『コンドールマン』DVD(VOL.1)ジャケットビジュアル(著者私物)

NTTドコモ「星プロ」シリーズの新作CMに、1975年に放送された東映製作の特撮テレビドラマ『コンドールマン』(原作:川内康範)で活躍した悪役キャラクター「ゼニクレージー」が登場し、往年のゼニクレージーを知る特撮ファンのみならず、多くの人々から注目を集めた。

「星プロ」シリーズとは、さまざまなキャラクターが集まる「キャラまち」で、"いまいち"人気のない3匹のキャラクター、ドニマル(演:新田真剣佑)、コスモフ(演:長谷川博己)、モンジュウロウ(演:浜辺美波)が、プロデューサーの星あゆむ(演:星野源)と出会ったことによって、世界一の、いや、まずは地元でいちばんくらいの人気者になるという"夢"を追いかける物語。これまでにも、NTTドコモのキャンペーンと連動するかたちで個性豊かなキャラクターを活かしたユニークなCMが作られてきた。

「星プロ」こと星プロデューサーの手腕によるものか、はたまた3匹のキャラクターに備わっていた高いポテンシャルの賜物か、彼らとのコラボレーションを引き受ける企業も多く現れた。2018年12月には、「平成仮面ライダー」シリーズ20作目を記念した東映製作の劇場映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』とのコラボというビッグな仕事が3匹に舞い込み、映画本編への出演を果たしたほか、「平成FOREVER! 大集合!平成と仮面ライダー」と銘打たれた"仮面ライダーと共に平成の時代をふりかえる"というWEB企画でも活躍した。

また、現在好評放映中の特撮テレビドラマ『仮面ライダージオウ』の枠内で放送された「光るそば」編では、『仮面ライダーエグゼイド』(2016年)の「仮面ライダーエグゼイド ムテキゲーマー」がCMキャラクターとして登場し、その光り輝くカッコイイ立ち振る舞いでNTTドコモのインターネット光回線をアピール。意外なところでのエグゼイド"復活"に仮面ライダーファンはしばし驚愕し、やがて歓喜した。

最新CMでは、「キャッシュレス」による支払いの活用法を広めるべく、"現金代表"という看板を背負ってわれらのゼニクレージーが44年ぶりにミラクルな"復活"を遂げることになった。

『コンドールマン』とは、かつて『月光仮面』(1958年/宣弘社)、『七色仮面』(1959年/東映)など国産テレビヒーロー黎明期の傑作を生みだし、1970年代に入ってからも『レインボーマン』(1972年/東宝)、『ダイヤモンド・アイ』(1973年/東宝)といった意欲的な特撮ヒーローを創造してきた原作者・川内康範氏が原作を手がけた作品のひとつである。

人間の醜い欲望から生まれた「モンスター一族」によって命を失った青年・三矢一心(演:佐藤仁哉)の正義を愛する心と、古代ムー帝国の守り神ドラゴンコンドルの鋼の身体、その子・ゴールデンコンドルの不屈の闘志が合体して生まれ変わった"合成鳥人"コンドールマンは、人間社会にまぎれて悪事の限りを尽くすモンスターの正体を見破るコンドールアイや、必殺技スリークッションキック(壁を複数回蹴りつけ、その反動を利用して敵にキックを浴びせる)などの超能力を駆使して、善良なる人々の愛と平和を守るため命を懸けて戦う"正義のシンボル"と呼ばれるヒーローである。

人間の尽きせぬ"欲望"が生み出したモンスター一族の面々は、みな現実の世界におけるマイナスでダークな"社会問題"を具現化した、ユニークなデザイン・造形が施されているのが大きな特徴。たとえば、大気汚染を巻き起こす「スモッグトン」、居住区にゴミをまき散らす「ゴミゴン」、海を汚染する「ヘドロンガー」、そして飢える人々をあざ笑いながら自分だけ飽食の限りを尽くす「バーベQ」とその妻「マダムバーベQ」、汚れた環境が大好きな「ゴキブラー」など、一度見たら絶対に忘れられない強烈なるたたずまいを備えた、人間のエゴがむき出しになったような怪物たちがそろっている。その中でもひときわ強いインパクトを残したのが、"金銭欲の権化"というべきゼニクレージーであった。

  • NTTドコモ公式サイトより

『コンドールマン』のエンディングテーマは「ザ・モンスター」と題され、人間社会を混乱に巻き起こそうとするモンスターの特徴が1番(ゼニクレージー)2番(ヘドロンガー)3番(ゴミゴン)の順番で歌われている。テレビで毎回流れているのが1番のみなので、自然とゼニクレージーの存在感が他のモンスターよりも強くなっているところがある。何より、巨大なコインを模した頭部に、邪悪そうな人間の顔(演:井上誠吾)がついていて、胴体には「¥」マーク、腹には大きながま口財布を備えているというストレートな"金銭欲"推しのスタイルにより、ゼニクレージーは『コンドールマン』きっての人気キャラクターとなっている。

ゼニクレージーは黒井食糧大臣(演:高桐真)という仮の姿を持っており、政治活動そっちのけで金儲けのことばかり考えている。何より現金を好み、たくさんの札束を目にしたとたん、喜びのあまりゼニクレージーの正体を現してしまう。善良かつ弱い立場の庶民のことなどまったく考えず、金のことばかりに執着する「汚職政治家」への風刺が込められたゼニクレージー(黒井大臣)は、「世の中ゼニで買えないものはない」と豪語。コンドールマンとの決戦(第11話)においては、劣勢になるといきなり弱腰になり「ゼニをやるから助けて」と札束を出して懇願するという下劣な手段を用いながら、その札束から強力な冷凍ガスを噴射して反撃を試みるという卑怯・卑劣極まりない戦い方を披露。とことんまでにゼニにこだわったその生き様には、一種のすがすがしさすら感じられた。

現在放送されている15秒CM「ゼニクレージー登場」編では、キャッシュレス時代が訪れたことをバーカウンターで酒を飲みながらボヤくゼニクレージーを、星プロデューサーが発見するところから始まる。星プロデューサーは彼を一目見るなり「あっ、ゼニクレージー!」と、ちょっと嬉しそうな表情で声を上げており、以前からゼニクレージーというキャラクターを知っていたことがうかがえる。ゼニクレージーは「現金の力を見せてやる!」と高笑いしながら何枚ものコインを現出させるものの、マスターから「(代金が)足りない」と言われて大慌てする……というのが、CMの大まかな内容である。

『コンドールマン』が掲載された雑誌『テレビランド』(徳間書店)表紙。1975年4月は、『仮面ライダーストロンガー』『秘密戦隊ゴレンジャー』『コンドールマン』という東映の3大ヒーロー作品が同時に始まっている(著者私物)

『コンドールマン』で大量の現金を求めて悪の限りを尽くしていたゼニクレージーも、長い年月を経てかなり悪らつさが消えてコミカルさを増してきた印象だが、その突拍子もないユニークなたたずまいがもたらすインパクトはいまだ健在で、『コンドールマン』での活躍当時と何ら変わりがなかった。ゆくゆくは、ゼニクレージーの宿敵・コンドールマンおよび、愛すべきモンスター一族の仲間たちの"復活"にも期待をかけたいところだ。