常タイプのレンズは2本しかない

そのあおりを受け、EOS RPのキットレンズは24-105mmのズームではなく単焦点のRF35mm F1.8となってしまいました。コンパクトな設計のRF35mm F1.8はEOS RPとのマッチングこそ上々ですが、さすがに単焦点の35mmレンズ1本だけでは入門者にとってハードルが高いはず。マウントアダプター付きのキットを買えば手持ちのEFレンズが使えますが、EOS RPの売りである軽量コンパクトさはいくぶん損なわれてしまいます。

EOS Kissシリーズのキットレンズのような軽量コンパクトで手ごろな価格の標準ズームレンズや望遠ズームが待ち望まれるところですが、残念ながらしばらく登場しない見込みとなっています。EOS RPの発表会で示された交換レンズのロードマップを見ると、2019年は開発発表した6本の交換レンズが登場する予定ですが、2020年は「開発中」とだけ記されており、具体的なレンズの種類や名称は明らかにされませんでした。

  • EOS RPの発表会で示されたRFレンズの開発ロードマップ。2020年以降は、どのようなレンズが登場するのか具体的に明かしていない

レンズ交換式カメラは、交換レンズのラインアップの幅広さもシステムの価値につながります。EOS RPはサイズと性能、価格のバランスが魅力的なだけに、このボディーにマッチする扱いやすい交換レンズが不足しているのが玉にきず。早期の拡充を望みたいところです。